悪霊と人形使い
悪霊モーレスを<探知>で見つけた俺はミコトと一緒にそこへと向かった。そして、その場所には<探知>でもう一人居ることを確認している。
俺達と同じ召喚者。ミサオ・カタシロ。何故、ここに居るのかは分からない。でも、何かあるからこそ、こんな所に居るのだろう。
俺達が現地に着いた時は、既にミサオと悪霊モーレスが対峙しており、何か話をしているようだった。
アスカ達が到着する三十分程前、ミサオはウィズと悪霊モーレスについて話をしていた。
「いくら召喚者だからって、お前みたいなちっこいガキが悪霊をどうするんだよ」
「ちっこいガキ言うな!あたしはこう見えても二十二歳なんだから!」
ミサオはウィズに文句を言うと、怒った口調で話を続けた。
「あたしが悪霊を貰って行ってやるって言っているんだから、別にどうしようと勝手でしょ!」
「いや、悪霊を貰っていく? そんなの今聞いたし、何より貰うってどういうことだよ」
「そんなのどうだっていいでしょ!悪霊が居なくなれば、あなた達には都合が良いでしょ。所謂、win・winってやつよ」
「うぃんうぃん? 何の事かよく分からんが、まあどうにかしてくれるというのなら、何も言わん。頼むぞ」
ギルドから出た時には村全体が深い霧に覆われていた。如何にも何か出そうという感じだ。そして、ミサオは悪霊の気配を見つけていた。
「おぉ、いい感じの怨念パワーを感じるよ。こいつなら、いけるんじゃないの!?」
ミサオは悪霊モーレスの気配がする場所へと向かう。奴の気配が強くなる。姿はまだ見えない。でも、間違い無い。
ここに居る。
「ねぇ。出てきなよ。あんたが居るのは分かっているんだから。話があるの!」
ミサオは誰の姿も無い場所で語りかける。当然、返事は返ってこない。暫く待っても何も返事が無い事にミサオが腹を立て始めた。
「ねぇっ! 聞いているんでしょ! さっさと姿を現しなさい!」
すると、ミサオから五メートル離れた位置にある家の屋根の辺りに黒い靄が現れ、それは人の形を作っていく。
「やっと出てきた。もう、さっさと現れればいいのに」
黒い靄は遂に男の姿を形作った。
「オ……」
「さあ、交渉よ! あなたなかなかの怨みを抱いているみたいだけど、その怨みを晴らさせて上げるから、私の言うことを聞きなさい!」
「オ……」
黒い靄の男は、ただ「オ」と発音するのみ。ミサオは靄に聞き返す。
「お、だけじゃ分からないでしょ! 何が望みなのよ!」
「オ……」
「もう! はっきりして!」
「オ……」
ミサオが腹を立て始めた頃、そこにアスカとミコトが姿を現した。
「だから、お、じゃ分からないってば!」
「あいつ、何を叫んでいるんだ?」
「分からない。でも、何だかここ、凄く嫌な感じがするよ」
俺達の目には一人でただ叫んでいる女の姿が見えるだけだ。身長はそんなに大きくなく、体も細身。それなのに異様に胸が大きい。メロンでも入れているのか? 俺が言えた義理じゃないか……。
それよりもミコトが言う通りこの場所は立っているだけで気持ちが悪い。<探知>でここに悪霊がいるのは分かっている。気持ちが悪いのはそのせいだというのも分かる。でも、その悪霊の姿が見当たらない。存在が分からなければどうしようもない。
「うん? あなた達誰? ここに何しに来たの?」
「オ……、オン…………」
ミサオが俺達に気付いたのと同時に悪霊が俺達に気付く。その影響か、悪霊の言葉が少し増えていた。
「おん?」
ミサオは悪霊が何を言いたいのか、分かった気がした。
「そっか! 女だね! そして、この人達が現れて言葉が増えたって事は、君を殺したのはこの二人のどちらか。そういう事だね!」
「おい、お前。何を一人で喋っているんだ。さっきから」
「一人? いや、あたし独り言なんか言ってないよ……。あ、そっか。君たちには見えていないのか」
俺とミコトは顔を見合わせ、ミサオに聞こえないように小声で話す。
「アスカ、ひょっとして彼女、例の悪霊が見えているんじゃない?」
「そうかもな。そうじゃなきゃ、ただの危ない女だ」
「ちょっと! 聞こえてるわよ! 誰が危ない女よ!」
つかつかとミサオは俺達の元へ歩いて来ると、俺達の手を握った。
「ほら、これで見えるでしょ!」
ミサオが手を離し、上を指差す。そこには黒い靄で出来た人の姿があった。
「な……」
「い、いやぁぁぁぁぁ!」
俺はホラー映画が好きだからまだ本物を見て少し動揺した程度だったが、ミコトはホラーが苦手と言っていた。やっぱり厳しかったか。でも、悪霊相手にはおそらく俺は無力のはず。
「さて、それでは。あなた、あたしが力を貸してあげるから、この二人に怨みを晴らしなさい。そして、その後はあたしの言う事を聞くの!いい!」
ビシッと人差し指を悪霊に向けるミサオを他所に俺はミコトを悪霊から距離を取るように移動させた。距離を取った事でミコトは少しだけ正気を取り戻す。
「あ、アスカ。ごめんなさい。取り乱しちゃった」
「仕方ないさ」
「でも、アスカは苦手な虫、ロックワームとしっかり戦ったじゃない。私だって、我慢するよ」
「そうか。じゃあ、始めよう。俺に何が出来るかは分からないけど」
「うん」
ミコトが意識を集中し、魔術の口上を始める。都合の良いことに、ロックワームとの戦いでレベルが上がったミコトは正に聖女という魔術を取得していた。
魔術の名は<ピュリファイ>。浄化の光によるアンデッド系モンスターに特化した魔術だ。アンデッドモンスターとはこれまで遭遇していなかったため、無駄な魔術かと思っていたが、こんな所で早速役に立つとは思っていなかった。
だが、この魔術は<ウォーターアロー>等と違って口上が必須の魔術だそうだ。それもかなり長い。発動出来るまでの時間稼ぎをしなければ。悪霊がミコトの魔術に気付いたのか、靄がもぞもぞと蠢き始めた。
「オ……、オン……ナ、オンナァ!」
「こら、あたしの言う事を聞け! ちょっと、君たち、何をしようとしているの!」
ミサオもミコトが魔術を発動しようとしている事に気付く。
「オォォォ、オンナァァァア」
悪霊は近くにいたミサオの方へ襲い掛かる。
「こら! あたしは敵じゃない! やめ、やめろ。来るなぁ!」
悪霊がその手を伸ばす。ミサオの立派な胸の服を掴んだ。あいつ、悪霊なのに物に触れられるのか! そして、掴んだ服を引き千切り、ミサオの立派な胸が見え……なかった。
「いやぁぁぁぁぁぁっ」
「あ……」
「…………。ちっぱい……」
破れた服の中からまさかのメロンみたいな果物? が本当に転がって出て来た。そして、露わになったミサオの胸は……。うん。Aカップ……。
「こら! そこ! ちっぱい言うな!」
突っ込むのはそこか! だが、ミサオの胸を見た悪霊がふぅっと消えてしまった。今まで濃かった霧も晴れ始める。
「え? 何? どういう事!?」
今までの嫌な空気が完全に消える。
「ちょっと! 君たちのせいで、あの悪霊消えちゃったじゃない!」
いや、お前の胸を見て消えただろ。あの悪霊。モーレスはどうやら巨乳好きみたいだ……。




