女神プリメラ
階段を上ると、これまでの試練のあった階と違い、狭い部屋へと出た。部屋は狭かったが、そこは全く空気が違った。大きな玉座のような椅子があり、部屋の空気からは神聖さを感じる。
そして、大きな椅子には、一人の少女がちょこんと座っていた。それが部屋の雰囲気と合っておらず、違和感を覚えさせる。
「プリメラ様」
ポーラがその少女に声を掛ける。あれが、女神プリメラなのか? ただの少女にしか見えないぞ。
「よく試練を乗り越えて来たね。こっちへおいで」
その少女の声は、やはり少女のような声だ。だけど、声には少女とは思えない力強さを感じる。俺達は少女の前へと歩き、ポーラとミコトが跪いたため、俺もそれに倣い跪く。
「そんなに畏まらないで。立ちなさいよ」
言葉使いが変わった?
「ほら、ミコト、ポーラ、あなたも。立って。私、そういう堅苦しいのは嫌いなのよ」
ポーラが立ち上がったので俺も立ち上がる。
「プリメラ様、相変わらずですね」
プリメラが微笑む。その笑みは女神と言うより本当に幼い少女のような表情だ。
「本当。私がここに呼ばれた時から、変わらないです。女神様なのに、神様っぽくないですよ」
「いいじゃない。私はこういう神なの。ところで、あなた。名前は……。そう。アスカと言うのね」
俺が名乗る前にプリメラは俺の名前を当てた。驚いていると、別に驚くようなことではないと首を横に振る。
「私はこれでも女神なのよ。あなたの魂の情報を読む事くらい造作でもないわ。それより、あなたはミコトと同じ異世界人なのね。誰に呼ばれたの?」
プリメラの語気が強くなる。俺を警戒し、威圧するように。
「確かに俺は異世界人だ。アルが言うにはアルの本体らしいけど。それもよく分からないんだよ」
「アル? 他の女神や魔王の分身にそんな名前の者は居ない筈だけど……」
プリメラが首を傾げると、<空納>からアルが姿を現した。
「ドラゴン?」
「やあ、プリメラ。僕がそのアルだよぉ」
こいつ。試練の塔に入ってから一度も出て来なかったくせに、ここに来て何事も無かったように出て来たぞ。
「おい、アル。お前今まで出て来なかったのに、突然出てくるなよ」
「アスカ、僕プリメラに用事があるって言ってたでしょうぉ」
「ドラゴンが私に何の用があると言うの?」
プリメラの口調が厳しくなった。明らかに警戒している。今にもアルを攻撃しそうな雰囲気だ。
「そもそも、ドラゴンに呼び捨てされるような私ではない。分を弁えなさい」
「僕の事ぉ、やっぱり分からないのかぁ」
「お前など知らないわ。馴れ馴れしい。消えなさい」
何か物騒な展開になって来た。アルを殺されるのは困る。俺はアルとプリメラの間に割って入る。
「プリメラ様、アルを殺そうとするのは止してくれないか。俺が元に戻るのにこいつは必要なんだよ」
プリメラが俺を睨みつける。その視線からは幼い少女の姿とは思えない威圧を感じる。ポーラとミコトもその威圧の気圧され、その場から一歩も動けず、声も出せないでいた。
「黙りなさい。それを庇うのなら容赦はしないわよ」
アルが俺の肩を小さな手でポンと叩き、大丈夫と言うと、アルがプリメラの目の前にすっと飛んでいく。
「思い出してもらうよぉ」
アルの体が眩い光を放ち、光の球体が現れるとプリメラとアルがその光に包まれた。アルの体が眩い光を放ち、光の球体が現れるとプリメラとアルは光に包まれ俺達から見えなくなってしまった。
光の中、プリメラは立ち尽くしていた。
「ここは? ドラゴンは何処に?」
それにこの光は? 何故か懐かしい感じがする。どういうこと?
「……え……すか?」
何か声が聞こえる。プリメラはその声が何処か聞き覚えごあるような気がした。
「誰?」
プリメラはその声に問いかける。
「聞こえますか?」
「聞こえるわ。あなたは誰? さっきのドラゴンなの?」
「プリメラ。良かった。私の声が届いた。私はアルではありません。今、アルの体を通してあなたに語りかけているのです」
「ドラゴンでないのなら誰?」
「あの者の影響でやはりあなたも私の事が分からないのですね。私はかつてあなた達六人に力を分け与えた者」
「私達に力を?」
プリメラは首を傾げる。女神である自分に力を分け与えるなど、居る筈がない。そのような者が居れば、それは自分達よりも高位の存在となる。神よりも高位の者など存在するものか。
「私に力を与えるなんて嘘だわ。本当の事を言いなさい」
「……。そう。直接会話をしても思い出せない程、私の力が弱っているのね」
誰なのだ? 私が分からない事を本当に悲しそうに話をする。思い出してあげたい。でも、思い出せない。どうすれば……。
「プリメラ、あなたにお願いがあります。私が分け与えた力、その一部を私に返して貰えませんか?」
「それは? 私を騙して力を奪おうとしているのではないの?」
プリメラは、謎の声の主を疑っていた。他の魔王や女神が自分の力を奪おうとしているのではないか? そう思ったからだ。ただ、この声からは邪悪さを感じないのも事実。
「そのような事はしません。それに与えた力を全て返して貰えば、あなたは女神として存在出来なくなってしまう。それは私の望むことではありません」
「私が女神でなくなる?」
つまり、分け与えた力とはプリメラ自身の存在そのもの。女神を創り出す存在など……。
「あなたも神なの?」
「私に力を返して戴けませんか? そうすれば私の事を思い出すかもしれません……」
「本当に騙すつもりは無い?」
「はい。決して。私が力を返して欲しいのは、邪神を抑える力が弱まってきたからです」
「邪神?」
この世界にそんな存在が? 邪神を抑えるということは、それ相応の力があるのか。
「もしかして、あなたがアスカを召喚したの?」
「はい。アスカは邪神を倒せる力を持っています。あなた達が異世界召喚の魔術を使ってくれたから、アスカを探し出すことが出来たのです」
プリメラは暫く考え込んだ。この何処か懐かしい声の持ち主を思い出すことが出来るのかもしれない。なら、力を少し返す位なら……。
「分かった。あなたを信じる。どうぞ、持っていって」
「ありがとう。私の可愛い娘……」
プリメラから力がアルに向けて流れていく。
「あぁぁ……」
思ったよりも力が抜ける。これで私は本当に女神として存在出来るの?
「!」
声の主に力が少し戻ったからなのか、プリメラは声の主が何者だったのかを思い出した。
「……そう。そうだったのね。アル。あなたの事も思い出したよ」
声の主は、ありがとうと礼を言うと輝きが収まっていき、プリメラの目の前にはアルの姿が。そして見慣れた自室の景色に戻った。
「何だったんだ? 今の光は?」
俺が問いかけるとプリメラが答えた。
「あなたの事は分かったわ。そして、アル。あなたの事も」
「良かったぁ。じゃあ、力を貸してくれるのかな?」
「貸すも何も、さっき力を返したわよ」
「?」
プリメラとアルの話が噛み合っていないようだが、大丈夫なのか? 二人の様子を見ていると、二人が突然驚いた表情で同じ方向を向いた。俺達も二人の見た方向を見たが何も無い。
「そんな! これは……」
「この邪気は、カオスドラゴンだぁ!」
アルの口から物騒なモンスターの名前が上がったのだった。




