カオスドラゴン
巨大な黒竜が村の上空から下を見下ろしていた。黒竜からは恐怖しか感じない。村人たちも突然現れた黒竜に恐れ、悲鳴を上げ、家に入る者。村から外に出ようと走っている者。様々だった。
俺は、武具屋の中へと戻ると、アルに問いかけた。
「アル!
あれは何だ!」
「いいから! 早く、穴ぁ」
俺とポーラがアーツで穴を開けると、中に飛び込んだ。
「蓋、蓋を。早くぅ!」
「蓋って、そんなのないだろう」
「こ、これを」
武具屋の主人が鉄の盾を持ってきて穴の入り口に置いた。
「あなたも入りなさい」
俺は横穴を掘り、四人が入れるスペースを確保すると、店主が慌てて穴に入ると、鉄の盾を使って穴を塞いだ。
「これじゃ保たないよぉ」
アルが鉄の盾をずらし、鉄の盾の上に土を被せる。
「これで何とか保つかなぁ?」
アルはそう言うと、<空納>を使って俺の傍へと戻って来た。
「何なんだよ。一体……」
一方、その頃、ワーズは外に出てこの黒竜の姿を見て怯えていた。酒場の主人も一緒だ。
「な、なんだ。あのドラゴンは……」
「まさか、俺達が、自分たちが助かるためにあの旅人を生贄にしたから、女神様が罰を与えるために寄越したんじゃ……」
「神罰なのか……」
ワーズたちがそんな事を話していると、黒竜が村全体に念話を使って語り掛けてきた。
『ここに我が主の敵となる者が現れた。故に我は駆逐する』
「ま、待ってくれ。そんな奴はこの村にはおらんよ!」
ワーズが黒竜に向かって叫ぶ。黒竜は、ワーズの方をちらりと見ると返事を返した。
『そんな事は知らん。居ようが居まいが、ここに現れたのは事実』
黒竜の口から黒い炎が漏れ出した。そして、大きな口を開くと、その口から黒い炎のブレスがベント村を焼き払った。
一瞬の出来事だった。
黒竜の放ったブレスは村人たちが悲鳴を上げる間もなく、村を焦土と化した。
「おい、何だ。今の衝撃は……」
小声で武具屋の店主が尋ねてくる。
「分からないわ。でも、さっきの声からすると、何か村に攻撃をしたのでしょう」
「そ、そんな……」
俺は外の様子を見ようと外へ出ようと動くと、アルが止めた。
「アスカ、駄目ぇ。まだ。まだあいつ外にいるよぉ。出ていけば、殺されちゃうよぉ」
「アル、お前……。あいつの事知っているんじゃないのか?」
俺の質問にアルは頷く。
「知っているよ。あいつはカオスドラゴン。アスカ。君に呪いをかけたあいつが従える竜だよぉ」
「何だと!」
俺はそれを聞いて、外へ飛び出そうとするのをアルが再び止める。
「だめぇ! 今のアスカじゃぁ、全く歯が立たないぃ。ポーラでもあいつの体に傷一つ付ける事なんて出来ないよぉ」
一瞬だけ見たカオスドラゴンは確かに歯が立ちそうな奴には見えなかった。
「今ぁ、この世界であいつと戦えるのはぁ、女神と魔王くらいだよぉ」
それって、この世界のトップじゃん。何でそんな奴がここに来るんだよ。
「きっとぉ、あいつはぁ、僕の反応をぉ、追いかけて来たんだよぉ」
成程。ファイアリザードと同じか。ファイアリザードの反応が消えた事で奴が現れたということか。
『ふむ。跡形もなく消し飛んだな。周辺に生きている者も皆消えたようだ』
そう言うと飛び去って行った。その姿はあっという間に見えなくなり、今までそこに恐ろしい黒竜が居たのが嘘かのようだった。
カオスドラゴンの気配が無くなったとアルから外に出て大丈夫と言われ、俺達は穴から出て驚いた。
そこには何も無かった。焼けて焦げた大地が残っているだけ。燃え残っている家なども何も無い。
「嘘、嘘だ……。村が……」
ベント村で生き残ったのは、俺達だけだった。武具屋の店主は膝を折り、ただ呆然とかつて村だったその地を見ていた。
「こんな事を簡単に出来る相手と俺は戦うっていうのかよ」
「そうだねぇ。でもぉ、それにはもっと強くならないとぉ」
強くって、そんなレベルの話じゃない気もするけど。
「アル。あなた、さっきあなたの反応を追いかけて来たと言っていたわね」
「たぶんねぇ」
ポーラは少し考え込むと、びっと指を立て俺達に話した。
「つまり、アスカと行動を一緒にしていれば、そのカオスドラゴンとかいうドラゴンが現れる可能性があるという事かしら」
そうか。アルは俺から離れる事は無さそうだ。つまり、俺はこれから先もこんなとんでもない敵と遭遇する可能性があるという事だ。
「そうだな。そうなんだろ。アル?」
「可能性はあるかもねぇ。ただ、あいつは、知能は人より高いけどぉ」
「高いけど?」
「馬鹿だからぁ、今ので終わったと思って、もう来ないかもぉ」
ミコトがアルの言った馬鹿という言葉に思わず吹いてしまった。
「人より知能が高くて馬鹿って、どういう事なのよ! まるで私たちが馬鹿って言っているみたいじゃない」
「違うよぉ。あいつが馬鹿なんだよぉ」
「まあ、そんな事はどうでもいいよ。問題は俺と一緒に居たら、また危険な目に遭うかもしれないって事だ。もう俺一人で旅をした方がいいかもしれない……。二人を危険な目に遭わせられないよ」
ポーラが俺の胸に拳を押し付ける。
「何を言っているのかしら。こんなチャンス逃す訳がないでしょう」
チャンス? ポーラは何を言っているんだ?
「あなたと居れば、もっと強くなれる。それに世界を救うパーティに居る。なんて名誉な事なのよ。これからも一緒に旅を続けるわよ。あなたが何と言おうとも。私は」
「わ、私は……」
ミコトはやっぱり恐ろしいのか、俺と離れると言おうとしている。と思ったら、予想外の返事だった。
「私は、この世界に召喚されてどうすれば良いのか、分かりませんでした。でも、今ので決心が付きました!私 もアスカに付いていきます! この世界を救いたい。こっちに来て親切にしてくれた人達を守りたい」
「二人とも……。ありがとう。頼もしいよ。これからもよろしくな!」
ポーラとミコトの手を握る。ちょっとミコトが照れているようだったが。唯一、ベント村で生き残った武具屋の店主は、アンファ村へと行くそうだ。そこで今後の生活をどうするか考えるらしい。
俺達はというと、三人で旅を続ける事を決めたのはいいが、二人共エスティに行きポーラは父親に、ミコトはマリー達に旅を続ける話をしたいという事から、当初の目的通りエスティを目指す事にした。
「装備の強化、レベル上げ。あと他にも仲間がいる方がいいかもな」
「そうね。私たちのパーティだと前衛二人に回復役が一人。もう一人、魔術師なんかの後衛で攻撃を出来るメンバーがいると心強いかもしれないわね」
「エスティで仲間を探しますか?」
「そうだな。まあ、付いてきてくれるような人が居ればという所かな」
ポーラも頷き、俺達はかつてベント村だった焦土を後に、エスティへと向かい歩き始めた。




