オーク達との開戦
オークの大群が近付いて来る。
豚、豚、豚……
凄いな。今からこの大群と一戦交えるのか。七対百。数的にも圧倒的に不利な状況だ。これを打破するために、バランの立てた作戦の第一弾。
(まず、遠距離からの攻撃で先手を取る! これは、彼奴等の数を減らすのもそうだが、本当の目的は……)
狩人が弓を構える。盗賊達との戦いで使った爆撃の矢をオーク達に向けて放つ。放たれた矢は真っ直ぐ飛んでいき、オークの一体に命中すると他のオークを巻き込みながら、爆発する。
「よし! 今ので三体は吹っ飛んだぞ」
「続け!」
弓、魔術を続けて放ち、密集していたオーク達が徐々に疎らになっていく。
(敵をバラバラにするんだ)
バランの作戦通り、オーク達が疎らになった所を、俺を含めた三人が三方向に分かれ、それぞれが遊撃隊として相手取る。俺は左側の集団に向かって駆け出した。俺たちが向かっている間も遠距離攻撃は続いている。
そして、まだ八割以上のオークが残っている。だが、これは想定の範囲内。さぁ、作戦のフェイズ二だ。
「さて、俺の攻撃が何処まで通じるか」
<探知>を半径五メートル規模で展開。最も弱っている個体を見付ける。これ、やっぱり便利だ。
ダメージの多い個体に向かって突進し、オーガファングを装備した右拳を剥き出しの腹に打ち込む。殴られたオークが苦悶の表情を見せる。よし、普通に殴ってもダメージ入る。こっちは? ゴブリンハイクローの左拳を続けて顔面に叩き込む。
「ブフッ」
脂肪一杯の頬に爪が食い込みオークは蹌踉めきながらも、怒りを顕に、俺を掴みに掛かる。
「鈍いな!」
<アクセルブースト>を使っていた俺のスピードはオークの倍以上ある。ゴブリンよりは強いけど、大した事は無いといった感触だ。
掴みかかってくるオークの手を掻い潜り、下から顎に向けて右拳を突き上げる。オークの顔面が真上に跳ね上がり、元に戻ってくるタイミングに<紅蓮>を纏わせた左拳を突き上げる。
「<疾風>!」
炎を纏った高速突きでオークが光の粒子となり消える。次だ。再び<探知>でダメージの大きい個体を探す。
「次はあいつか!」
その個体へと向かおうとすると、その隣の個体に炎の矢が刺さる。すると、俺の狙っていたオークが隣のオークに噛み付いた。それだけじゃない。他にもダメージを受けていたオーク共が群がり噛み付いていく。噛み付かれたオークはそのまま光の粒子へと変わり、噛み付いたオーク共は、傷が塞がり、回復していく。
「共食いして、ダメージを回復したのか」
俺はスピードが速くなっているのが仇となった。
狙っていたオークは完全回復しただけじゃなく、八体のオークに囲まれる形となってしまった。
「しまった。注意されていたのに」
そう。バランの立てた作戦の第二フェイズ。
(バラバラになったオーク達を近接武器の三人が三方向に分かれて各個撃破していく。この時、なるべく傷付いたオークを優先して倒す。だが、気を付けろ。密集した所には向かうな。回復したオーク共に取り囲まれてしまう可能性があるから、注意しろ)
注意されていたのにな。そんな事を思っている間にもオーク共はジリジリと俺の方へと近付いて来る。全員無傷となると簡単には突破出来ないか……。
範囲攻撃のアーツをどうにか覚えたいものだ。拳の攻撃で範囲攻撃を求めるのは厳しいか?一斉にオーク達が俺を捕まえようと飛び込んで来た。
俺は素早くしゃがみ込むと俺の頭上で八体のオークが頭をぶつけた。自爆とはいえ、中々痛かったのだろう。皆、ブンブンと頭を横に振っている。
こいつら、頭悪いのか。まさか、ゴブリンの方が頭良いとか? お陰で包囲網から簡単に抜けることが出来た。その時、オーク達の中心に炎の玉が落ち爆発する。
仲間の放った<ファイアーボール>だ。直撃したオークは、体が黒く焦げている。他のオークは爆発に巻き込まれて、吹き飛ばされていた。
「もらった!」
黒焦げになったオークに止めを刺す。よし、食われて消えたのを含めてノルマまで、残り七体。
「この調子ならいける」
『アスカ、油断は禁物だよぉ』
「分かっているよ」
全く。アルは<空納>の中で安全にしているんだから、いちいち口を挟まないで欲しいものだ。
右手にも<紅蓮>の炎を纏わせ、両拳に<双牙>を発動。手前に倒れているオークに左右の<疾風>を食らわせれば、オークが光の粒子と化す。
次のオークに向かおうとすれば、最初に起き上がったオークが起き上がろうとしているオークに齧り付いた。
「またか!」
他のオーク達も回復しようと近付き始めたのを見た俺は、食われているオークに向かって、纏っていた炎を飛ばした。オークの体が炎に包まれ、他のオークが近付くのを止める。噛み付いていたオークも慌てて齧り付いていたオークを突き飛ばした。
突き飛ばされたオークは炎に焼かれながら暴れていて、隙だらけだ。チャンスとばかりに<紅蓮>の炎を投げつける。俺の放った炎は胸に直撃し、そのままオークは光の粒子となり消え果てた。
ノルマまであと六体。近くにいたオークが手を伸ばしてくる。別のオークも背後から俺を掴もうと手を伸ばして来ていた。
「だから、動きが遅いんだよ」
横に飛び前後から伸びてくる手を躱すと同時に目の前にいる別のオークの顔面を殴る。
「ぶべっ」
殴られたオークが吹き飛びながら他のオークを巻き込んでいく。そのオークを追いかけ、追い付くと<双牙>、<疾風>のコンボを次々とオーク達に喰らわせば光の粒子へと変わっていく。そして、ノルマの十体目を倒す。
「よし、ノルマ達成! 他は?」
他の二人を見れば、既にノルマを達成していたのか、後退している所だった。
「俺が最後みたいだな」
もう少し倒す余裕はある気もするが、油断大敵だ。ここは、作戦通りに一度退く。
俺が後退し始めたのを確認したのか、援護の魔術が俺の背後に落ちる。そんな事をしなくても俺のスピードなら彼奴等には追い付けないけど、後退しやすくなったのは事実だから感謝だ。これで残りは六割を切った。今の所はバランの立てた作戦通りに上手く進んでいる。
でも、ここからが本番だ。




