盗賊のち……
ウェステンドの冒険者ギルドで知り合ったバロンのお陰でブラッド城への馬車に乗り込めた俺たちは、早速ブラッド城へと続く道を走っていた。そこは、荒野と聞いていただけのことはあり、岩だらけの道とは到底呼べるような道ではなかった。
ゴツゴツとした岩場を馬車は全速で進んで、乗り心地は良いとは言えなかった。そんな中、一緒に乗り合わせたバランが質問をしてきた。
「聞いてもいいか? お前らみたいな女だけのパーティでこの大変な時期にブラッド城に何の用事があるんだ?」
正直に答えたら馬鹿にされそうだけど、馬車に乗ることが出来たのもバランのお陰だしここは誠意を見せるか。
「この戦争を止めようと思って」
「ハッハッハ。そりゃ大きく出たな」
やっぱり笑われた。俺がムスッとした顔を見せるとバランは謝ってきた。
「すまん。すまん。思った通りだったとはいえ、流石になぁ」
「そもそもバランさんは、何で俺たちに声をかけてくれて、馬車に乗せてもらえるように話をしてくれたんですか?」
バランは、俺の肩に止まっているアルを見てから答えた。
「何、ギルドの中でやたらと存在感のある女とその竜の子を見れば、誰だって気になるだろう」
ぶっ飛んだ魅力値とアルが原因だったらしい。まあ、普通に考えれば、そうなるか……。
「その竜の子は、神龍の子だろ? だったら言い伝え通りにいけば、お前らのどっちかが救世主になるんだろう? だったら今の内に恩を売っておいたら、後々旨い話が来るかもしれねぇじゃねぇか」
国が変わってもアルと救世主の話は通じるらしい。バランは自分の利になると思ったからこそ、話を持ってきたということか。旨い話が付いてくるかは分からないけど、このまま上手く話が進む事が出来れば、恩は忘れないだろう。
ブラッド城へは馬車でも四日は掛かるらしい。歩きなら1週間以上掛かるそうだ。馬も途中休ませないといけない。そして、その時が最も賊に襲われやすいそうだ。モンスターは休憩中だろうが、走っていようがお構いなしみたいだけど。
暫くすると通り過ぎる景色が少しずつ遅くなってきた気がする。バランもその事に気付くと、
「馬が疲れて来たみたいだな。そろそろ休憩だ。さて、仕事をするかな……。ちっ。やっぱり居やがる……」
バランは、隣の冒険者に話をすると、冒険者が立ち上がり、御者に何かを話に向かった。
「居やがるって?」
「仕事だよ。お前たちにも約束通り手伝ってもらうぞ」
この言い方。賊か待ち伏せをしているという事か?
「盗賊?」
「そうだ。お前たち当然戦えるんだろ?」
「まあ、戦えるかと言われれば戦えるけど……」
賊とはいえ、人を殺すのには躊躇いがある。それを察したのだろう。バランはすぐに言葉を付け足した。
「なぁに。賊どもから荷を守るだけだ。見たところ、まだ人を殺した事は無さそうだ。無理に殺せとは言わない。追い払うだけで構わん」
バランの言葉に俺もミコトもホッとする。
馬の足が完全に止まった。辺りには盗賊らしい姿は見えない。
「さあ、降りるぞ」
バランの合図で俺たちを含めた護衛任務を受けた冒険者達が馬車から降りる。
「バランさん。盗賊は何処に?」
「この先に潜んでいる。ここらには居ないからな、敢えて待ち構えている所に馬車で向かう必要は無いだろ? ここからは、俺たちだけで賊の所に向かい、撃退する。野郎ども! 行くぞ!」
バロン達は賊が待ち構えているという元々休憩予定だったポイントへ駆け出した。それにしても今の掛け声は、こっちが賊みたいだったぞ……。
バロンが隣の男に指示を出すと、隣の男は走りながら弓を構え、そのまま前方の空に向けて矢を放った。放たれた矢は孤を描きながらかなり遠くまで飛んでいく。
何かアーツを使ったのだろう。通常ではあり得ない距離を飛び、地上に当たると爆発を起こした。爆心地から叫び声が聞こえる。
「良いぞ。先制攻撃は成功だ。さあ、蹴散らすぞ!」
「<アドバンスギア>」
「<アドバンスフォース>」
「<アドバンスプロテクション>」
他の冒険者たちが全員に強化魔術をかける。不意打ちを受けた賊もこちらへ雄叫びを上げながら走って来ていた。
賊の姿を確認した俺はスライムブロウを両手に装備する。ミコトも立ち止まりロッドを構え、<ウォーターアロー>を準備する。さっきの冒険者が矢を放つのと同時に賊からも矢の雨が放たれた。
「<アクセルブースト>」
俺は矢の雨が届く前に一気に前へと駆け出す。他の冒険者を追い抜き、バロンが叫ぶ。
「馬鹿! 前に出過ぎだ!」
バロンの声を聞き流し、一番近い賊に向かって方向を変える。そして、勢いのまま右拳を前へと突きだすと、その賊は全く反応出来ず、顔面に俺の拳が直撃する。
「ぶげっ」
うん? この声どこかで?
殴られた賊は、後ろを走っていた仲間を巻き込みながら吹っ飛んでいった。弱っ。何、今の賊……。
「やるじゃねぇか! 負けてられねぇぞ! お前らぁ」
バロンが腰の剣を抜く。バロンの前にいた賊を斬り捨て、次の賊へと向かっていった。
他の冒険者たちもバロンに続いて次々と賊を倒していく。
「何だ? こいつら強ぇぞ!」
「誰だ! いいカモが来るって言った奴は!」
賊達は自分達と相手の実力差が大きい事に気付き、後退し始める。
「よし、奴ら撤退し始めた! このまま押し切れぇ!」
バランが味方に号令を出すのと同時に、バランの持つスキルがこちらに向かって来る存在に気が付く。それは、賊の中にも同じスキルを持つ者がバラン同様に気付いた。
「おい、ヤバい! 後ろに逃げるな!」
「賊を追うな! まずい。死体の匂いを嗅ぎつけたか……」
二人がそれぞれの味方に足を止めるように指示をする。何が来るというのだろう?
そして、それは硬い足場である岩の中から突然現れ、その場に立っていた賊を一飲みで平らげた。
「ロ、ロックワームだぁ」
「に、逃げろぉ」
現れたのは体長は六メートル程、太さは直径一メートルはある巨大なワームだった。
「馬鹿野郎! 動くなっ!」
ロックワームに驚き、散開した賊の一人の体がフッと消えたかと思えば、別のロックワームが地面から現れる。
「不味いぞ。ここはロックワームの巣の近くだったんだ」
次々と現れるロックワーム達に賊達は喰い荒らされる。現れたロックワームのその数は二十体。
そして、賊達を粗方喰い尽くしたロックワームは、俺たちを標的に選び、こちらへと向かって来るのだった。




