オークとの激戦
オークの群れとの戦闘は、バランの立てた作戦通り順調だ。近接戦の俺を含めた三人がそれぞれ十体のオークを仕留め、馬車の前に戻っていた。
「ご苦労さん。どうだ?」
「倒すには倒したが、もうアーツは使えないぞ」
「俺も同じだよ」
俺以外の二人はどうやら全力で倒して来たらしい。
「まだ、やれそうですけど……」
俺の一言に二人は驚いていたが、流石は召喚者と納得していた。
「そうか。でも、今は回復するようにな。ミコト。いけるか?」
「はい。じゃあ、いきます! <ホーリーバリア>」
ミコトが広範囲に<ホーリーバリア>を展開する。そして、バラバラになっていたオークの群れの目の前にも三つの障壁を張った。
「上手くいって良かった」
「よし、全員今のうちに回復するんだ」
バランの指示で魔力回復や傷薬を使い万全の状態へと回復させる。
そう、これが作戦のフェイズ三。
(ノルマを達成したら、全員必ず戻ってこい。ミコトの障壁で彼奴等の侵入を防いでいる間に疲れと傷を癒やすんだ)
バランの作戦通りに進みすぎて逆に怖い。この後何か大変な事にならなきゃいいけど。俺は消費したOPを<練気>で回復させ、魔力回復薬を飲む。ついでにミコトにも回復薬を一つ渡しておいた。ミコトもかなりMPは消費しているはずだ。他の冒険者達が休んでいる間に、俺はステータスプレートを確認してみる。
「お、やっぱりレベルが二十に上がってる」
オークを倒した事でレベルアップしたんじゃないかと思ったら、予想通り上がっていた。何かスキルは覚えているかな? スキルとアーツのページを確認すれば、スキルとアーツ、それぞれ取得していた。<換装>と<空破>の二つだ。
<換装>はその名の通りのスキルだった。装備している武器を別の武器へと変更する。<空納>の中に手を突っ込んでいちいち装備を変えなくても思った武器に一瞬で変えられる。
でも、今の俺の装備だと、微妙なものばかりだから、今は余り必要無かったりする。もう一つ<空破>は、さっき思ったからか、範囲効果のあるアーツだ。ただ、射程距離が三メートル。
前方に扇状に衝撃波を放つと書かれている。範囲がイマイチ掴み難いな。威力もATKの〇.九倍と。これ、貧弱ステータスの俺だと敵にダメージ入らないのでは? 取り敢えず、彼奴等で試せばいいか。
オーク達は、未だにミコトの張った障壁を破る事が出来ず、こっちに来れないみたいだ。
「よし、そろそろいいか?」
バランが戦闘再開の確認をすると全員が頷く。オークの前に張っている障壁の内、一つをミコトが消すとそこからオーク達が一斉に押し寄せてくる。
「さあ、先ずはあそこからだ」
バランが指示を出すと、ミコトが再び<ホーリーバリア>を使う。障壁に阻まれ、先に通過した二十体程のオーク以外がこちら側へと来れなくなった。いい足止めになっている。これなら近接戦闘の三人でも少しずつ相手をしていけば、なんとかいけるかもしれない。
「行ってくるぞ!」
剣を構えて一人の冒険者がこちらに来るオークに向かって駆け出した。速い。<アクセルブースト>を使った俺よりも速そうだ。あっという間に先頭のオークを斬りつけ、更にその奥のオークへと斬りつける。
二十体全てのオークを次々と斬りつけ、二十体目を斬りつけ終わると、剣を頭上に掲げた。
「くたばれ! <サンダーフォール>!」
剣の先端から切り傷に向かって雷が落ちる。雷がオークに命中すると爆発が起こる。何体かのオークが黒焦げになってその場に倒れた。
「ちっ。仕留め損ねたか」
動けるオークが黒焦げになって倒れているオークを喰い始めた。
「させるか」
冒険者がオークを斬りつけようとすると、剣を掴み取られる。
「な、不味い!」
バキッ。剣が噛み砕かれる。すると、剣を噛み砕いたオークの様子がおかしい。傷が癒えるだけじゃない。爪が鋭く伸び、ぶくぶくと脂の多そうだった腹がスッキリしたスリムな体型に変化する。
「こいつ、俺の剣を喰って進化しやが……、うわぁっ」
進化したオークが伸びた鋭い爪で引っ掻く。
「おい、援護に行くぞ」
「あ、はい!」
俺ともう一人の冒険者は今にもやられそうな冒険者の元へ急いで向かう。
「<ウォーターアロー>!」
ミコトが援護に魔術を放つと、別のオークが口を大きく開き、水の矢を丸呑みする。
「な……」
ミコトの<ウォーターアロー>を丸呑みしたオークが手を翳すと、手の先に水の矢が現れ、こちらに向けて撃ってきた。
「こいつら、今までのオークと違う!」
進化したオークがその爪で冒険者の胸を貫く。
「あ……」
胸を貫かれた冒険者を周りのオークが腕を千切り、足を千切りと食べ始めた。
「やめろぉ!」
酷い。髪の毛の一本も残さず食べられてしまった。冒険者が背中の大剣を抜き、オークを横に薙ぎ払うと、一刀両断され、光の粒子と化す。
「うぉおおお!」
今度は縦に大きく振りかぶる。それはいくらなんでも大振り過ぎる……振り降ろした大剣は、案の定オークに躱された。と、思ったらその先にいるオークの体が縦に真っ二つに割れた。
<ソニックエッジ>か。ポーラも覚えて使っていたな。冒険者が囲まれそうになった所を早速新アーツを使って援護する。
「<空破>!」
右拳が白く輝き、その拳を前に突きだす。
「ブフゥッ」
衝撃波で地面の表面を削りながら目の前に居た三体のオークが吹き飛んでいった。
「成程。これ、吹き飛ばし技なのか」
一応、オーク相手ならダメージも入っているみたいだ。削れた地面を見て、効果範囲を確認すると、突き出した拳を起点に三十度位の角度で扇状に拡がっていた。
でも、見た目は派手だけど、見た目程の威力は無いのでちょっと残念。
「すまない。助かった」
「いえ、でも先行しすぎないで下さいよ」
吹き飛んでいったオーク達がむくりと起き上がる。回復に味方を食べる素振りも見せない。まぁ、そうだよな。大したダメージじゃ無いしな。
「気を引き締めないとな。俺たちも彼奴等の餌になっちまう」
「はい。確実に一体ずつ倒すのがいいですね」
とは、言ったもののまだ目の前には一、二……、十六体。障壁の向こうには四十体のオークが残っている。今まで順調だったのが、まるで嘘みたいに流れが変わって来た気がする。一瞬の油断が命取りになる。
これは、長い戦いになりそうだ……。




