子竜と共に
ファイアリザードの左目を潰した後、OPを使い切り気絶してしまった俺が目を覚ますと心配そうに俺の顔を覗き込むポーラの顔があった。
「良かった。気が付いたわね」
「ポー、ラ?」
はっ、そうだ。奴は、ファイアリザードはどうなった!?
俺は起き上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。指一本動かせなかった。
「奴は、奴はどうなった?」
「大丈夫よ。あなたの最後の一撃で倒したわ。ただ……」
「ただ?」
「起き上がれる?」
「いや、指一本動かせない。あの加護の力のせいか、OPを使い切ったせいか分からないが……」
ポーラは困った顔をした後、しょうがないと俺の体を抱きかかえた。所謂お姫様抱っこだ……。
「ちょ、待って。ポーラ」
「動けないのだから恥ずかしがらないの。それよりも、ほら見て」
俺はポーラに言われた方を見て驚く。
「どういう事だ?」
「分からないわ。私も今までこんな事は一度も無かったわよ」
それは、ファイアリザードの死体が残っていたのだ。これまでのモンスターは倒した後、光の粒子となって消えていた。体の一部が素材として残る事はあっても、全体が残るなんて事は一度もなかった。
「まさか、まだ生きているとか……」
「それは無いわ。完全に呼吸が止まっているもの」
「だったら、どうして……?」
そもそも、昨日洞窟が消えた時には奴の姿は無かった。謎の声に呼ばれ、ここに来たらアルが奴に襲われていた。そうだ。アルもどこから来たんだ? そして、何故奴に襲われていたんだ? これは、きっとアルが何か知っているに違いない。
「ポーラ。アルは? 子竜はどうした?」
「子竜なら、向こうにミコトと一緒にいるわよ。大丈夫。無事だわ」
ポーラにお姫様抱っこされたまま俺はミコト達の元へ運ばれた。
「ミコト、大丈夫?」
ポーラが尋ねるとミコトは頷く。
「はい。何だか体は物凄く怠いですけど、大丈夫です」
「そう。良かった。で、その子竜はどうなの?」
「それが、アスカさんに力を渡した後から動かなくなっていて。生きてはいるみたいですけど」
アルを見ると死んだように寝ていた。どうやらあの時に力を使い果たしてしまったみたいだ。事情を聴きたい所なんだが、それも無理そうか……。
「ミコトは動けそう?」
ポーラの質問にミコトは首を横に振る。
「体に力が入らなくて。暫く動けそうにないです」
「困ったわね。動けるのは私だけか……」
「ポーラ、とりあえず俺を下ろしてくれ。恥ずかしくてしょうがない……」
「もう。気にしなくてもいいのに」
ポーラは俺を地面に下ろし、自分も座り込む。
「それにしても、よくファイアリザードを倒せたものだわ。アスカのおかげね」
「いや。ミコトとアルのおかげだな。二人が居なかったら俺はあの状態になれなかったから」
ミコトが照れくさそうに微笑すると、地面に何か落ちているのに気が付き拾い上げる。
「あ、アスカさん。プレートが落ちていますよ」
プレートを見るとレベルが八に上がっていた。そして、それよりも気になったのが、スキルのページへと移る矢印が点滅している。
「これは。ポーラ、スキルのページに移ってくれないか」
ポーラがミコトからプレートを預かり、ページを移すと新しいスキルの名前が表記されていた。
「<錬気>?」
俺の発した言葉にスキルが反応したのか、体が白い光に包まれる。これは……。何となく感覚で分かる。魔力を闘気に変換するんだ。このスキルは。俺は、自分に<鑑定>を掛ける。OPは〇。MPは十六。半分をOPに変換すると体が楽になった。
「これは。やっぱりOPは〇にすると動けなくなるんだな。今後気を付けないと」
ミコトが不思議そうな顔をする。そういえば、ミコトは俺にだけステータスにOPがある事は知らなかったな。
「OPって何ですか?」
「どうも俺にだけあるんだよ。ほら」
俺のプレートを見せ、ミコトは不思議そうな顔をするが納得したようだ。さて、これで俺も動けるようになった訳だが……。
辺りが明るくなってきた。もう朝になるようだ。ここは一旦村に帰った方が良いかな。でも、あのファイアリザードの死体をそのままにしておくのもどうかと思う。
「どうしたものか……」
「そうね。とりあえず、一度村に戻るべきなのかしら」
「そうだなぁ。でも、あれ、どうする?」
ファイアリザードの死体を指差す。ポーラも頷く。
「そうね。あのまま……、という訳にもいかないわよねぇ……」
俺はアルを見ると太陽の光が眩しかったのか、丁度目を覚ました。
「アル。目を覚ましたか」
「ふぁぁぁ……。おはよう。アスカぁ」
「え! 竜がしゃべった!」
ポーラがミコトと同じ反応をする。ミコトはクスクスと笑っていた。
「あ、あいつを倒したんだね。どれどれ……」
アルがファイアリザードの死体の方へと飛んでいった。
ポーラがミコトをおんぶして、俺達はアルを追いかける。
「ふん。ふん。あぁ。やっぱりかぁ」
死体を見て、一人納得するアルに状況が分かっていない俺達は質問をした。
「おい、アル。一人で納得していないで教えてくれ。何がやっぱりなんだ。こいつが死んでも光の粒子にならないのと関係があるのか?」
すいっと俺の元まで戻って来たアルは俺の周りをくるくる飛びながら答えた。というか、周りを飛び回られるのは鬱陶しいぞ。
「アスカ。すごぉい。よく分かったねぇ。そうだよぉ。こいつが消えないのと僕が分かった事は関係あるよぉ」
「アル? と言ったわね。どういう事か教えてくれるかしら」
「いいよぉ。でも、話すと長くなるから一度ここから安全な場所に移動してからの方がいいかなぁ」
そう言うと俺の頭の上に止まる。
「こら、頭に乗るんじゃない」
「いいじゃないかぁ」
アルはつまらなそうに再び飛び始めると、ファイアリザードの死体へと近付く。
「とりあえずぅ、いっただっきまぁす!」
アルが大きく息を吸い込むとファイアリザードの死体がアルの口に吸い込まれていった。
「「「えぇぇぇぇぇっ!」」」
俺達が驚いているのを面白そうにケタケタ笑いながらアルは俺の肩に止まった。
「さぁ、行こうよぉ」
俺達は、顔を見合わせ頷くと、村へと歩き始めた。アルの話を聞けば、色々な事が分かる。そんな気がする。というより、聞かないといけない気がしてならない。まあ、宿に帰ってからゆっくり話を聞こう。うん? 待てよ。アルを連れて村へ帰って大丈夫なのか?




