人形使い
悪霊が消えてしまってミコトの唱えていた<ピュリファイ>が無駄になってしまった。ミサオはさっきから俺達のせいだと文句をずっと言い続けている。ミサオの文句にうんざりしてきた俺は、ミサオに言い返す。
「いや、あんたのその胸が原因だろ。あの悪霊が元はどういう奴だったか知らないのか?」
「誰の胸のせいだって! あいつが生きていた時の事なんて知らないわよ! そんなの関係ないでしょ! おっぱいが大きいからって、図に乗るんじゃないわよ!」
こいつ……。それこそ俺の胸は関係無いだろうが。完全に八つ当たりだ。
「はぁ……。あのな、あの悪霊は女好きで生前から女に迷惑をかけ、嫌われていたんだ。そして、女冒険者の寝込みを襲おうとして斬られて死んだんだ。それから悪霊となった今も女を襲うんだよ」
ミサオは、そうなの? という顔で俺の話を聞いている。
「で、お前を襲うつもりで服を引き千切って現れたのが、それだから、ショックで消えたんだよ」
俺はミサオの小さな胸を指差す。指差された小さな胸を両手で恥ずかしそうに隠すと、ミサオは再び怒鳴り始める。
「何よ! 少し大きいからって! 自慢しないでよ! ちっちゃくて悪かったわね」
「二人共、それくらいにしようよ」
俺とミサオを止めようとミコトが話を止めようとすると、ミサオはミコトの胸を見て、
「ちっ……。こいつも巨乳か……」
うわぁ……。舌打ちしやがった。よっぽど胸がコンプレックスなんだな。これ以上は触れない方がいいか。
「とにかく。あの悪霊は今日はもう現れないだろう。明日、また現れた時に、浄化すればいい」
「浄化? 何を言っているのよ! あれは、あたしが貰うんだから!」
「お前こそ何を言っているんだ? 悪霊を貰うって、どうやって? 何で必要なんだ?」
ミサオが俺を睨みつける。
「あたしは力を付けなきゃいけないのよ。ブラッドの奴、あたしにこの国を守れとかいいながら、魔器を寄越さないんだから!欲しけりゃダンジョンクリアして取ってこいとか言われたって、あたしのこのカスみたいなステータスでどうしろって言うのよ!」
拳を強く握りしめ、怒りを顕にする。そうか。彼女も俺とは違う意味でこっちに来てから苦労をしているんだな。
「しかも、あのヒデオとかいう奴。自分がレベル高い上に魔器を持っているからって、好き勝手に暴れて、腹が立ってしょうがないんだから!」
「今、ヒデオって言ったか」
「! もしかして、あなた、ヒデオの仲間。だから、そんなに腹が立つのか!」
「いや……」
俺たちの返事を待たず、ミサオは右手に魔力を集めだす。
「ちょっと待……」
「出てこい! FD。<召喚>!」
俺とミサオの間に六芒星の魔術陣が現れ、そこからマネキンのような顔の無い人形が現れる。右手には片手剣サイズの剣を持っていた。
「その子達をやれ!」
ミサオが命令すると、右手に持っている剣を振り上げ、俺に斬りかかってきた。
「ちょ、だから、人の話を聞けって!」
後ろへと慌てて飛ぶが、FDの攻撃が意外と速い。不意打ちだった事もあり、胸を袈裟斬りに斬られた。
「くっ」
「無駄に胸がでかいから避けれないんだ。いい気味!」
FDは前へ出ると更に俺を殺そうと剣を振り上げる。<アクセルブースト>を使い、横へ飛びFDの攻撃を躱す。
「だから、人の話を聞けって!」
俺はFDの顔を殴るが硬い。素手ではダメージが入らないか。オーガファング、ゴブリンハイクローを装備し、再びFDに攻撃をする。FDは俺の左右の連打を剣の腹で上手くガードする。
「こいつ。何なんだ一体」
「あたしの人形に勝てるかな?」
人形? あぁ。そうか。こいつはステータスがカスと言ってはいたけど、それは自分自身に限ってで、この人形はそれなりのステータスを持っているということか。
「ミコト!」
「<ウォーターアロー>!」
ミコトの放った水の矢はFDの胸を貫通し、動きが一瞬止まる。今だ。あれが人形なら本体である彼女を倒せばいい。
「少しは人の話を聞け!」
俺は一瞬でミサオとの距離を詰めるとオーガファングを外し、ミサオの鳩尾へ一撃を入れる。
「うぅぅ……」
ミサオはそのまま気絶し、FDも光の粒子となって消えた。
「ふぅ……」
「大丈夫? <ヒール>」
ミコトは俺の傷を癒やしながら気絶しているミサオの様子を見る。ミサオは気を失ってはいるが大きな外傷は無い。いや、怪我してたら後でまた面倒そうだから傷が無くて良かった。
「結局、何だったの?」
「さあ? 分かるのは、この子が召喚された子だということくらいかな?」
FDか。確かにあれを使えばそれなりに戦えるのかもしれないけど、一人で魔器を取りにダンジョンへ行くのは厳しいかもしれない。まあ、それよりも悪霊を貰うというのはどういう意味なのか? 場合によっては、手伝った方が良いということか。それも全てはこの子が目覚めて、こっちの話を聞くことが前提だけど。
「取り敢えずこの子を馬車に連れて行こう。目を覚ましたら話をきちんとしないとな」
「そうね」
俺はミサオを担いで馬車まで戻った。
馬車に戻ると商隊の主から悪霊について質問されたが、駄目だったと答えるとがっかりした表情で宿に戻っていった。呪いでこの村を出る事が出来なくなってしまったから早く解決してほしいのだろう。
俺たちも早くブラッドの所へ行かなければならない。こんな所で足止めされるわけにはいかないんだ。
「うぅん……」
ミサオが気が付いたみたいだ。
「ここは?」
「気が付いたか?」
「あなた! さっきはよくも!」
「いや、落ち着けって。俺は話をしたいだけだ。第一、ヒデオは俺たちの敵だ。敵の敵は味方だって言うだろ」
「それはそうかもしれないけど、本当に敵なの?」
「ああ。あいつのせいで仲間が瀕死の状態なんだ。今は女神プリメラ様が何とか命を繋ぎ留めてくれている。だから、俺はヒデオにケジメをつけさせに向かう途中なのさ」
「ふぅん」
どうやらやっと話を聞いてくれるようだ。
「それじゃあ何の話をあたしとしたいのかな? 巨乳のお姉さん」
「……。まず、一つこれだけは言っておく。俺は男だ」
「はぁ? 何寝惚けた事言っているのよ。あたしの話を聞きたきゃ、そんな冗談言わないでほしいわね」
「そんな事を嘘付いて、俺に何の得が有るんだよ」
俺は仕方がないので、ステータスプレートの状態覧をミサオに見せる。
「うへ。本当なんだ……。あたしは男なんかに負けたの……」
がっくり来ているミサオは置いておいて、話を続ける。
「お前の目的を教えてくれ。悪霊をどうにか出来るなら協力する」
ミサオは何か悩んでいたが頷くと、ミサオの目的を語りだした。




