ソーンマッシュドラゴン討伐?
傷が癒えず、消費したOPを<練気>で回復も出来ない。それが呪いのせいだというのは分かった。恐らく、ソーンマッシュアサルトを殴った時につけられた傷が原因なのだろう。あの擦り傷を受けてから回復が効かなくなったから。
その事に驚いていると、遂にソーンマッシュドラゴンも傷が完全に癒えたようだ。ゆっくりと動き始めた。
「これはヤバい。アーツも使えない状態であんなのと戦える訳が無い」
「どうするの? 一度退く?」
「それもありなんだろうけど、時間が開けば開くほどこっちが不利になるんだよな」
再びモンスターの群れを生み出されるだろうし、何よりあのソーンマッシュアサルトを大量に生み出されでもしたら洒落にならない。
「そうかもしれないけど、あれを倒すにはアスカのあの攻撃が必要でしょ? 僕とミコトじゃ大きなダメージは与えられないよ? それとも何か今出来る事があるのかな?」
サキが言うことも尤もなのだが、俺の考えていることもまた事実だ。せめて、<練気>が使えるようになれば少しはやりようがあるんだが。左腕の痺れも漸く治まってきた。
「私に任せてくれないかな?」
ミコトが唐突に俺たちの話を遮る。
「ミコト? おっと、その前に避けろ!」
ソーンマッシュドラゴンが茨を振るってきた。色が黒くなっただけじゃない。茨のスピードはさっきまでより速く、二本だった本数も六本に増えている。
それが俺たちに向かって伸びてくる。避けた後の茨が叩いた地面は直径三メートル程、深さ一メートル程のクレーターが出来た。
「伊達に黒くなった訳じゃないんだな。これは、喰らうと一発アウトだな」
再び茨が襲い掛かって来る。だが、六本の茨はサキとミコトを無視して、全てが俺の方へと向かって来た。
サキがその茨に<インフェルノ>を放つが、自由自在に振り回せる茨に対し、直線状に放たれる炎は掠りもしない。
「速すぎる。これじゃ魔導は当てられないよ!」
サキが叫ぶが、返事をする余裕など無い。こっちも躱すので精一杯だ。どうやら、俺の<重竜牙>を警戒しているのだろう。俺さえ倒せば、二人には自分を倒せる力は無いと確信しているに違いない。
逃げる先の地面が次々とクレーターと化し、地面がボロボロになり、足場も悪くなってきた。
「こいつ!」
首の下に<瞬歩>で移動し、無駄とは思いながらも、打撃を入れる。ソーンマッシュドラゴンは全く意に介さず、茨で攻撃をしてくる。
その攻撃をソーンマッシュドラゴンの首を足場にして、飛び退き躱す。茨が自分の首に当たったが、気にも留めていないみたいだ。
あいつ自身の攻撃なら少しはダメージが入るかとも思ったのだが、効果は低いようだ。やはり<重竜牙>しか決め手は無さそうだ。ここは、何か解決手段に心当りのありそうだったミコトに期待するしかない。
「ミコト! さっき言いかけていたのは!? 今出来ないのか?」
茨の攻撃を躱しながらミコトに問い掛けると、ミコトから返事が来る。
「たぶんいけると思うの。新しい魔術に呪いを解く効果があるから、それを掛けるね」
呪いを解く魔術だって!? もしかして、この性別転換の呪いも解けないだろうか? いや、これは無理かな。教会の解呪を受けても解けなかったものだから。とにかく、今はこの回復無効の呪いだけでも解けてくれれば。
「頼む。やってくれ!」
「いくよ。<ディスペル>」
俺の頭の上に魔術陣が浮かび、その魔術陣から金色の光が俺の体へと降り注ぎ、光に包まれた。
何だか、力が漲ってくる感じがする。解呪に身体能力向上の効果もあるのだろうか?
それに、何だか肩がスッキリするのは気のせいなのか? とりあえず、呪いが解けたのか確認をしないといけないが、ステータスプレートを見ている暇は無い。
俺は自分に<鑑定>を掛け、状態を確認する。状態異常は無いな。上手く<ディスペル>で呪いを解けたようだ。良し。回復出来る筈だ。
「<練気>」
魔力が闘気に変換されるのが分かる。良いぞ。左腕ももう普通に動く。<重竜牙>の二連撃も可能な筈だ。
「上手くいったみたいだ。ありがとうミコト」
俺はミコトたちの方へと振り向くと、二人が驚いた表情で固まっていた。
「どうした?」
「あ、アスカ」
二人が俺を指差す。驚いているのは俺に対してか?
「ほ、本当に男だったんだ」
囁くようなサキの一言を俺の耳は聞き逃さなかった。そういえば、声がいつもの声と違う?
俺は自分の体を見てみた。無い。あんなに大きくて邪魔だった胸が無い! まさか、期待していなかった。いや、少しは解けてくれたら良いなとは思っていたが、邪神の呪い。性別転換の呪いも解けている。
「は、はは。まさか、こんな事になるとは。ミコト、最高だよ!」
さて、男に戻れた喜びを噛み締めるためにも、目の前の邪魔な奴は、とっとと片付けないとな。
「全力でいかせてもらう! 加護開放」
龍神の加護の力を開放し、俺の体は金色に輝き出す。
俺が危険と感じたのか、ソーンマッシュドラゴンは、全力のブレスを俺に向けて放ってきた。それは、これまでのブレスとは比較にならない程の威力を秘めた一撃だ。
「<龍鱗>」
加護の力で強化された<龍鱗>は、強化されたブレスを受けても罅一つ入らない。
俺はブレスを防いだことを確認すると、<瞬歩>で再び首元へ移動する。そして、移動と同時に左腕で<重竜牙>を使う。
左腕が再び痺れて動かなくなる。だが、その一撃はソーンマッシュドラゴンも読んでいたのだろう。攻撃が当たる瞬間に俺の<龍鱗>と似たスキルで防がれたのが分かった。
「くっ、ガードされた。でも、無傷には終わらなかったようだな!」
そう。俺の左腕を犠牲にした一撃は、ガードを突き破り、首元に届いていた。首の三分の一程度抉っていた。加護の力を使っていなければ、完全に防がれていただろうし、この感じだと、こいつが防がなければ今の一撃で倒せていた筈だ。
間髪入れずに俺は<換装>で左右の武器を入れ替え、傷の反対側へと周り込み、右腕で<重竜牙>を叩き込む。
ズドォーーーン!
今度は防がれる事なく、ソーンマッシュドラゴンの首に当たった。そして、その一撃は、強化されたソーンマッシュドラゴンの首を落とすのに足る一撃だった。
反対側の傷まで届き、ソーンマッシュドラゴンの首が地面に落ちる。
「やった!」
「凄いよ、アスカ!」
右腕も痺れて動かなくなってしまった。だけど、流石に首を落としたんだ。これで倒せただろう。
ソーンマッシュドラゴンはピクリとも動かない。だが、その姿が光の粒子となって消えない。
嫌な感じだ。まさか、まだこいつ生きているとでもいうのだろうか?




