新たな旅の始まり
サウスバレンの港町ウェステンドに到着した俺達は早速情報を集めるために冒険者ギルドへと向かった。
サウスバレンは荒野の国。緑も少なく荒れ果てた岩場が多い国で、ならず者が多いという話を聞いていたが、ここウェステンドはガートピアとの交易があるからか、ならず者と呼ばれるような荒れた人間は居なかった。冒険者ギルドには、商人や船の護衛クエストを受けた腕利きの冒険者達が大勢いた。特に、今はガートピアから船が着いたばかりだ。それもあって、いつも以上に人が多かった。
「人が多いな。何か情報が手に入ると良いけど……」
こっちに来る前にここサウスバレンとサウザートは開戦間近という話を耳にした。場合によっては、国同士の戦争に巻き込まれてしまう可能性だってある。戦争なんてニュースで別の国が始めたなんて話は聞いた事はあっても、自分がそういう状況になった事なんて一度も無い。出来る事なら経験なんてしたくはない。
それぞれの国の魔王とアルを会わせて、プリメラみたいに昔の記憶を取り戻し、戦争を止める。プリメラに言われたが、そう簡単にいくような話じゃない。ここの国も俺達のように日本からこっちに召喚された人間がいるはずだ。
ヒデオのように他の女神や魔王を滅ぼそうとしているのか、それともミコトみたいに力を貸してくれる人物か。どんな情報でもいいから欲しかった。
そういえば、ヒデオはどうやってプリメラの所まで来たのだろうか?
このサウスバレンとサウザートは開戦間近なのに、敵国の船に乗るなど出来ないはずだが?
「アスカ?」
俺が考え込んでいるとミコトが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。アルも俺の顔をじっと見ている。
「ごめん。ちょっと考え事をしていただけさ。心配ないよ」
「ポーラの体調を心配していたの?大丈夫よ。プリメラ様が付いてくれているから」
「あ、そうじゃないよ。ポーラも心配だけど」
「じゃあ、なぁにぃ?」
「ヒデオがどうやってここからプリメラ様の所まで来たのかが気になったのさ」
「そう言われれば、そうね。まだ始まっていないとは言っても、戦争をするような敵国の人間を船に乗せるとは思えないね」
「密航したんでしょぉ」
「そうかもしれないけど、俺達が乗った船を考えたら見つかっても不思議じゃないだろう。だから、あいつは人に感付かれないスキルとかを持っているのかもしれない。気を付けるに越した事はないだろう」
ミコトとアルが確かにと頷く。あいつの魔銃を隠れた場所から狙撃でもされたら、ひとたまりもない。隠密スキルを看破するスキルみたいなものが必要になってくるかもしれない。
それはそうとして、ここにいる冒険者達から話を聞かないと。
俺とミコトは手分けして、冒険者達から話を聞いて回った。それで分かった事は、やはり開戦が近いという事。今、魔王ブラッドは自分の兵以外にも冒険者を募っているらしい。流石に戦争への参加ともなれば中々集まらないらしいが、それでももうサウザートとやり合うには十分な人数が揃いそうだという事。早くブラッドに会う必要がありそうだ。
そして、ここに召喚された異世界人も女性だという事。なんでも変わった職業でこっちの世界には一人もいないそうだ。俺達異世界人はユニークジョブに就くのだろう。ミコトの聖女も、聖女という言葉はあっても、職業としては聞いた事が無いという話だったらしい。それでその変わった職業だが、変わっているという話しか分からないらしい。誰も本人を見た事が無いと言っていた。だから、どんな職業なのかは謎だとか。
あとは、ここにも試練の塔のような神器が手に入るダンジョンが存在するという事も分かった。魔王から授かる訳ではなく、そのダンジョンの奥に眠っているらしい。そして神器ではなく、魔具と呼ばれるそうだ。その性能は神器と等しい力を持つと言っていた。
「これからどうするの?」
「そうだな」
「はぁい。まずはぁ、ブラッドに会おうよぉ」
アルがブラッドに会う事を提案してきた。それは俺も賛成だ。俺もそう言おうとしていた。
「ああ。俺もそれがいいと思う。まずは、戦争をやめさせよう。プリメラが言っていた事が本当なら、全ての女神と魔王が生きていないとアルの本体を救って、邪神を倒す事は出来ないはず。開戦間近だというのなら、まずはブラッドに会って、戦争をやめるように話をしよう」
こくりとミコトが頷いた。召喚者と魔具はその後だ。ここからブラッドのいる城まではかなり距離があるらしい。歩いていっては戦争が始まってしまうかもしれない。馬車を借りるしかないかと聞いてみたが、馬車を借りる所などここにはないそうだ。困っていると、一人の冒険者が俺達の所にやって来た。
「よう、話し声が聞こえちまった。お前らブラッド城に早く行きたいのか?」
話しかけてきた冒険者の男を見る。見るからにベテラン冒険者という雰囲気の無精髭を生やした男だった。
「ああ、戦争が始まる前に着きたいけど、ここから馬車は出てないって言うから困っているんだ」
「俺の雇い主に頼んでやろうか?今から丁度ブラッド城に荷物を届けるからな。そこらの馬車で行くより全然速いぞ」
「本当に!」
「ああ。但し、あくまで雇い主が了承したらの話だ。ちょっと待っていろ。聞いて来てやる」
男はギルドから出ていくと男の雇い主の元へと向かった。
「連れて行ってもらえると助かるね」
「ああ。でも、その雇い主も急いで向かうという事は、戦争に関わる事かもしれない」
そうだ。こんな時期に急ぎの荷物といったら、戦争の為の武器等を運ぶ可能性が高い。つまり、この荷物が届いたら戦争が始まってしまうなんて事もあるかもしれない。
「よう、待たせたな」
男と一緒に若い男がもう一人やって来た。
「あなた達ですか?僕の馬車に乗せて欲しいという冒険者は?」
その若い男は雇い主らしい。武器を取り扱っているような男には見えないが。
「良いですよ。但し、道中、モンスターや賊に襲われた時は、このバランと一緒に僕と荷物を守ってくれるのが条件です」
「それは乗せて貰えるなら、当然護衛させてもらいます」
「では、交渉成立ということで。直ぐに出発するので用意をお願いします。バラン、案内してあげて下さい」
「分かった。自己紹介が遅れたな。俺はバランだ。宜しく」
「アスカです」
「ミコトです」
「アルだよぉ」
「「宜しくお願いします」」
「よろしくぅ」
俺たちはバランのお陰でブラッド城へと向かう馬車に乗ることが出来た。さあ、ブラッド城へ向けて出発だ。




