加護の力
このままでは俺達三人はファイアリザードにやられてしまう。
何か手は無いのか?
俺が必至に考えている間にも、ポーラが何とかしようとファイアリザードに向かって行っていた。
「はぁっ!」
だが、ポーラの攻撃は悉く躱されていた。恐らく奴もポーラ攻撃だけが、自分に害を与えると認識しているのだろう。明らかに当たらないように警戒をしており、そのせいで命中する様子が無かった。
「くそっ。本当に何か手は無いのか……」
俺は焦りから苛立ちを隠せないでいた。その様子を見ていたミコトが心配そうに俺を見ている。もっとレベルを上げておくべきだった。そんな後悔をしていてもしょうがない。全員が生き残れるために今俺に出来る事。それを考えるんだ。
「どうしましょう。このままじゃ皆やられてしまいます」
「ああ。今何か無いか考えている。君も何か無いか考えてくれないかい?」
「はい……」
俺達は必死に戦っているポーラを眺めながら思考していた。すると、再びあの声が頭に聞こえてきた。
『何で力を開放しないの?』
力? 何の事だ? そもそもこの声は誰なんだ?
俺をここに呼んだ声に似ているが、同一のものとは思えない。今聞こえる声の方がはっきりと聞こえるし、若い。
「さっきから誰なんだ?」
「どうしたんですか?」
ミコトにはこの声は聞こえていないのだろう。俺の様子がおかしいと思っているようだ。
「いや、さっきから俺の頭に直接声が聞こえるんだ」
「声? ひょっとして、その子ですか?」
ミコトが空をプカプカと飛んで様子を見ている子竜を指差す。指差された子竜はというと、俺達の会話が分かるのか俺の頭の上に止まってきた。
『この子の言う通り。僕だよ』
再び声がする。そして声の主が自分だと主張してきた。
「え。本当なのか? でも何で竜が俺に話しかけてくるんだ?」
子竜は俺の頭から飛び上がり、俺の目の前に浮遊する。
『僕は○□※の分体。アルって呼んで』
ノイズが混じって何の分体と言ったか分からなかった。でも、確かにこの子竜は名乗ったな。
「アル?」
『そう。今は本体の力が弱くて、存在を語る事も出来ない。でも、君には本体の加護があるはず』
あの???の加護とかいう奴か。でもあれは、自分の意思でどうこう出来るものじゃなかった。前に発動した時は、俺が死にかけた時……。でも、さっき奴の攻撃を受けて瀕死になった時は発動しなかった。俺はアルと名乗る子竜に質問を投げかける。
「なあ、アルって言ったか。どうすればお前の言う力を使える?前に使えたのはゴブリンコマンダーとの戦闘で瀕死になった時の一度だけだ」
『そうかぁ。やっぱり本体の力が弱くて不安定なんだね。それにあいつのせいで余計に不安定になっているのかも』
「あいつ?」
『そう。あいつ。この世界を滅ぼそうとしているあいつ。君はあいつから世界を救うためにこっちに呼ばれたんだ』
何かこの大変な時にさらっと重要な事を言ったよ。この子竜。
『命に危険が迫った時に繋がりが強くなるんだろうけどぉ、それだけじゃぁ駄目なんだろうなぁ。とりあえず、僕の力も貸すよぉ。と言っても、僕も本体と力が繋がっているからぁ、君に与えられる力には限りがあるよぉ』
アルの体が金色に輝くと、光の粒子が俺に降り掛かる。少しだが力が内側から込み上げてくる。
『うーん。やっぱりこの程度かぁ。これじゃあ、あいつにはまだ届かないなぁ。君に死なれても困るしぃ……』
アルがどうしたものかと俺の頭の上をグルグルと周っている。
「さっきから何の話をしているのですか?」
ミコトが俺に声を掛けてきた。それを見たアルが思いついたように声を上げる。
「あ! 君ぃ、プリメラの加護受けているじゃない!」
「え、竜がしゃべった!」
「喋れるのかよ!」
アルはミコトにも聞こえるように人語を使い話し始めた。
「ごめん。ごめん。それより、君ぃ。君にあるプリメラの加護をアスカにぃ」
「どういう事ですか?」
「いいからぁ。早くぅ」
「でも、どうやったら……」
アルがその小さな手で俺の手を掴みミコトの傍へと近付く。そして、反対の手でミコトの手を掴んだ。
「いくよぉ。でも、この方法は緊急措置だからぁ、次は無いと思ってねぇ」
(きっと、プリメラも使わせないだろうから……)
ミコトの体が薄い紫に輝きを放ち、その光がアルを通して俺に流れ込む。
「……クルゥ……」
アルが辛そうに顔を歪ませる。
「おい、大丈夫か!?」
「だい……じょう……ぶ……。それ、より……。早、くぅ」
いつの間にか俺の体が金色の光に覆われていた。あの時と同じ、体の内側から力が湧き上がってくるのを感じる。プレートを見ると???の加護の文字が白く表示されスキルが発動されているのが分かった。ミコトが突然地面に座り込む。アルも飛ぶ力も無くなったのか、地面へと降りた。
「早くぅ。その力を使える時間は長くはないよぉ」
ああ。分かっている。だけど、今の俺は奴に負けるイメージが浮かばない。そう。間違いない。勝てる。
「待っていてくれ。すぐに片付けてくる」
俺は、ポーラと奴の元へと走り出した。ポーラが道具袋から回復薬を取り出し使っていた。未だに奴には一太刀も入れる事が出来ていないようだ。奴は全くの無傷だった。
「ポーラ! 待たせた!」
「アスカ!? その光は!」
ポーラが俺の体を覆っている金色の光に気付き、奴との距離を取った。そして、入れ替わって俺が前に出る。
「今度こそ俺の攻撃を受けやがれ」
奴は今まで通用しなかった俺の攻撃を全く警戒していなかった。前に出た俺を無視してポーラに向かって行こうとしていた。俺の突き出した拳が奴の右目に当たり、ゴブリンハイクローの鋭い爪が突き刺さる。
「Gyaaaaaa!」
奴の大きな悲鳴が響き渡る。
「うるさい奴だな。今まで静かだったから余計うるさく聞こえるぞ」
奴が俺の方へと向き直ると、その瞬間を逃さずポーラが奴の背後へと回り込み、尾目掛けて剣を振り下ろす。
「Gyaaaaaa!」
再び奴の悲鳴が響き渡る。ポーラの斬撃が奴の尾を切り落としていた。これで奴の尾による攻撃を気にする必要がなくなった。俺は再び殴るために近付くが奴が動くのが速い。後退すると俺の間合いから逃げられた。???の加護の効果で素早さも上がっているが、それでもまだ奴の方が速かった。
「くそっ。距離を取られた。でも、まだ!」
間合いを取った奴はファイアブレスを吐く動作に入っていた。それを見た瞬間に横へと跳ぶ。ポーラが再び奴の背後から斬りつける。奴の背中から血が噴き出す。
斬られた事に動じることなく、奴はファイアブレスを吐き出した。だが、そこに俺はもういない。
「<双牙>、<疾風>!」
ブレスを吐いて隙が出来たその瞬間に俺は<双牙>と<疾風>のコンボを叩き込む。<双牙>の効果による二撃分の判定がどういう仕組みかは分からないが、鋭い爪は奴の横腹に深く食い込んだ。
「もう一丁!」
更に追い打ちを掛けると、奴の動きが鈍くなる。
いけるぞ! 何とか時間切れになる前にやれそうだ。
「<パワースラッシュ>、<ダブルスラッシュ>! 」
ポーラも俺に続いてアーツを使う。ポーラの三連撃で更に奴の体から血飛沫が舞う。見るからに奴は瀕死の状態。
「Guruaaaaaa!」
咆哮と共に体中が炎に包まれる。その炎が斬られた尾に集まり、炎の尾と変わった。そして、俺に向かって尾を叩きつけてくる。その攻撃は躱したが、尾が触れた地面が焼け焦げていた。
「気を付けて! あれを当てられたら一瞬で丸焦げよ」
「ああ。見れば分かるよ……」
俺とポーラ、二人が同時に攻撃動作に入る。俺達に挟まれている奴はポーラの背後へ回り込もうとするが、傷だらけとなり動きの鈍くなった奴より、俺の方が速い。
「させるかぁっ!」
<双牙>、<疾風>のコンボを奴の顔面に叩き込む。諸に攻撃を受け、奴の動きが止まった。
「止めぇぇぇぇぇっ!」
更に<双牙>を発動すると虚脱感を感じる。一気に俺の動きが遅くなる。これは、ひょっとして|OP≪闘気力≫が切れた。しまった。〇にならないように気を付けていた筈だが、使い切ってしまったのか。何とか気力を振り絞り、奴の左目に拳を当てる。爪が食い込み、大量の血が噴き出した。
「Gyaaaaa……」
奴が断末魔を上げるのを聞いた後、俺は倒れ込み気を失ってしまった……。




