一時休戦
同じ障壁内にいるオークは残り三体。大剣使いの冒険者は、未進化のオークに対して大剣を構えている。なら、俺はあの魔術を使うオークを相手にするか。
俺が駆け出すのと同時に冒険者も動き出す。俺の狙いに気が付いたのか、魔術を使うオークが俺に向けて<ウォーターアロー>五発を空中に待機させた。
その一本を俺に向けて飛ばす。
ただ一直線に飛んでくるだけの魔術なんて当たるものか!
横に飛んで水の矢をやり過ごすと、一気に距離を詰めに前へ出ようと踏み込んだ。その瞬間、次の矢が俺の顔に迫っていた。
「危ない!」
体を捻り、矢をギリギリで躱す。躱し損ねたのか、頬から血が滲んでいた。
オークの方を睨んでみれば、さっき二発の矢を放って三本に減った筈の水の矢は五本が宙に浮いていた。
「まさか、あれは……」
再びオークは矢を放つ。俺はその矢を躱しながらオークを見てみれば、浮いている矢がくるっと回転し、放たれて無くなった場所に次の矢が宙に現れ、再び五本の矢が揃う。
あの動き。まるでリボルバーだ。連続で放つ時も必ず回転して放たれ、放った分が自動で装填されていた。
まさか、ああいう魔術なのか。一回発動したら、それ以上MPを消費しないとでも。確かにいくら魔術士系のオークに進化したとはいえ、今まで冒険者と戦い、MPをかなり使っていてもいいはず。
それなのにまだMPが残っているという事は、あれも通常の<ウォーターアロー>一発分の消費量とかなら、可能性はある。
今度は三連射か!
全ての水の矢を躱したけど、近付くのも一苦労だ。これで冒険者曰く、弱体したと。
まだまだ強くならないといけないみたいだ。でも、そんな悠長な事は、言っていられない。まだ敵は残っている。あれが来る前に片を付ける。冒険者も、またオークを倒し、残りは進化した二体。
「おい、大丈夫か!? そいつは流石にお前には荷が重いか?」
冒険者の質問に首を横に振る。
「いや、なんとかします!」
実際、あの冒険者はこれまで何とかしてきたのだから何かあの魔術を破る方法がある筈だ。
五本の水の矢の回転速度が上がった。来る!一発、二発……、止まらない。まるで、ガトリングガンみたいだ。
走り続け全ての矢を躱し続ける。やっぱり中々近付けない。それなら、<紅蓮>で攻撃をしてみるか。
「これでも喰らえ!」
走りながら拳の炎を飛ばす。狙いはあの水の矢の円の中心。わざわざ回転させる必要は無い筈だ。それが回転しているということは中心部に何かがあるとしか思えない。
俺の放った炎の球は狙い通り円の中心部に到達し爆発した。やっぱりあそこがあの魔術を構成している中心部か。
だが、俺の放った炎では火力が不十分だったようで、水の矢は顕在。今度は両拳に纏わせた<紅蓮>を飛ばす。二つの炎の球が再び魔術の中心部に当たり、水の矢の回転が止まる。
「今だ!」
オークが魔術を止められ驚いている。その隙を逃すものか! 一気にオークとの距離を詰め、オークの腹に拳を叩き込んだ。
俺が懐に入ったからか水の矢の動きが完全に止まった。そこからは俺の連打をオークの腹に叩き込み続けた結果、光の粒子と化した。
「よし、進化した個体を倒した」
冒険者の方へ目を向けてみると<ヒートスラッシュ>の効果時間が切れたのか大剣は元の鉄の色に戻っており、オークの爪によって攻撃を防がれ、苦戦しているようだ。
「こっちは終わった! そっちは!?」
「やるじゃないか。心配するな。こっちも直ぐに片付く!」
片付くと言われても攻撃は全て防がれている。どこにそんな余裕があるのかと疑問に思っていると、冒険者が大剣を上段から振り下ろし、それを両手の爪で防いだオークの腹に短剣が突き刺さった。
「誰が俺は大剣だけと言った?」
冒険者がオークに不敵な笑みを浮かべながら言うと、力が抜けたオークをそのまま大剣で真っ二つに斬り裂いた。
「な。こっちも片付いただろ」
冒険者が俺にウインクをする。俺はそのウインクを軽く流して、残りの四十体のオーク達を見る。
もう夜になって当たりは月明りが照らすだけ。そのせいか、オーク達の動きが変わっていた。
今まではミコトの<ホーリーバリア>を叩き割ろうとガンガン殴っていたのだが、叩くのを止めてザワザワしている。
諦めたのか?
警戒しながら見ていると、一体のオークが腕を上げ、障壁とは反対の方に手を振り始めた。
「あのオーク、他のより一回り体がデカいな。あれが彼奴等のボスか」
冒険者の言葉に俺も同意する。誰が見てもそう思うだろう。そして、オーク達が退き始めた。
「助かったのか?」
「分かりませんけど、ひとまず今は退いてくれたみたいですね」
オークもモンスターとはいえ生き物。やっぱり徹夜はきついのかもしれない。とにかくオークの目的が何か分からないから、今は退いてくれた事に感謝して、休むべきだ。
馬車まで戻った俺達は、見張りを残して仮眠を取ることにした。ミコトの<ホーリーバリア>もまだ無事に残っている。ミコト自身が寝ても消えないらしいから、俺とミコトは同じタイミングで休む事になった。
「アスカ、お疲れ様」
「ミコトもね。ミコトの<ホーリーバリア>が無かったらとっくに全滅していただろうから、本当に助かったよ」
ミコトは照れくさそうに微笑みながら、寝ようと言ってすぐに寝てしまった。俺も寝ておくか。彼奴等がいつ戻って来るか分からない。戻って来ないという可能性もあるけど、それはたぶん無いだろうな。何せ彼奴等の群れの半分以上を殺されたんだ。絶対敵を取りに来るだろう。だけどこっちも黙ってやられる訳にはいかない。何としてでも生き抜いてやる。そう決意して、俺は静かに目を閉じた。




