状況悪化
周辺のソーンマッシュをサキとミコトに任せ、目の前のソーンマッシュドラゴンに攻撃を仕掛けたのは良かったが、全くダメージが入っている様子が無かった。それどころか、奴自身のブレスを<烈波>で口を塞ぎ、自爆させたにも関わらず、ビクともしていない。その傷も徐々に癒え始めている。
茨に捕らわれた時には流石に死を予感しなかった訳じゃないが、サキのおかげで切り抜けられた。今は、集まって来るソーンマッシュを片付けるので精一杯だが、それももうすぐで片付く。
ただ問題は、切り札である<烈波>でもこのドラゴンには大した効果が無いという事だ。防御無視の攻撃であり、<衝波>の時からこれまで幾度となく俺のピンチを救ってくれたアーツ。これが通用しない。カオスドラゴンのように力を封印しなければ勝てない相手という事なのか。
「アスカ!」
ミコトとサキが俺の下へとやってくる。ソーンマッシュもほとんどが燃えて消えたからだろう。
「サキ、さっきは助かったよ」
「気にしない。僕は当たり前のことをしただけだからね」
「二人共、あれを見て」
ミコトが前を指差す。その指先には、ソーンマッシュドラゴンが黒い靄に包まれ始めていた。
「あれは! 瘴気!」
俺は黒い靄を見てそれが何であるかすぐに気付いた。ハイオーガが強化された瘴気と全く同じ気配だったからだ。その瘴気は、ソーンマッシュドラゴンの体内へと吸い込まれるように消えていく。
「まさか、あの瘴気を吸い取って、さらにパワーアップするの!?」
サキがその様子を見て叫ぶ。その気持ちは十分に分かる。全く歯が立たない相手が更に力を増すとか有り得ない。唯一の救いであった鈍重が解消されようものなら、こっちの全滅という可能性も出てくる。何とか邪魔を出来ないかと考えるが、その前にもう一つ大きな問題が出て来てしまった。それは……。
「危ない! <ホーリーバリア>!」
ミコトが障壁を張ると、その障壁に黒みがかった緑色の茨が大きな音を立てて当たり、障壁に罅が入ってしまった。
「何だ!?」
「え!? どこから!?」
その茨は、しゅるしゅると音を立てながら、ソーンマッシュドラゴンの背後へと消えていく。どうやら何かがソーンマッシュドラゴンの後ろに隠れているようだ。色とミコトの<ホーリーバリア>に一撃で罅を入れる攻撃力から、今までのソーンマッシュとは明らかに違う。最初は、ソーンマッシュドラゴンの攻撃かとも思ったが、色と茨の太さが違った。
「何か今までのきのこと違う奴がこいつの後ろに居るみたいだな」
「みたいだね。それもかなりヤバそうだよ」
「ドラゴンも力を増そうとしているのに、更に強そうなモンスターが出てくるなんて……」
サキはすぐにチャクラムをソーンマッシュドラゴンの背後に向けて投げた。チャクラムがソーンマッシュドラゴンの背後へ回ったのを確認すると同時に<インフェルノ>を放つ。
だが、魔導を使ったサキが不思議そうに首を傾ける。どうしたのか聞くと、全く手応えを感じなかったらしい。投げたチャクラムもすでにサキの手元に戻ってきている。背後にいたはずの何かが消えたという事だろうか?
「<探知>」
俺はソーンマッシュドラゴンの背後に居た筈の何かを探そうと<探知>を使ってみた。すると、ソーンマッシュドラゴンの反応とは別にもう一体の反応があった。それは、ソーンマッシュドラゴンの背後ではなく……。
「後ろだ!」
俺の声に合わせて二人も後ろに振り向くと、そこには一体のモンスターが立っていた。その姿は、ソーマッシュとは違う。ソーンマッシュは大きなきのこに手足が生え、茨が体に巻き付いていたが、振り返って目撃したモンスターは、きのこの頭から茨が生え、その茨が人の形を象っていた。胴体から手足まで全て茨の塊だ。<探知>によればこいつの名はソーンマッシュアサルト。攻撃特化型ということか。
「気を付けろ。こいつ、いつの間に背後に回ったんだ」
そのモンスターは、右腕の茨を伸ばし、鞭のように振るうと障壁が砕け散ってしまった。そして、左腕の茨をドリルのように回転させながら突き出してくる。
「散会するんだ!」
俺は嫌な予感がすると、二人に離れるように叫ぶ。回転しながら伸びてくる茨が三つに分かれ、俺たちを捕えようとそれぞれに伸びてくる。俺は拳の炎で焼き切り、サキはチャクラムで、ミコトは今の一瞬で戦乙女にジョブチェンジしたのだろう。ホーリーランスで斬り払った。
こいつにはこちらの攻撃が通じるようだが、今程度の攻撃では全く気にも留めていないようだ。伸ばした左腕を引き戻しながら、俺の方へと走り出す。その速度は、他のソーンマッシュとは比べ物にならない。俺と同等レベルの速度だ。
「速い! だったら、受けて立ってやる! <光迅>!」
向かって来るソーンマッシュアサルトに向けてカウンターとして、光速の一撃を放つ。だが、俺の拳は、ソーンマッシュアサルトには当たらなかった。俺の拳が当たる部分の茨が広がり、空洞となって、拳はその空洞を突き抜けるだけだった。
そして、その穴が閉じ、俺の拳を捕える。ソーンマッシュアサルトがにやりと笑ったのが分かった。俺の攻撃を読んでいたのだろう。狙い通りの結果となり、俺を捕えた事で勝ったとでも思ったのかもしれない。
「俺の拳は、燃えているんだぞ?」
俺は捕えられた拳の炎を更に大きくする。しっかりと拳を絡みとっているソーンマッシュアサルトの体が俺の炎に焼かれ始め、慌てて後ろに逃げていった。だが、もう遅い。その体はすぐに燃え尽きるだろう。そう思っていたが、ソーンマッシュアサルトは、燃えている自分の体を切り取ってしまった。そして、頭のきのこから再び茨を生やし、元の体へと戻る。
どうやら簡単には倒せないらしい。ソーンマッシュアサルトは、何事も無かったかのように平然としている。
「アスカ、大丈夫?」
ミコトが<ヒール>を俺の拳に掛けてくれた。よく見ると、茨に捕えられたせいで、傷だらけになっていた。だが、おかしい。傷だらけなのに痛みを一切感じなかった。そして、その異常は、気のせいではなかったらしい。
「あれ? 傷が治らない? どうして?」
ミコトが治療をしてくれているにも関わらず、一切傷が癒える気配が無いのだ。あいつに受けたダメージは回復出来ないとでも言うのか? そんな馬鹿な事があるのか?
俺とミコトが疑問に思っている所に、サキが叫ぶ。
「二人共! 気を付けて! あのドラゴンの瘴気が全部体内に吸い込まれたよ!」
目の前のソーンマッシュアサルトに苦戦しているのに、ソーンマッシュドラゴンの方も強化が終わったらしい。これは、かなり不味い状況になってしまったようだ。




