対ロックワームクイーン
冒険者達の悲鳴を聞き後ろを振り向くと、さっきまで戦っていた二十体のロックワームより更に一回りもでかいロックワームがその大きな口で二人の冒険者を丸呑みする所だった。
「な、何!? あのロックワーム。今までのより全然大きいよ」
ミコトの驚愕の声にバランの口から出たのは、諦めの声だった。
「ロックワームクイーン……。群れが来たから気になっていたが、やはり残った一体は奴だったか」
残った一体?
バランはどうやらロックワームが全部で二十一体居た事を知っていたみたいだ。
「ロックワームクイーンって?」
「その名の通り、あいつらの女王だ。全てのロックワームはクイーンが産み出す。あいつがいる限り、ロックワームは潰えない……」
実際、冒険者を喰ったロックワームクイーンの体がもぞもぞと蠢いたかと思うと、尻の方から何か岩の塊のようなものが産み落とされた。
「卵だ!」
「卵を壊せ!」
冒険者達も相手がロックワームクイーンという事を知っていた。そして産み出された物が卵である事も。ロックワームクイーンの動きに注意しながら、六人がかりで卵の破壊に取り掛かる。
クイーンも卵を破壊されまいと冒険者達を横に薙ぎ、振り払う。卵の表面に罅が入ったかと思うと、中から十体のロックワームの幼生が生まれて来た。
「げぇ、気持ち悪い」
<紅蓮>を拳に纏わせ、ロックワームの幼生へと投げつける。まだ生まれたばかりの幼生は大した防御も無いのか簡単に燃えて灰となり、光の粒子として消えた。
「良かった。簡単に倒せた」
だが、幼生を殺した俺に対しクイーンが怒りを露わにする。横薙ぎを喰らって倒れていた冒険者を一人丸呑みすると、こっちへ向かって来た。その間に生き残った冒険者達は必死に逃げ始めた。
「お前たち、俺を置いて逃げろ」
バランがもう無理だとばかりに俺たちに逃げ出すように促す。ミコトは俺の顔を見ている。それは逃げるの? と言っているのだろう。俺は首を横に振り、
「逃げるわけないじゃないか」
そう一言だけ言うと、向かって来るクイーンの方へと駆け出した。
「馬鹿野郎、置いていくんだ」
「行かないですよ。大人しく治療されていてください」
ミコトはバランの治療を続けていた。
俺は<紅蓮>を拳に纏い、クイーンへと投げつける。炎が当たるとクイーンは一瞬動きを止めるが直ぐに動き出す。
「思った通りロックワームより硬いみたいだな」
クイーンは<ロックアロー>を俺に向けて飛ばす。飛んできた土の矢を躱すと、クイーンが体を横にし飛び込んで来ていた。回避は間に合わない。両手でクイーンの体当たりをガード。クイーンのパワーに吹き飛ばされる。
「くっ。だけど、一撃で死ななくなった。俺も強くはなってきているんだな」
クイーンは俺を丸呑みしようと追い掛けて来ていた。すぐに体勢を立て直し、クイーンの突進を躱しつつ、殴りつけると、右拳に装備していたファイアナックルが砕けた。
「え!? さっきのガードで耐久値が限界まで来ていたのか!?」
左拳のファイアナックルを見れば罅が入っていた。この状態で思い切り殴りつければ砕けて当然か。だけど、俺は<錬装>で素材を武器に変える事は出来ても、耐久値を回復させる手段を持っていない。
だから、左手のファイアナックルももうどうにもならない。なら、攻撃して少しでもダメージを与えるんだ。
「<疾風>!」
左の高速突きに耐えられず、ファイアナックルは砕け散った。すぐに変わりの装備を取り出し拳に装着する。
「オーガファングとゴブリンハイクロー。いけるか?」
クイーンが再び体当りをしてきた。また装備を破壊されたら大変だ。何とか飛び上がり回避すると、飛び越した所で背後から殴る。
カン!
如何にも全く効いていない音が響く。やっぱり駄目か。だったら<衝波>の出番だ。
効率は悪くても確実にダメージを与えられる。<衝波>を放つ為に、右拳に力を込める。すると、何かを察したのかクイーンが地面へと潜ってしまった。
「くそっ! どこから出てくる!?」
いつでも反撃出来るように周囲を警戒する。だが、クイーンが現れる様子が無い。
「逃げたのか?」
ミコト達の方を見るとバランが首を横に振っている。クイーンはまだここにいると言っているのだ。ミコトはというと、<ヒール>の使い過ぎで魔力切れを起こしたようだ。怠そうに回復薬を飲んでいた。
「何処から出てくる?」
足下に意識を集中してみる。地響きなどは感じない。クイーンもこちらの様子を伺っているのかもしれない。警戒を解くことなく待つこと五分。
「まさか、俺たちが立ち去るまで潜ったままのつもりなのか?」
ミコト達の元へと走って戻る。
「バランさん、立てますか?」
「ああ。お陰で動けるようにはなったよ」
「クイーンの動きが無い。今の内に逃げたほうが良くないかな?」
「そうね。私もMPがまだ回復しきれていないし、逃げられるならその方がいいかも」
「俺のスキルだと、奴はまだこの辺りに潜んでいる。逃して貰えるか分からないぞ」
そうは言っても、出てこないのだからしょうがない。クイーン自身にダメージは殆ど入っていない。それでも姿を隠しているのは、何故か? 地中で卵を産んでいる? そう考えれば、俺たちは無視してじっとしているという可能性はある。
先に逃げ出した冒険者達とも合流する必要がある。五人はそれぞれ違う方向に逃げ出している。合流するのも大変な筈だ。
「とにかく、行こう」
俺がこの場から離れる事を促したその時、バランが俺達を押し離した。
バクッ!
俺達を押したその両手がクイーンの大きな口に持っていかれた。
「ぐわぁぁぁっ」
バランの腕から血飛沫が上がる。ミコトが慌てて<ヒール>をかける。クイーンは勢いよく地中から飛び出ると、尾を振り回す。俺はその直撃を受け、吹き飛ばされる。
「うぁっ」
吹き飛ばされた勢いのまま地面に叩きつけられる。クイーンは俺たちを逃がすつもりは全くなかったのだろう。寧ろ、動かないことでこちらの油断を狙っていたのか。
吹き飛ばされた体が痛い。
動けない事は無いが、俺の攻撃は効かない。ミコトもバランの治療で攻撃に参加する余裕は無い……。
「参ったな。どうするか」
クイーンは追い打ちをかけようと俺の方へと向かって来ている。その時、アルが念話で語り掛けて来た。
『アスカ、何で加護の力を使わないのぉ?』




