洞窟の奥へ
フライアイの攻撃でPDがボロボロになってしまった。しかも、ミコトの魔術も効かない。物理攻撃はといえば、手が届く高さには降りてこない。
どうすればいいかと悩んでいれば、グレートファングが牙を剥いてくる。フライアイが第二波を放とうと黒い球が再び空中に現れる。
「く、でもまだよ! <ドールリカバー>」
ミサオの術でPDの受けていた傷が癒やされ、元の状態に戻った。だけど、PDが元に戻った所で、攻撃手段が今の俺たちには皆無だ。
「PD! アスカ!」
ミサオの呼び掛けにPDが俺の方へと駆けてくる。
「どうしたんだ!?」
「こうするのよ!」
ミサオの言葉と同時にPDが俺の体を抱え上げる。
「おい! こらっ! 何して……」
文句を言い切る前に、PDが俺をフライアイの方へと投げ出した。
「嘘だろぉぉおおお!」
「物理しか効かなくて、届かないのなら、届く所まで行けばいいじゃない!」
投げ出された俺はフライアイに手が届く所まで一気に上がった。
あいつ、絶対覚えていろよ!
「くそがぁっ!」
フライアイは驚いて避ける事も忘れているようだ。思いっ切りデカい目玉を殴るとそのまま一緒に投げられた勢いのまま更に上へと昇っていく。そのまま天井まで届き、俺とフライアイは地面に向かって落下を始める。
「うわぁぁぁぁあああ!」
落下中に下を見れば、PDが残りのグレートファングを片付け終わり、落下してくる俺たちの方を見上げていた。
「どうする? どうする? どうする!?」
この高さから落ちたら只じゃ済まない。そうだ。このフライアイをクッションにすれば。さっき殴った時の感触はブニョっとして柔らかく、弾力があった。少しは助かる確率が上がるかもしれない。
フライアイの翼を掴み、逃げないようにする。
地面がどんどん近付いて来る。
腕を伸ばし、フライアイがクッションになるように突き出すと、
どぉぉぉおおおおん!
フライアイが地面に激突した。俺は目を瞑る。あれ、地面に叩きつけられる感触が無い? 恐る恐る目を開けると、俺の足をPDが掴み、地面にぶつかる前に止めていた。
「た、助かった」
「アスカ! 大丈夫!?」
ミコトが駆け寄って来るとPDが掴んでいた足を離す。
「痛っ! こら、急に離すなよ」
PDは主人であるミサオの方を向いて動かない。まあ、人形だからしょうがないのか?
そういえばフライアイは? 地面に叩きつけられて死んでいた。
「何とか片付いたね」
「こら、ミサオ! 片付いたね、じゃないぞ! 死ぬ所だったじゃないか!」
「PDでちゃんと助ける予定だったからいいじゃない。結果オーライでしょ」
「くっ……」
確かに、このピンチを切り抜けられた事には違い無いのは事実だけど、納得出来ない。
「ちょっと休憩しましょうか」
ミコトが<ホーリーバリア>を張り直す。
「ちょっと疲れたでしょう? アスカもあんな目に合った後だし」
「そうだな。ついでに、<感知>でもう一度この先を調べておくよ」
「ありがと!」
<感知>を使ったがおかしい……。
ここに入って来た時よりモンスターの数がかなり減っている。俺たちが倒したとは言ってももっと居たはずだ。そう。頭が痛くなるくらい多かったはずなのに、今感じられるのは六体。いや、五体に減った。何かがモンスターを倒している。
「俺たちが入るより前に入った奴がいる? いや、最初に調べた時にはそんな反応はなかった」
あとから入った挑戦者に追い抜かれた? それも無いか。一体何が起きているのか? 考えてもしょうがないか。俺は思いっ切り背伸びをしてから脱力し、二人に状況を説明した。
「う……ん。ふぅ。奥にはあとモンスターが五体だな」
「思っていたより少ないね」
「いや、おかしいんだよ」
「何が?」
「ここに入った時はもっとモンスターが居たんだ。なのに、今は残りが五体だけ。おかしいだろ?」
「そうだね。気を付けよ。それよりアスカ。それ」
ミコトが俺の手を指差す。手を見てみれば両手のスライムブロウが無くなっていた。
「あ、スライムブロウが。気が付かなかったな」
<修練>が終わったみたいだ。早速ステータスプレートを確認すると、あった<癒しの光>。名前から想像するに回復系のスキルかな? スキル名を押して、詳細を見て驚いた。
傷を癒やすのは元より、魔力の回復もする。魔力の回復量は少ないが、このアイテムを使えないダンジョンには重宝するスキルだ。
「都合が良すぎるけど、これなら多少は無茶が効くな」
それに装備も変えられる。右手にオーガファング、左手にオークハイファングを装備する。
「それにしても、モンスターの死体が残っているとちょっとあれだな」
「そうだね。いつも、光の粒子に変わるから気にしていなかったけど、ちょっと罪悪感というか、ね……」
「何言ってんの? あんた達。殺さないとこっちが殺られるんだから甘いこと言ってたら死ぬよ」
ミサオの言うことも尤もだけど、向こうでも自分の手で生き物を殺した事なんて無いんだよ。姿が残るのはちょっとキツいな。
「そうだ。アル」
俺は<空納>の中に隠れているアルを呼んでみる。
「なぁにぃ?」
俺の呼び掛けにアルが姿を現すと俺はアルに尋ねてみた。
「なあ、このモンスターの死骸、前みたいにお前が食べて素材を出せないか?」
「これを? うぅぅん。ブラッドが創ったモンスターだよねぇ。食べれないことはないけどぉ、素材が出来るかは分からないよぉ?」
「ダメ元だからな。構わないよ。頼む」
アルは静かに頷くと、
「いただきまぁすぅ」
大きく息を吸い込むと同時に地面に転がっていたモンスターの死骸を吸い込んだ。
モグモグ…………。
「あ……」
アルの手から光が発せられ、
「はい。アスカ」
グレートファングの大きな牙とフライアイの目玉を受け取った。
「うわっ。牙はともかく、目玉は気持ち悪いな」
受け取ってすぐに<錬装>で武器化するとビッグファングとストレンジナックルという武器に変わった。それぞれに<鑑定>を使うと装備熟練度が百になった時の取得アーツがある武器だ。
ただ、今は使えない。ビッグファングもストレンジナックルも火力が低い。今装備しているオーガファングとオークハイファングの方がこの洞窟を抜けるまでは良さそうだ。
「へぇ、そうやって武器を作るんだ」
ミサオが<錬装>する所を見て感心していた。
「ああ。俺はこの世界に売られている武器は装備出来ないみたいで、こうやって素材を使って作らないと駄目なんだよ」
「ふぅん。まあ、あたしはそもそも武器が装備出来ないからね。人形用の武器とか作れるようになるかなぁ?」
確かに、ミサオの人形は武器を持っていない。レベルが上がれば俺の<錬装>のようなスキルを覚えるのかもしれない。
「よし、そろそろ行くか」
「「うん」」
「じゃあ、僕はまた隠れるねぇ」
そう言ってアルは<空納>の中に入り、俺たちは洞窟の奥へと進んで行った。




