旅は道連れ
アルの話を聞いた俺は旅に出る事を決意した。ポーラとミコトの顔を見た俺は二人に決意を語る。
「ポーラ、ミコト。俺はこの村を出るよ。旅に出る」
「そう。今のアルの話を聞いたからでしょうね」
「ああ。すまない。せっかくポーラが俺の面倒を見てくれるって言ってくれたのに」
「あら、まるで別れ話でもするような言いぐさね」
「え、だってそうだろ。ポーラはこの村のギルドを鍛える為に、お父さんからこっちに派遣されたんだろう。だったら、君はここに残らないと」
「関係ないわよ。あなた一人じゃ危ないから私も付いて行ってあげるわ」
「僕もいるから大丈夫だよぉ」
ポーラはアルの話は聞かなかったように続ける。
「それに、あなたが元に戻るのを手伝うと言ったのよ。だったら、あなたに付いていくのは当然の事よ」
「いいのか?」
「ええ」
「ありがとう。ポーラが来てくれると心強いよ」
ポーラは微笑んでいたが、真剣な表情に変わるとミコトの方を見た。
「ミコト、そういう事で私達は近い内に旅に出ると思うのだけれど、ごめんなさい。姉さん達が見つかるまでという約束だったけれど…」
「その事なんだけど、ミコトも俺達と一緒に来ないか?」
俺の誘いに二人共驚く。
「君の魔術があると助かるんだけど、無理にとは言わないよ」
「少し考えさせてください……」
「ああ、すぐに返事をくれなくても大丈夫。考えてみてくれ」
話を終えると、アルの事を早めに話をしておいた方がいいだろうと、ギルドへと向かった。
「パル、マスターはいるかしら?」
「おはようございます。ポーラさん、アスカさん。ミコトさん。マスターは今、奥で話をしている所です。少しお待ち頂けますか?」
「分かったわ」
マスターは話し中なのか。仕方がない。待つとするかな。
「と、所でアスカさん。それは何ですか?」
パルが俺の肩に止まっているアルを指差して質問してきた。怖がっているというよりは、触りたいといった感じのようだけど。
「僕はぁ、アルだよぉ。宜しくねぇ」
「し、喋ったぁ! か、可愛い! アスカさん! 触らせてください! 抱っこさせて下さい!」
凄い勢いだ。アルも引いているじゃないか。
「僕はおもちゃじゃないよぉ」
パルの勢いにアルは慌てて俺の後ろに隠れる。
「うぅ……。触りたいです……」
「あはは……」
「あの子、嫌だぁ……」
余程嫌だったのか、アル、声に出ているぞ。声に。ほら、パルがショック受けて泣きそうだ……。すると、ナイスタイミングで奥からマスターが戻ってきた。
「おい、何の騒ぎだ。さっきから騒々しいぞ」
マスターは俺達に、いや、ミコトに気付き、丁度良かったとばかりに話を始めた。
「おぉ。聖女さん。あなたもいらっしゃったのか、丁度良かった。探す手間が省けたよ」
「私に何か御用が?」
「ああ。先に俺の用件を話しても?」
「ええ。構いません」
「ありがとう。助かる。実は、今エスティのマスターから連絡があってな」
エスティの冒険者ギルドマスターということは、ポーラの父親か。
「マリーさん達。あなたの従者達だが、どうやら女神の試練の塔に転移されていたそうだ。皆、無事で塔を登っている最中なのだと」
「マリー達は従者じゃありません! でも、良かった。皆、無事だったんですね……」
ミコトの目にうっすら涙が浮かんでいた。相当心配をしていたようだ。
「ミコト、良かったわね。まあ、姉さん達の事だから、心配はしていなかったけれど」
「所で、私に用とは何だったんだい?」
マスターが俺達の用事を確認すると、アルがひょいっとマスターの目の前に出てきた。
「僕の事だよぉ」
「うぉっ! ドラゴン! しかも、しゃべった!」
マスターはアルをじっくりと観察している。じっと見られてアルは何だか照れくさそうだ。俺は、マスターに事情を説明し、アルが危険なモンスターとは違う事を村長にも伝えて欲しいとお願いをした。
「ふむ。まあ、お前達がそう言うのならそうなのだろう。それに、こいつは危険そうには確かに見えないな。分かった。伝えておこう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
俺は礼を言うと、俺とミコトはギルドから出ていった。ポーラはまだ少しマスターに話があると残っていた。宿に戻る道中、ミコトが俺に話をしてきた。
「アスカさん、その、さっきの話ですけど……」
「さっきの話?」
「はい。一緒に旅をしないかと」
「ああ。さっきも言ったけど答えは急がないよ」
「いえ。その旅ですけど、エスティまでご一緒させてもらってもいいですか?」
「そっか。マリー達に追いつくのには、確かにここにいるより向かった方が早いね。それじゃあ、よろしく頼むよ」
「いえ、私の方こそ自分勝手でごめんなさい。よろしくお願いします。アスカさん」
俺は立ち止まるとミコトに握手を求める。それに応え、ミコトが握手する。
「よし、じゃあ、これから一緒に旅をするんだ。“さん”付けは無しだ。俺だってミコトってずっと呼んでいるんだし」
「はい!」
ミコトが笑う。可愛い……。守ってやらないといけないよな。
「アスカぁ、何で照れているのぉ?」
アルが俺の顔を覗き込み、からかってきた。
「照れてないよ。アル、何言ってんだよ」
「うふふ」
宿に着いて、部屋に帰ると暫くしてポーラが戻って来た。
「ただいま。ふぅ。色々あって疲れたわね。お風呂でゆっくりしたい気分だわ」
帰ってくるなりお風呂ですか。
「ミコトもどう?」
「はい。ご一緒します」
「じゃあ、行きましょう。アスカ、見たら駄目よ」
「分かっているよ」
「え、アスカも行くの?」
「そうよ。だって、この体で男湯に入らせるわけにもいかないし、一人で入らせるのもね。誰か女性が入って来ても困るでしょう」
「入るときはポーラに連れられて、目を瞑っているんだ」
ミコトは悩んでいたが、意を決し風呂へ一緒に行くことにした。脱衣所に着くと早速俺は目を瞑る。そして、ポーラに手を引かれ浴室へと入って行った。
「所で、旅に出る話なのだけど……」
ポーラがこれからの事を相談したいと話を切り出した。
「アスカ、エスティにまず向かっていいかしら?」
「ああ。ミコトもそこまで一緒に行くことになったから構わないよ」
「あら、そうだったの。それもお願いしようと思っていたのだけれど、話が早くて助かるわ」
「そうだ。エスティで思い出した。さっきマリー達が転移していたっていう女神の試練の塔って何なんだい?」
「女神プリメラ様に会うための試練の塔よ。そこを昇った最上階にプリメラ様が居て、そこまで行けばお会いになる事が出来るわ。そこで、神器を授かるのよ」
「そういえば、セレスも神器がどうのと言っていたけど、ポーラも登った事があるのか?」
「ええ。まだ、向こうにいた時に。そうね。力をつけたいのなら、あなたも挑戦してみるといいかもしれないわね」
いいな。試練という位だ。力試しには持ってこいかもしれない。神器とやらももらえれば戦力増強になりそうだ。
「ああ。是非」
『プリメラの所に行くのぉ? なら、僕もプリメラに話があるから丁度いいねぇ』
アル? 風呂に付いてきていたのか?
「アル。お前女神様と知り合いなのか?」
俺の言葉にポーラが首を傾げるのが分かった。
「アスカ。アルはここにいないぞ?」
「え? でも、声がしたけど。それに、俺達の会話も聞いていたみたいだったぞ」
俺は思わず目を開けてアルを探し、ポーラとミコトの裸を見てしまった。あ、ミコト。着痩せするんだ。今の俺とまでいかないけど、中々大きい……。
「アスカ! だから、目を開けたら駄目と言ったでしょう!」
「きゃああああああ」
(見られた、見られた、見られた……)
ポーラの一撃でまた気を失った……。
『アスカぁ、ごめんねぇ……。これ、念話だよぉ』




