ポーラの離脱
魔王の刺客を名乗った結城 英雄。こっちの世界で言うとヒデオ・ユウキ。魔銃士というユニーク職業。そいつは、プリメラとミコトを殺しに来たのだと言う。
そして、ミコトを守るためにポーラがヒデオの凶弾に倒れた。今は<ホーリーバリア>の中にいるから少しずつとはいえ回復しているはず。
ヒデオは俺に照準を合わせたままだ。俺が聖女ではないという事で、俺を撃つか悩んでいるのか?
「やっぱり召喚者同士、仲良くするなんて有り得ないな。お前も殺しておけば、後々が楽か」
どうやら俺を殺すことに決めたみたいだな……。だったら、正当防衛だ。俺だってやってやる。
「死ね。<ノーマルバレット>」
ビデオが、魔銃を撃つ。魔銃というだけあって、実弾じゃなく魔力弾なのだろう。弾切れは期待しない方が良さそうだ。
ヒデオの構えから、弾道を予測して、弾を避けながら、距離を詰めて行く。次々と魔銃を撃ってくるが、流石に素人の腕だ。構えた方向を見て大きく避ければ、弾が当たることは無かった。
「ちょこまかと!」
もう少し。今だ!
「<アクセルブースト>」
スキルを使い、加速した俺を捉える事が出来ず、俺の攻撃範囲まで距離を詰めた。
「ちっ。こいつ! <魔銃(散)>」
ヒデオの言葉を耳にした瞬間、後ろに飛ぶ。
「遅ぇよ」
撃たれた弾が炸裂し、散弾がバラ撒かれる。これは回避出来ない。ヤバい。殺られる!
「させない!」
プリメラの声と同時に俺の目の前に障壁が現れ、散弾は全て防がれた。
「助かった。ありがとうございます。プリメラ様」
「油断しないで。まだ、戦闘は続いているわよ」
「俺の魔力弾がこうも簡単に何度も防がれるとは……。ちっ。出直した方が良いのか?」
ヒデオは手にしていた魔銃を持ち替えると、プリメラの張った障壁に魔力弾を三発撃ち込む。ピンポイントで同じ位置に命中した事でプリメラの張った障壁は砕け散った。素人なのかプロなのかよく分からない腕前だ。
「戦闘力に乏しい女神だからと侮らないでほしいわね」
プリメラが、ビデオに向けて右手を掲げると、右手の先に魔力が集まる。
「<サイクロン>」
ヒデオを中心に小さな竜巻が起こる。
「上位魔術! くそっ、腐っても女神か!」
「誰が腐っているのよ! 吹き飛んじゃいなさい!」
ヒデオは竜巻に捉えられ、上へと巻き上がっていく。
「舐めるなぁっ! <アースバレット>!」
魔銃をショットガンタイプに持ち替えると、竜巻に向けて弾を放つ。風属性の対となる地属性の弾が広範囲に竜巻と衝突し、竜巻が掻き消されてしまった。
「どんなもんだ!」
「凄いな。でも、まだ終わりじゃない!」
俺は空中に投げ出されたヒデオに向かって飛び上がっていた。そして、ヒデオが魔銃を構えるより早く俺の拳がヒデオの鳩尾に当たる。
「そんなカスの攻撃……」
「<衝波>!」
俺の放った衝撃波がヒデオの体内を駆け巡る。
「がはっ……。ば、馬鹿な。あり、得ない。俺はレベル三十だぞ。何なんだ、こいつは。レベル十五の雑魚じゃないのか?」
全力の<衝波>を当てたのに倒れないのか? ビリーやあのカオスドラゴンでさえ倒せた俺の必殺の一撃だぞ。
「今のは、防御力無視のアーツ……か。少し舐めて掛かりすぎた……。仕方ない、出直す。覚えていろよ! <ゲート>」
ヒデオの後ろに黒い門が現れ、ヒデオはその中に飛び込んだ。ヒデオが飛び込むと門は、その姿を消した。
どうやら<衝波>のダメージはそれなりにあったのだろう。何より退却してくれて助かった。あのまま戦闘が続いていたら、負けていたと思う。
撃たれたポーラの様子を見ると、ミコトが<ホーリーバリア>を解除して<ヒール>をかけていた。
「ミコト、ポーラは?」
「傷は癒えた筈なのですが……」
見ると確かに傷は塞がっている。だけど、目は閉じたままだ。
「目を覚まさないんです……」
様子を伺っていたプリメラがポーラの額に手を当て、何か確認をしていた。
「これは……、いけない。ポーラの魔力の流れが狂っている。傷が癒えても意識を取り戻さないのはそのせいね」
「プリメラ様、それはどういうことですか?」
「さっきの見たことも無い、あの武器。あれのせいで、ポーラの体に流れる魔力が正常に流れていないのだと思う。これは、私でも治療することは無理」
「そんな……」
「ごめんなさい。女神とはいえ、全能ではないの」
「だったら、他に誰か居ないんですか?」
ミコトの質問にプリメラは首を横に振った。
「ごめんなさい。こんなことは初めてだから。治せる者がいるのかも分からない」
そんな、ポーラは一生このままなのか? まさか、これが占い師の占いの結果だとでも言うのか……。
「とりあえず、ポーラについては私が何とか助かる方法を探すわ。アスカ、あなたは旅に出なさい。そして、他の女神と魔王に会いなさい」
プリメラがアルに触れる。
すると、アルの体が金色に輝き始めた。
「アル、あなたの力もこれで少しは取り戻せたでしょう」
「うーん……。分からないなぁ。でも、プリメラは本体に力を貸してくれたんでしょう?」
「ええ。貸したというか、返したのだけどね」
「だったらぁ、たぶん、力が戻っているんじゃないかなぁ」
プリメラは俺の方に向き直り話を続けた。
「あなたはアルと共に他の女神と魔王に会って、私のようにあの方に力を返させなさい。そうすれば、あの邪神を倒す事が出来るでしょう」
「でも、ポーラを助けてやらないと…」
「だからこそ。あの方なら或いは……。治療出来るかもしれない」
アルの本体ならポーラを救えるかもしれないと言うのか。なら、俺は……。俺に出来る事は……。
「分かりました。プリメラ様。俺は他の女神と魔王に会う為の旅に出ます」
「頑張って。アル、アスカの力になってあげるのよ」
「勿論だよぉ」
アルは俺の周りをくるくると飛び回りながら、肯定する。
「あの、私も行きます。行ってもよろしいですか?」
ミコトが俺達に問いかけてきた。
「え、良いのか? 俺は構わないけど。寧ろ、ミコトのサポートは有りがたいよ。でも……」
俺がプリメラの方を見ると、プリメラも頷く。
「ミコト。一緒に行きなさい。アスカの手助けを、私に代わってしてあげて」
「はい!」
「じゃあ、これからも宜しく。ミコト!」
「私こそ、宜しくお願いします」
ポーラを救う次いでにこの世界を救う事になるのかな? 世界はともかく、こっちに来てここまで面倒を見てくれたポーラは絶対に救ってみせる。
俺は心に誓うのだった。




