ソーンマッシュドラゴン
顔面に一撃を入れられたソーンマッシュドラゴンは怒りを覚えた。
矮小な人間に、自身の分身とも言えるソーンマッシュを大量にやられ、あまつさえ、自身の顔面を殴られたからだ。
直ぐに体の茨で殴った人間を攻撃するが躱されてしまう。小さな的を攻撃するには自身の体が大き過ぎて、ブレスで一蹴するか、茨で攻撃するか、踏み潰すかのいずれしか攻撃手段がなかった。
そのための分身達。だが、分身は自身とは違い大した力は無い。故の正確な判断が出来なくなるように状態異常を起こす胞子も同時に散布している。
だが、目の前の三人はどうやら状態異常を解除してしまっているようだ。
もっと大量の胞子を飛ばして、分身を増やすか?
無駄だ。また目の前で燃やされるだけだ。ならば無視するか。殴られた感じでは、ダメージそのものは微々たるもの。ならば、主の命に従い女神を消し去りに先へと進むべきか。
ソーンマッシュドラゴンが考えていると再び顔面を殴られてしまった。
「くそっ、大したダメージは無いか」
自分を殴った人間は自身の非力さに舌打ちをしている。だが、二回も顔を殴られた。やはりこの人間達は許しておけない。ならばやはり自分の前に出て来た事を後悔させてやる必要がある。
後悔しながら死ぬが良い。
そうと決まればどうやって殺してやろう。チョロチョロとして攻撃が当たらない。
分身が倒されてしまうのを前提に集中させる。そして、分身を相手にしている間にブレスで分身諸共消し去ってしまえば良いか。
残っている分身に目の前の人間を襲うように指示を出す。左右から攻められれば一度に全ての分身をやられることは無い筈だ。
何だ? あそこの人間が何か投げたようだが?
何!? 左右の分身達から火の手が上がっただと!?
馬鹿な。これでは挟撃出来ないではないか。
むっ。またこの人間顔を殴りおった。懲りずに何度も痛くも痒くも無いがいい加減にしろ。
捕縛しようと茨を伸ばすがあっさりと躱される。本当に腹の立つ人間だ。
ならば避けられるのは当然ということで、踏みつける振りをして、捕縛を狙う。
顔を上げ殴られるのを防ぎ、右足を上げて、踏みつけるのと同時に茨を伸ばす。
予想通り踏みつけは躱されたが、茨は人間の体を捕らえた。
「しまった。くっ。離れない」
これでこの人間は終わりだ。
茨を顔の前まで伸ばし人間を目の前に持ってくる。茨から抜け出そうと藻掻いているが、藻掻けば藻掻くほど茨の棘が深く刺さり、体が傷つくだけであろうに。
それでは、この人間には消えてもらおう。
口を開き、ブレスを吐く準備をする。
「アスカ!」
「アスカ! ヘルモード! <ハイロールエッジ>!」
離れた人間が何か投げてきた。無駄だということが分からないのだろうか?
では、消えろ。
ブレスを放つ瞬間、人間の投げてきた物によって目の前の人間を捕らえている茨を切断された。まさか切断されるなどと思ってもいなかったため、一瞬だけ動揺し、ブレスを放つタイミングがズレてしまった。
その瞬間に自由になった人間が顎の下に移動していた。狙いがずれる。ならば、あの茨を切断した人間を狙って放てば良い。狙いを定め、ブレスを放つ。
直後、顎に強烈な衝撃を覚え、ブレスを放つ口が閉じられてしまう。そして、出口をなくしたブレスが口の中で爆発を起こす。
上を向いて口を開くと、中から煙がモクモクと立ち昇るのが見えた。
何が起きたのか分からなかった。自身の顔を攻撃していた人間に自分の口を閉じるほどの攻撃力は無かった。他の二人は遠く離れている上、先程の衝撃を与える程の力を有しているとは思えない。
「グルルルルルゥ」
思わず唸り声を出してしまった。遠い過去よりこの地に生まれ、今まで眠りについていたとはいえ、矮小な人族にこうまでやられるとは思ってもいなかった。
自身と同様にこの地に生まれ眠りについていた他のモンスターも主の力が戻りつつある影響で目を覚まし暴れ始めているはずなのだが、静かなのはこいつらが原因なのだろうか?
この地に眠る植物系モンスターの頂点であり、ドラゴン種族である自分相手に善戦しているこの人間達。
許せるはずが無い。
あの地に居る奴らに比べれば確かに底辺ではあるとはいえ、生物大系では頂点と言っても過言ではないドラゴンなのだ。下等種族の人族に梃子摺る訳にはいかないのだ。
だが、チョロチョロと動き回る小さな体を攻撃するには自分の体が大き過ぎるのも事実。
それなら分身の圧倒的物量で潰すか。いや、それは既に失敗している。それなら、一体に力を集約した特異な分身を生み出せば良い。今まで試した事など無いが、周辺に分散させている胞子を一つに絞り、その胞子に力を注ぐ。
力を注ぎ始めると首に衝撃が走る。さっきの顎に起きた衝撃と同じだ。
ダメージとしては大した事は無いが、集中を乱され、鬱陶しい。まだ残っている分身をまずは目の前の人間に集中させる。
再び分身達に命令すれば、すぐに行動に移る。全員が目の前に集まってきた。他の人間の攻撃によって数は減ったとはいえ、まだかなりの数がいる。その分身達の相手をするのに手一杯になったようだ。
今の内に一体の精鋭を生み出すのに集中する。
分身達の数がみるみる減っていく固まらせたせいもあってか、次々と燃やされていく。
だが、それも想定の内。精鋭を生み出すための力は十分溜まった。人間に気付かれないように背後に胞子を落とす。
これで問題無い筈だ。だが、昔と違い、人間に梃子摺るようでは最強のドラゴン種族として不味い。自身も強化する必要がある。どうすれば、強化出来るだろうか?
『力を与えてやろう』
突然頭に声が響いた。そして、その声が響いたかと思うと、体を黒い何かが包み込み始める。
黒い何かが体の中へと入ってくると力が漲り始めるのが分かった。これは、主の力だ。どうやら主が力を欲する自信に力を貸してくれたようだ。
やがて全ての黒い何かが体の中へと入り込み体に変化が起こるのを感じる。
この力を使って目の前の人間を駆逐してやろう。




