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異世界呪われた救世主〜異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす〜  作者: 陽月純
第1章 救世主と聖女

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首都エスティ

 ベント村がカオスドラゴンによって焦土となって、俺達はもっと強くなるための旅をする決意を固めた。その旅立ちを本当の意味でスタートするために、首都エスティへと歩を進める。ベント村を発ってから四日。あれからは特に何もなく順調に旅は続き、もう首都エスティが見える所まで来ていた。


「あれが、この島の首都エスティよ」


 ポーラが指をさす。首都というだけの事はあり、アンファ村やベント村とは規模が違った。


 街の周りは、大きな外壁に囲まれており、アンファ村が十個は入る位の広さに家や店舗が立ち並んでいるのが分かる。


「でかいな」

「そうね。でも、他の国から見れば、小さいらしいわよ。私も海を渡った事が無いから聞いた話によるものだけれど。特にグレイステラの首都グレイシアは活気に溢れた都市だと聞くわ」

「へぇ」


 それよりも、街の中心に立っている塔。これが一番気になる。とんでもなく高い。上を見上げてもどこまでも続いている。一体どこまで続いているのだろう。


「ああ、あの塔が試練の塔よ。あの塔の上にプリメラ様がいらっしゃるわ」

「あれを全部登ったら会えるといっても…な。ポーラ、よく登り切ったな」


 ポーラはどんなものだと言わんばかりに胸を張った。その大きな胸が強調されて、俺は視線を逸らす。


「凄いでしょう。と言っても、中は階段じゃないから、登るのに体力は要らないわよ。全く要らないわけではないけれど」


 俺とミコトが不思議そうにしている間に、街の入り口へと辿り着いた。入り口には門兵らしき男が立っていた。


「ようこそ。エスティへ……! あ、あなたはっ! 聖女様! よくぞご無事で!」


 ミコトに気付いた門兵が何やら慌ただしく連絡を取り始めた。


「聖女様、冒険者ギルドの方へ向かわれて下さい。マリーさんがお待ちです」

「マリー、試練の塔から戻っていたんですね。分かりました。ありがとうございます」

「いえ。本当に無事で何よりです。あなた達も聖女様をよく連れ帰って来てくれました。感謝します!」


 感謝されるような事じゃないんだけど、まあいいか。冒険者ギルドとは丁度いい。ポーラの用事とミコトの用事の両方を片付けられそうだ。


「冒険者ギルドに寄る前に宿屋を手配しましょ」


 ポーラの提案にミコトも肯定し、俺達はまず宿屋を訪ねた。首都というだけあって、宿屋も数軒並んでいる。何処が良いのかさっぱり分からず、外観を眺めているとポーラが一軒の宿屋に向かってスタスタと歩いていく。


 うん? その宿屋は?


「ここにしましょう」


 見た目が一番古そうな宿屋だ。こう言っちゃあなんだけど、ボロいな……。


「ここ、ですか?」


 ミコトも予想していなかったのか少し嫌そうな表情をしていたが、ポーラはあっさりと答える。


「そうよ。ここが一番この街で安い宿なのよ」


 それは見れば分かる。この外観で一番高いと言われた方が驚くよ。


「どうせ今日一日だけの宿泊になるでしょうし、それに一番安いけれど」


 安いけど何かあるのか?


「お風呂と食事は最高よ」

「「そこに」」


 俺とミコトの声が被った。何しろ、アンファ村を出て風呂に一度も入っていない。日本に居た時に一週間風呂に入らないなんて、病気に罹って熱で入れなかった時くらいだ。俺ならともかく、外では裸で水浴びなんか出来ないし。いい加減風呂に入りたくてしょうがなかったんだ。


 その風呂と食事が最高な上に最安の宿なんて、旅人になんて優しい宿なんだ。宿に入れば、ほぼ満室だったらしく、空いていたのがベッドが二つあるツインの部屋が一つ。ベッドが足らない分、食事と宿代をサービスしてくれるらしく、俺達はその部屋を借りた。


「ラッキーだな。更に安くなった上に、食事を更にサービスしてくれるとは」

「でも、ベッドが2つしかないですけど…」

「私とミコトが一緒に寝て、アスカが一人で寝れば良いのではなくて?」

「いや、俺このソファーで寝るから、二人でベッド使いな」


 ベッドが足らないと分かった時点で、元々そうするつもりだったので俺は二人に譲る。


「良いんですか?」

「ああ。俺は風呂と食事で十分満足出来るからいいよ」

「ありがとうございます……」


 ソファーに座った途端、アルが出てきた。


「退屈だったよぉ。やっと出れたぁ」


 出てくるなり俺の前にあるテーブルの上の果物をパクりと一口でたいらげる。


「あ、これ美味しいぃ。もっと食べたぁい」

「お前なぁ……」


 ポーラとミコトがクスクスと笑っている。


「アル、私達の分はいいから、そこの果物は全部食べていいわよ」

「やったぁ」


 アルは喜びテーブルの上にある果物を食べ始めた。まあ、ずっと<空納>の中に一匹だけで隠れていたからしょうがないのかもしれない。


 でも、人にアルの姿が見られると面倒な事になりそうだから仕方がないよな。何とかしてやりたいけど、今の俺にはいい方法は見つからない。


「アスカ、私達ギルドに顔を出してくるから、あなたはアルとゆっくり休んでいて」

「俺は行かなくてもいいのかい?」


 ポーラとミコトは互いに顔を見合わせると、


「「大丈夫」」


 声を重ねて答えた。まあ、二人共旅を続けることを話しに行くだけだから、俺は必要ないか。


「分かった。じゃあ、行ってらっしゃい。アルと帰りを待っているよ」

「「行ってきます」」


 二人が部屋を出ていくとアルが果物を食べるのを止めた。


「アスカ、君に聞きたい事があるんだぁ」


 うん? どうしたんだ?


「俺に聞きたいこと?」

「うん。とっても大事なこと」


 二人が居なくなってから質問してくる大事な話。何だろう。


「君は…………」


 俺はアルの質問を聞いて、何と答えればいいのか分からなかった。アルも直ぐに返事をする必要は無いと言う。でも、二人が部屋に戻って来るまで俺はアルの質問の答えを考えていた。それは早く答えを出すべきこと。でも、簡単に答えを出すべきでは無い質問。


 質問してきたアル自身は何も聞かなかったかのように、いつもみたいにフワフワ飛んだり、俺の頭の上に乗ったり。


 さて、俺はどうするんだ?

 どうするべきだ?


 アルの質問が頭から離れなかった。


(君はこの世界の救世主になる人間だ。この先大勢の命と仲間の命。どちらか一方を選択しなければならない状況になった時、君はどっちを選ぶ?)

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