徹夜の戦闘
オークと戦い始めて既に二時間くらいは経過したか?
まだ半数以上のオークが残っている。こっちは一人冒険者がやられてしまった。
六対五十以上……。しかも近接戦が出来るのは、俺を含めて二人しかいない。目の前には十六体のオーク。内二体は、剣と魔術を喰って進化したらしく、戦闘力が上がっている。
「半分、任せても大丈夫か?」
大剣を掲げ、もう一人の冒険者が俺に問いかける。
「勿論。ただ、早く倒した方が良さそうですね」
奥にいる四十体のオーク達がミコトの張った<ホーリーバリア>を殴り続けている。いつまで保つか分からない。
「分かっているさ。そっちの八体は任せたぞ」
冒険者はそう言うとオークに向かって突っ込んでいった。俺も構えると目の前の八体に<探知>を使う。奥にいる吹き飛ばしたオークの残HPが一番少ないか。
奥に行くために無傷のオークを掻い潜って行くのも面倒だし、捕まったら危ない。前後を入れ替えるために<空波>をもう一度使うか……。目の前のオークが少しずつ俺の方へと寄って来る。
「お前達に喰われてたまるか! <空波>」
右拳が白く輝く。どうやらこれは右拳でしか使えないみたいだ。ついでに<双牙>を使おうとしたが、右拳には<双牙>を発動出来なかった。<空波>は二重ダメージ出来ないみたいだ。まぁいいや。とにかく、こいつらと後ろを入れ替える。
「はっ!」
右拳を前に突き出し、手前にいた五体を後ろに吹き飛ばす。
「くそ。二体耐えやがったか」
二体のオークが衝撃波に耐え、まだ俺の目の前に残っている。仕方がない。まずはこの二体を。
<紅蓮>、<双牙>を両拳に発動。掴みかかって来た一体の腕を躱し、もう一体の方へと向かう。
俺の動きに合わせてもう一体が殴って来た。その攻撃をしゃがんで躱すと、俺は膝目掛けて右拳で突きを放った。
「<疾風>」
俺の突きがオークの左膝を砕き、バランスを崩す。すかさず、左拳で右膝を砕いた。
両膝を砕かれたオークが体重を支えることが出来ずに倒れると、腹に一撃を入れて離れる。
「危ない、危ない」
さっき俺を掴もうとしたオークが背後から再び掴もうとしてきていた。止めをさせなかったじゃないか。倒れたオークは、何とか立ち上がろうと藻掻いている。
ここまでダメージを与えているのに、また復活されたら面倒だと思っていたら、炎を纏った矢がオークの後頭部へ刺さり、光の粒子となって消えた。
さっきまで進化されるのを嫌って、後衛の攻撃が止んでいたが、俺たちが前に出たことで、後衛に背を向けたオークの隙を付いたのだ。
「経験値は入らないけど、瀕死に追い込んで、止めを刺してもらうのもいいかも。よし!」
俺を掴もうとしていたオークが後衛の方へ向かおうと俺に背を向けた。
「行かせない」
背中を殴る。アーツを使わないと大したダメージはないかもしれないが、こっちに注意は引き付けられるはず。案の定、オークは俺の方へと振り返り、反撃してきた。殴りかかってきたその腕を下から突き上げる。オークの腕は軌道を逸らされ、大きく空振りをすると、その間に、俺はオークの腹に連打する。爪が突き刺さり、腹が血塗れになった所で、後ろからの遠距離攻撃で倒された。
「あと、六体か」
他の六体は俺の背後にいる。遠距離攻撃はまた進化の機会を与えるから止まった。
さて、どいつから戦うか……
<探知>でオーク達のダメージを探ると、おかしい。<空破>で与えたダメージが無くなっている。何かを食べて回復した様子も無いのに。何故かと考えてみれば、理由は簡単だった。
ミコトの<ホーリーバリア>。この中は少量だか傷が少しずつ癒やされる。それがオーク達にも効果があるということだ。
「しょうがないか……」
この障壁を消せば回復効果は消えるが、そんな事をしたら他のオークが一気に攻めて来るかもしれない。
一体ずつ確実に倒す。これは変わらないんだ。もう一人を見れば、向こうも二体のオークを倒していた。負けていられないな。
俺が近くのオークに向かって駆け出すと、オーク達も俺に向かって走り出した。
まずは、手前のオークの顔面を殴り、動きを止めないまま奥のオークに向かって行く。攻撃を躱しながら、一番奥にいたオークの元まで辿り着いた。
「さあ、これでいいだろう」
オーク六体は俺の方へと向き、後衛に背を向けている。狙い通りだ。俺の意図を察した後衛部隊が一斉に攻撃を開始する。
炎、水の矢がオーク達に命中し、オーク達の意識が後ろへ向いた瞬間に、背後から<空波>を放つ。
オーク六体を吹き飛ばし、体勢が崩れた所を更に一斉射撃がオーク達に降り注ぐ。これで四体。あと二体を俺が、<疾風>で止めを刺した。任された八体は片付いた。
まあ、俺一人で倒したわけじゃないけど。でも、これで向こうを手伝える。
「こっちは片付いた! 手伝うよ」
<双牙>と<毒手>を発動。進化したオーク二体に攻撃を当て、冒険者の傍へと駆け寄る。
「早いな。助かるぞ」
「上手く後衛と連携出来たから、こいつらも同じ要領で」
「分かった」
そう言うと、オーク達に向かって斬りかかっていく。
全然分かっていない……
仕方ない。冒険者が相手をしているオークとは別のオークに攻撃を与え後衛の方に背を向けさせる。背を向けた直後には、後衛がそのオークに攻撃が集中する。弱った所で止めを刺す。
これで五体。いや、四体か。冒険者が丁度倒していた。
「おい、さっきあの進化したオークに何かしたのか?」
「え?」
「いや、今まであの二体が邪魔で苦戦していたが、お前がこっちに来てから、明らかに動きが悪くなった。お陰で他のオークを楽に倒せるようになった」
毒で弱体化したのか。毒で自動回復分を相殺するだけのつもりだったけど、ラッキーだな。冒険者の大剣の刀身が赤くなる。何かのアーツか。
「喰らえ! <ヒートスラッシュ>」
赤くなった大剣でオークに斬りつければ、まるでバターを切るようにスパッとオークが真っ二つになる。あの赤い刀身は高熱で赤くなっているのか。凄い切れ味だな。
横から襲いかかってきていたオークを横薙ぎに斬れば、これも簡単に真っ二つになった。これで障壁内に残ったのは進化した二体だけ。
もう周りも大分暗くなってきた。
「これは、徹夜ペースだな……」
障壁の外にいるオーク四十体と目の前の進化した二体のオークを見て、俺は溜め息を吐くのだった。




