アスカ無双! オーク戦決着
仮眠を取って二時間くらい経ち、見張りが起こしにやって来た。
「そろそろ交代だ。起きてくれ」
俺とミコトは目を覚まし、起き上がる。
「どうですか?」
「いや、何も動きは無いな」
「諦めてくれたのかな?」
ミコトの質問に俺と見張りをしていた冒険者は首を横に振った。
「諦めてないんじゃないかな」
「そうだな。諦めてくれれば助かるが、違うだろうな。とにかく俺は寝るから、見張りを頼むぞ」
「「はい」」
俺とミコトは馬車から降り、見張りを始める。特に変わった様子もなく、オーク達がやって来る気配も無い。
「うぅぅんっ」
ミコトが大きく伸びをすると、それに合わせるようにアルも出てきた。
「ふぁぁ。おはよぉぉ」
「おはよじゃないだろ。アル。お前、ずっと寝てたろ」
「バレたぁ」
こいつは俺が戦闘中も<空納>の中でずっと寝てたんじゃないかとカマをかけたら、悪気もなく寝てたと答えやがった。まぁいいか。今のアルは戦闘力〇だから、戦闘中は何も出来ないからな。
「アル、オーク達来るかな?」
「来ると思うよぉ」
「そう。アルもそう思うのか」
ミコトは皆からオークが再び攻めて来ると言われ、ようやく諦めたようだ。三人でこれからの事を話しながら三十分位経った。今は夜中の二時位か。障壁の外がほんのり明るくなった気がする。
「あれ? 向こうが明るい?」
太陽が昇るにはまだ早い。明るさが少しずつ強くなり、やがて真っ赤に輝き出した。
「違う! 来たぞ! ミコト、皆を起こすんだ!」
明るいと思ったのは、巨大な炎の塊がこっちに近付いていたからだ。その炎の塊が障壁に当たり、大爆発を起こす。そして、障壁が砕けた。
オーク達がこれまでに与えていたダメージと今の攻撃に耐えられなかったのだろう。一応、まだ障壁は残っている。この障壁は無傷だからまだ暫くは保つはず。
「アスカ、何か雲行き怪しいから、僕、隠れるねぇ」
アルが<空納>の中へと消える。再び、赤い光が近付いて来る。オーク達にこんな攻撃手段があったなら何で今まで使わなかった?
ドォォォン!
障壁に巨大な炎の塊が当たる。まだ破られはしないが、あと何発保つか分からない。
ミコトが皆を起こして戻って来た。そして、三発目の巨大な炎の塊が飛んできて、障壁が破られる。
「二発で破られた!?」
「何だ? あの炎は? オークにあんな攻撃手段があるなんて聞いた事もないぞ」
やはり、冒険者達もオークがおんな攻撃をしてくると思っていなかったみたいだ。障壁が全て消えると炎の塊も止まった。
そして、ドドドドドとこっちへ向かってくる足音が聞こえてくる。
「来るぞ!」
闇夜の向こうからオーク達が走ってくるのが見える。ミコトが<ホーリーバリア>を使おうと叫ぶ。
「<ホーリーバリア>!」
しかし、発動しなかった。
「あれ? 発動しない? <ホーリーバリア>!」
再び叫ぶがやはり発動しない。
「まさか……。おい、<ファイアアロー>を使ってみろ」
バランが冒険者に指示を出す。
「<ファイアアロー>」
冒険者が魔術を唱えるが何も起こらなかった。
「やはり。まさか、魔術阻害まで使えるのか」
「そんな!?」
俺は確かめるようにスキルを使ってみる。
「<アクセルブースト>」
俺の体を赤い光が包み込む。
「どうやら、スキルは使えるみたいだ。<パワーライズ>。あの大群相手に前衛二人か……」
「くそ。防ぎ切れるか……」
はっきり言って厳しい……。いや、無理だろう。二人じゃせいぜい四体を防ぐくらいだ。残りはこっちへ向かってくる。近接攻撃に向かない後衛達では間違いなく殺されてしまうだろう。
「くそっ。何か手は無いか!?」
バランが悔しそうに怒鳴る。いくら<アクセルブースト>で彼奴等より速く動けても厳しいな。せめて、加護の力が発動出来れば、或いは……。
そう思ってステータスプレートを取り出し、確認すると???の加護が白い文字に変わっていた。
「これは、クールタイム完了していたのか!」
どこまでやれるかは分からない。でも、今はこれに賭けるしかない。
「バランさん、今から一分間だけ俺に時間をくれないか」
「どういうことだ?」
「アスカ、ひょっとして?」
ミコトは分かったらしい。俺は頷き、バランに答える。
「今から一分間だけ、この中で一番強くなる。邪魔とは言わないけど、彼奴等に集中したいんだ」
俺の真剣な表情にバランは少し考え、頷いた。
「分かった。お前に賭けよう。皆、今から一分間アスカに任せ、何もするな。責任は俺が取る」
「ふ。責任も何も、失敗したら皆死ぬんだ。よく言うよ」
「任せてくれ。悪いようにはしない。ただ、一分後、俺は動けなくなると思うから、その時は宜しく!」
そして、加護の力を発動する。俺の体が金色の光に包まれた。
「何だ!?」
皆が驚いているが、気にしている暇は無い。一気にオーク達の方へと駆け出す。今の状態で何処までやれるか?
目の前のオークの顔に右拳を突きだす。俺の動きについてこれないオークに簡単に攻撃が入る。すぐさま左拳も叩き込んでみれば、オークは光の粒子と化した。
二発分で倒せる。これならいける。<双牙>を両拳に発動させ、オークを殴っては、次のオークを狙い縦横無尽に駆け回る。
完全に無双状態だ。残り二十秒位で、四十体居たオークはもう残り三体。内一体は、他のオークより体が一回り大きいあのボスと思われる個体。
一先ず、二体を瞬殺する。残り十秒。間に合うか?
いや、間に合わせる!
一回り大きいということは他よりも体力や防御力が上かもしれない。
「いっけぇぇえ!」
<紅蓮><双牙>を右拳に発動させ、間合いを詰める。残り三秒。三秒あれば十分だ!
「<疾風>ぇ!」
渾身の突きがオークを捉える。それと同時に加護の時間切れだ。体を覆っていた金色の光が消え、疲労感から立っていられず座り込む。オークは、光の粒子へと変わり、その場には牙が落ちていた。
「久しぶりのドロップアイテムだな……」
馬車の方から一際大きな歓声が上がっていた。ミコトを先頭に冒険者達が集まってきた。
「凄いじゃないか!」
「そんな力があるのなら最初から使ってくれ」
俺は何とか立ち上がり返事をする。
「これは、さっき使えるようになったんですよ。使用時間も制限あるし、そうそう使える力じゃないんです。すみません」
俺の言葉を聞いたバランが質問してくる。
「あのロックワームクイーンと戦った時に見せた力か」
「はい」
「そうか。お前には何度も助けてもらってどれだけ礼を言っても足りないな」
バランの言葉に照れながらも、俺は質問する。
「そんなことより、魔術は?」
ミコトが俺の質問に対し、<ヒール>を唱えたが、オーク達が全滅したにも関わらず、魔術は発動しなかった。
「駄目……。まだ使えないよ」
バランはすぐに<感知>で周囲を調べるが、効果範囲にはモンスターどころか人も居ない。
「周囲には何も居ないが、魔術阻害の効果だけがまだ継続しているのかもしれないな。取り敢えず、このエリアから離れよう。すぐに出発するぞ!」
馬車へと戻り、馬車を走らせる。幸いにもオークと戦って以降、他のモンスター、賊とは出合う事もなく、無事ブラッド城の麓まで辿り着くことが出来た。




