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異世界呪われた救世主〜異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす〜  作者: 陽月純
第1章 救世主と聖女

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親子

 宿を出たポーラとミコトは冒険者ギルドへと真っすぐ向かっていた。ミコトは特に気負う事もなく歩みを進めていたが、ポーラはやや表情が暗かった。


「ポーラさん、何だか顔色が悪そうですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。父さんに会うのが久しぶりでちょっと気が重いだけだから」

「そうなんですか? でも、トーマさんはちょっと厳しそうだったから、少しだけポーラさんの気持ちが分かるかも。私も元の世界では、一人暮らしをしていて父と離れていたから。私の父も厳しかったので」

「そうなの? 父さんは厳しいというか、ただの頑固なおじさんだわ」


 ミコトと話をしていてポーラの気持ちが落ち着いたのか、さっきまで暗かったポーラの表情が和らいでいた。


「それじゃあ、お互い話を付けてきましょう」

「はい!」


 冒険者ギルドへと辿り着いた二人は、ギルドの中へと入って行った。ギルドの中はアンファ村と違い、大勢の冒険者で賑わっていた。クエストボードにも多くの依頼が貼りだされている。二人が入るとすぐにミコトの元へ走って来る男がいた。ビリーだ。


「ミコト! 良かった無事だったんだね。ポーラ。君が守ってくれたのか。感謝する」

「あなたに感謝される覚えは無いのだけれど」

「ビリーさん。心配をしたのはこっちですよ。皆さんが転移で消えた時には本当にどうしようかと思いました」


 三人が話をしているとギルドマスターであるトーマが三人の元へ近付いてきた。


「ミコト。良かった無事で。ポーラ。何故お前がここに居る。すぐにアンファに戻るんだ」


 トーマはポーラを見るなり、追い返そうと表情が強張る。首都エスティの冒険者達をまとめる者というだけの事はあり、圧力が凄い。ミコトが気圧されている。


「父さん、話があるの。それとそんなに威圧しないで。ミコトが怖がっているわよ」

「お前がここを立ち去れば良いだけの事だ。話など聞く必要は無い。さっさと帰れ」


 ビリーも事情が呑み込めておらず、どうしたものかと困っていると、マリーがそこへやって来た。


「ビリー、ミコト。私たちはあちらへ行きましょう」

「そ、そうですね。ポーラさん。それではまた後で」


 ミコトはマリー達と奥のテーブルへと歩いて行った。ポーラはトーマに話を聞いてもらおうとなおも食い下がる。


「いいえ、話を聞いてもらうわよ。アンファ村のギルマスから、父さんにきちんと話しなさいと言われているのだから」

「お前と話す事などない。早く出ていきなさい」


 トーマは全く聞く耳を持とうとしない。だが、それならとポーラはそのまま話を進める事にした。


「いいわ。どうせすぐに出ていくのだから。でも、これだけは言っておくわよ。私はアンファ村には戻らないわ」

「どういう事だ!」


 トーマの怒声に周りの者の視線が集まる。受付の奥から見かねた秘書らしき女性が小走りに二人の元へやって来た。


「マスター。声が大きいです。奥の部屋で話をなされた方が良いのでは?」


 女性に促され仕方ないと観念したトーマがポーラへ奥で話を聞くから付いてこいと奥へと入って行った。やれやれと女性は溜息を吐いて、ポーラの肩を軽く叩くと、小さな声で頑張ってと応援してくれた。ポーラはありがとうと小さな声で礼を言い、トーマの後を付いていく。


「どういうつもりだ。なぜアンファ村へ帰らない」

「私は仲間と旅に出るわ」

「旅? ほう。それならば勝手に行けば良いではないか。ここに帰ってこなければ、それ以外ならどこでも構わない。早々に旅立ちなさい」


 トーマは一刻も早くポーラをエスティから離れさせようとしていたが、ポーラは首を横に振る。


「出ていくけれど、それは仲間が試練の塔に挑んでからよ」

「駄目だ! お前の仲間がどんな奴か知らんが、試練の塔に挑もうものなら三日はこの街に滞在してしまうだろう。絶対駄目だ。今すぐ立ち去れ!」


 ポーラは、はぁっと大きなため息を吐く。


「父さん、あの占いを信じているから、そんなに私を追い出したいのでしょう?」


 ポーラの一言にトーマが一瞬動揺するが、すぐに言葉を返した。


「何の事だ?」

「惚けても駄目よ。私が占いの事を知らないと思っているのは父さんだけ。姉さんも知っているし、私も知っているわ。私がここに居たら死んでしまうという占いの事は」


 今度はトーマの動揺が隠し切れなかった。


「な、何故。あの占い師、まさかお前に喋ったのか!」

「そうよ。父さんが占い師の所に行った後からすぐに私を追い出そうとしたから、尋ねたら教えてくれたわ」

「知っているのなら、尚更だ。早く立ち去りなさい。占いの日が近いのは知っているだろう!」

「心配してくれているのね。ありがとう。でも、私は占いなんか信じないわよ」

「あの占い師はもう死んでしまったが、当たる事で有名なのだ。母さんを早くに亡くし、お前まで死んでしまうなど、私には耐えられない」

「大丈夫よ。絶対死なないわ。私は強くなる。仲間達とともに」

「大体、仲間だと。アンファ村にはお前よりも弱い奴しかいないだろう。そんな奴らと試練の塔に挑んだ所でお前は強くなれない。私は本当にお前の事が心配なんだ。ポーラ。頼むからここを出て行ってくれ」


 トーマがポーラの手を握るとポーラはその手を強く握り返した。


「大丈夫。父さん。私の仲間はこの世界の救世主らしいわよ。まだそんなに強くないけど、彼女、いえ、彼は絶対に強くなる。私は力になってあげたいのよ」


 ポーラの意思は固い。トーマもその事が十分に分かっていた。だが、やはりトーマは占いが覆るという風には思えなかった。


「よし、なら、こうしよう。そのお前の仲間とやらをここに連れて来なさい。そいつとビリーを戦わせ、勝てたならそいつと試練の塔を挑む事を許そう」

「なんでそうなるのよっ! ビリーだって戦わないでしょう」


 その時、ドアが開きビリーが中に入って来た。


「マスター、ドアの前で話は聞こえたよ。いいぜ。丁度良かった」

「ビリー! どういう事!」


 すると、ビリーに続きマリー達がミコトを連れて中に入って来たのだ。


「ビリーさん!」

「ミコトは黙っていろ。俺は認めない」


 何の事だろうとポーラがミコトを見ると、マリーが説明を始めた。


「マスター、ミコトが、ポーラともう一人の仲間。アスカさんと旅に出ると言い出したのです。私たちは反対したのですけれど、ミコトがどうしてもと言うので、ビリーが自分を倒せばミコトの旅を許すと言い出しまして……」

「ほう。何だ。だったら丁度良いじゃないか。よし、私が許す。その者を今すぐここに連れてきなさい。修練場で模擬戦をするのだ」


 ポーラとミコトは何故こうなったとお互いに顔を見合わせていたが、仕方ないと宿に俺を迎えに戻るのだった。

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