出発
風呂でポーラの一撃で気を失った俺だったが、風呂から上がり服を着たミコトの<ヒール>で意識を取り戻した。わざとじゃないのに。ポーラの一撃はきついぞ。
「もう。アルをだしにして」
「まったく。懲りないんだから」
わざとじゃないんだけど、見てしまったのは本当だから何も言えない。ミコトが目を合わせてくれない。これから短い間かもしれないけど、一緒に旅をするというのに、これじゃあいけないな。この先の風呂はよく考えないと。
「ほら、裸を見られたのにミコトが<ヒール>をかけてくれたんだから、お礼を言いなさい」
あ、ミコトが見られたのを思い出して、顔が紅く染まった。
「ミコト、その、ごめん。<ヒール>ありがとう」
「い、いえ。その、ずっと目を瞑っているのも辛いですよね。私こそ変なもの見せてごめんなさい」
「いや、変なものだなんて! きれいだった。って、何言ってるんだ俺……」
あれ、ミコトが満更でもないような顔している。何でだ?
(綺麗だったって……。何でだろう。嫌な気がしないな)
「うん。お風呂は今後の課題ということにしましょう」
俺達は頷き、部屋へと戻ると早速旅立ちの準備を始める。買い出しに必要な物を見繕いリストアップする。食料、回復薬、テント……。買わないといけない物がかなりあるな。あれ、これって、俺の所持金じゃ全然足らないぞ。
そういえば、まだバーグの護衛クエストの報酬受け取っていなかった。それで当面の分は足りるはず。
「報酬取りに行くか」
ギルドに行くとマスターとパルの話し声が聞こえてきた。
「マスター、ポーラさん帰っちゃうんですか?」
「そうだな。彼女が旅をするのなら、きちんと父親と話をつけないと駄目だろう。こっちに飛ばされたのは、彼女の命を守るためだというのを知らないからなぁ」
どういう事だ?
ポーラの命を守る?
「その話、前に少ししか聞いていないんですけど」
「君は詳しく知らなくても良いんだよ」
俺は聞いていた方がいいんじゃないか。その話。
「その話、俺に教えてくれませんか」
「アスカくん! 立ち聞きとは良くないな」
「すみません。未受理の報酬を取りに来たら、話し声が聞こえてしまって」
「まあいいよ。でも、これはポーラくんには内緒だよ」
俺は頷く。マスターはパルにも肯定を促すと、パルも頷いた。そして、マスターは俺達にポーラがこのエスティレの最果て、アンファ村に派遣されたのかを説明した。
「そう……ですか……」
「ま、これが本当かどうかは別の話だがね。でも、あいつはそれを信じている。君は当事者の可能性が高いから話をしたんだ。いいかい。これは、ポーラくんには絶対内緒だよ」
「分かりました……」
「あ、そうでした。アスカさん、報酬を受け取りに来たんですよね。ちょっと待っていてください」
パルは奥に入り、報酬を取ってくると俺に手渡した。
「はい。バーグさんが色を付けてくれていますよ」
俺に渡された報酬は、確かに依頼報酬よりもかなり多い。この村の生活から考えたら、かなり無理をしていると思う。バーグに心で感謝を述べると、報酬を受け取った。
「ありがとう。それじゃあ、旅に出たら暫く会えないだろうけど、いつか、またここに来るよ」
「はい。また会える日を楽しみにしていますね」
ギルドを後にして俺は足りなかった物資を買い込み、宿へと戻って行った。それにしても、マスターから聞いたポーラの話。パルは納得したような感じだったが、こっちの世界ではそれが当たり前なのか?
エスティにいた有名な占い師にセレスとポーラの将来を占ってもらった時、ポーラが将来エスティでの戦闘で命を落とす。そんな占い結果が出た。それで、エスティから遠ざける事でポーラが命を落とさないようにしたそうだ。たかが、占い。それを信じて娘をこんな辺境に飛ばすなんて。この世界では占いは絶対と思っているのかな?
だけど、今回の旅でエスティに向かう事になった。そして、占いの結果で命を落とすのが丁度今年らしい。だから、俺が当事者になる可能性があるという事だった。あの強いポーラがそう簡単に死ぬとは思えない。
今、エスティにはセレスだっている。そう簡単に死ぬような事はないだろう。むしろ、ポーラが殺されるような事があるのなら、ポーラより弱い俺の方が先に命を落としそうだが……。
「まあ、所詮は占いだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦というし」
宿に戻ると、俺より先に買い物を終えていたポーラとミコトが出立の準備を丁度済ませていた所だった。
「アスカ、遅かったわね。何をしていたのかしら?」
「私たちはいつでも出発出来ますよ」
ミコトはまだ視線を合わせようとしてくれない……。
この旅の中で少しずつ信頼を取り戻せればいいけど。
「この間の報酬を受け取って、買い物をしていたんだよ。俺も準備出来たよ。よし、じゃあ出発しようか!」
「その前にパーティ登録をしませんか?」
「パーティ登録?何だい、それは?」
ポーラの方を見ると、ポーラがしまったという表情をして視線を逸らした。
「え?今までポーラさんと行動一緒にしていたから、てっきりパーティ登録をしているのかと思っていましたけど」
ミコトの言葉にポーラが俺の方に手を合わせ、
「アスカ、ごめんなさい。私こっちではずっと一人で活動していたから、パーティ登録の事をすっかり忘れていたわ」
ミコトが笑っていた。
「パーティ登録をしておけば、そのパーティが倒したモンスターの経験値がパーティ全体に入るんですよ。あと、本当かどうか分からないですけど、ドロップアイテムの個数と確率が上がるらしいです」
それは今までに討伐したモンスターを考えたら、もう少し俺のレベル上がっていたんじゃないのか? 本当にゲームみたいな世界だな。ここは。でも、ゲームとは違う。死んだら生き返るなんて出来ないのが現実だ。
「どうすればいいんだい?」
「ステータスプレートを」
俺はミコトに言われプレートを取り出すと、ミコトが俺のプレートに自分のプレートを重ねた。その上にポーラも自分のプレートを重ねる。三枚のプレートが白く光る。
「はい。これで完了です。私たちはこれでパーティです。改めて、よろしくお願いします」
「「よろしく!」」
俺達は宿を出て、村の入り口へと歩いて行った。すると、パルが見送るために入り口で待っていた。
「皆さん」
「パル。見送り、ありがとう」
ポーラがパルに挨拶をするとパルの目に少し涙が浮かんでいた。
「気を付けてくださいね。本当に。またこの村に帰ってきてください」
それは、あの話を聞いたからか。俺はこくりと頷き、パルに別れの挨拶を告げた。
「ああ。皆で帰って来るよ」
「「「行って来ます」」」
「いってらっしゃい」
パルに見送られ、俺達はエスティ目指し、アンファ村から出ていった。この先、何が待ち受けるのか。力をつけて、アルの言う俺にふざけた呪いをかけた奴をぶっ飛ばしてやる!




