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異世界呪われた救世主〜異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす〜  作者: 陽月純
第1章 救世主と聖女

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カオスドラゴン討伐

 カオスドラゴンの体が白く光っている。漆黒の体とは思えない程に。そして、放たれたブレスはMPを使い果たしたため、<ホーリーバリア>を新たに張る事が出来ない俺達を守っている最後の一枚に直撃した。


「くそっ。間に合わなかったか……? あれ、何ともないぞ」


 よく見れば最後の<ホーリーバリア>が完全にブレスを防いでいた。


「……どういう事?」


 ミコト自身も信じられないといった表情でバリアに防がれているブレスを眺めている。


 ミコト自身も信じられないといった表情で青い壁の向こうに留まっている黒い炎を呆然と眺めていた。


「言ったでしょ。私があれの力を封じると。今、あれの力は本来の百分の一程度。あなた達でも倒せるはずよ。でも、私の力が予想以上に落ちたのと、あれの力が強い。保ってあと二分といった所だわ。それまでに倒さなければ、私を含め全滅してしまうよ」


 二分! たったそれだけであの巨大な黒竜を倒すなんて本当に出来るのか?


「アスカ、ポーラ。私の<ホーリーバリア>から出たら、多分中にはもう入れないと思います。気を付けて」

「「分かった」わ」


 俺とポーラは目で合図すると左右に分かれてバリアの外へと走り出す。


「<ソニックエッジ>!」


 ポーラの斬撃はカオスドラゴンへと命中するが、掠り傷の一つも付いていない。


「なんて硬いの! これで百分の一って、冗談じゃないわっ」


 カオスドラゴンは、力を封じられていても俺達よりも速かった。ポーラの目の前に素早く移動すると腕を振り上げ、力任せに叩き付けた。ポーラはそれを腕でガードする。驚くことにガードしたポーラの腕には傷一つ付いていなかった。


『馬鹿な。我の一撃が虫ケラ如きに傷一つ付けることが出来ないだと! おのれ! 劣等神が! 小癪な真似を!』


 ポーラに気を取られている内に俺は奴の足下に辿り着いた。ポーラの攻撃で傷一つ付かないということは<衝波>しかダメージを与えられないだろう。


 足下に着いたとはいえ、奴は宙に浮いている。直接攻撃を当てるにはどうすればいい?


『虫ケラが。チョロチョロと五月蠅いぞ』


 長い尾を俺に向けて勢いよく振り下ろす。その一撃を受け吹き飛ばされてしまった。


「くっ……」


 俺の防御力じゃ無傷とはいかない。また距離が開いてしまった。ポーラも攻撃を続けるが傷一つ付けられず、時間だけが過ぎていく。

 カオスドラゴンの頭上に十個の魔術陣が浮かび上がる。その魔術陣一つに対し、十本の黒い矢が現れる。


『<ダークアロー>』


 合計百本の黒い矢が俺達に向かって放たれる。


「これは、流石にしんどいぞ!」

「痛ぅっ」


 俺はなんとかギリギリで躱したが、ポーラは何本か受けてしまったようだ。物理攻撃は耐えられたが、魔術はカオスドラゴンの方が上回っていたらしい。ポーラの動きが止まってしまった。


『止めだ。<シャドウファング>』


 カオスドラゴンがポーラに向けて魔術を放とうとしたが、何も起こらない。


『どういう事だ? 魔術が発動しない?』

「当たり前です。能力が百分の一に下がっているのです。そのような高位魔術が扱えるはずがないでしょう」


 ポーラは助かったとほっとしていたが、さっき受けた傷は思いのほか重かったようで、その場から動けないようだ。


『<ダークランス>』

「<ホーリーバリア>」


 MPを回復したミコトがポーラにバリアを張る。黒い槍がバリアに塞がれた。


「良かった。間に合った」

「二人共、もう時間がないわよ。もう<破邪封殺・縛>はあれに通じないから。ここで倒さないと……」

「分かっているよ!」


 プリメラの表情を見ていても分かる。かなりきつそうだ。もう限界なのだろう。残り僅かな時間、何としてでも倒す。


「無茶してでもやるしかない。うぉぉぉぉぉっ」


 俺は叫びながら、奴に向かって駆け出す。


『無駄だ。<ダークランス>』


 だが、何も起きない。


『……おのれ……、<ダークランス>すらもう撃てないのか。ならば、<ダークアロー>』


 これも何も起きない。どうやら、奴のMPは既に使い果たしてしまったようだ。


『<ダークアロー>もだと……。ならば、この爪で切り裂いてくれる!』


 カオスドラゴンが鋭い爪を突いてきた。それは空を裂きながら、俺に向かって放たれる。それを待っていたとばかりに、腕の上に乗るとそこを駆け上がる。


『な! 虫ケラが我の体を登るなど』


 俺を振り払おうと腕を振るが、もう遅い。俺は奴の胸目掛けて飛び上がった。反対の腕で俺を叩き落とそうと奴が振り上げた時、俺の拳が奴の胸に届く。


「これでどうだ! <衝波>ぁっ!」


 奴の胸に衝撃が走る。だが、俺も奴に叩かれ、床に叩きつけられた。


「かはっ」

『虫ケラの攻撃など。き……。ぶはっ』


 <衝波>の衝撃は奴の心臓に達すると、心臓が破裂し、奴は口から大量の血を吐き出した。


『ば、馬鹿な……。我が、この我が……。虫ケラに……』


 奴の目から光が消え、地面へと落下していく。あの巨体が落ちたら、地上はただじゃ済まないぞ。


「やったわね。アスカ」

「でも、このままじゃ、あいつが地上に」


 この場にいる者は皆、満身創痍だ。プリメラも力を使い切ったようで膝を付いている。


「大丈夫ぅ。僕に任せてぇ」


 アルが<空納>から外に出ると、カオスドラゴンを追いかけるように飛び出していった。


「アル! どうするつもりだ!?」


 地上までもう半分程の高さまでカオスドラゴンの死体が落ちると、下の住人にもカオスドラゴンが落下してきているのに気付いた。


「おい、落ちてくるぞ」

「あれ、かなりでかいぞ」

「逃げなきゃ。潰されちゃうわ!」


 地上が避難する住人達でごった返していると、アルがカオスドラゴンに追いつく。


「いっただっきまぁすっ!」


 思い切り息を吸い込むと、カオスドラゴンの巨体がアルの口の中へと吸い込まれていく。上から見ていても、あの巨体がみるみるうちに小さくなっていき、アルが全てを食べ尽くしてしまった。


「なんだ? 消えたぞ?」

「助かったの?」


 アルがこっちへ戻って来る時には、地上は歓喜の声でいっぱいだった。


「ただいまぁ」

「アル、お前の腹はどうなっているんだよ……」

「流石に、お腹いっぱいだよぉ」


 アルの拍子抜けする言葉に俺達の緊張も解け、皆、寝転び大笑いを上げた。


「よく、倒してくれたわね。皆。心から感謝を」

「いえ。プリメラ様の力が無ければ、倒すことなど出来ませんでした」

「そうですわ。プリメラ様。私たちだけでは、何も出来ず全滅していたでしょう」


 本当に良かった。思わぬ敵との遭遇だったが、皆、無事に生き残れた。さて、プリメラとこれでゆっくり話が出来るかな。

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