姉妹
アスカ達がセティフの洞窟へ向かった後、冒険者ギルドでは聖女さま御一行がギルドに来ないと騒ぎになっていた。受付嬢のパルは入り口の前をうろうろと落ち着きが全く無かった。そこへポーラがやって来る。
「パル、どうしたの? 何だか焦っているようだけれど」
「あ! ポーラさん。実は、聖女さまがまだこっちに来ないんです。何かあったらと思うと居ても立っても居られなくて」
「そんなに気にしなくても。護衛は付いているのでしょ?」
「それは、そうなんですが……」
ポーラはパルの様子を見ていて、放っておけなくなってきた。そこで、パルに提案する。
「しょうがないわね。私が様子を見に行きましょう。聖女さま達の目的地はセティフの洞窟なのでしょう?」
「いいんですかっ!」
パルの目がポーラに対する期待でいっぱいになっているのが分かる。もうやっぱりやめたとは言えないだろう。
「ええ。じゃあ、すぐにでも出発するわね」
ポーラはそのままパルに別れを告げると村の入り口まで行くと、この村には珍しい足跡が入り口に残っている事に気付く。
「この足跡は、騎士の具足の跡? 騎士の鎧なんて着ている者といったら首都にいる人間くらいかしら」
それはつまり聖女さま御一行が既にこの村の入り口まで来ていたのでしょう。そして、足跡はセフティの洞窟へと向かっている。やはり、冒険者ギルドに寄らず直接向かったのね。急いだ方が良さそうかしら。ポーラは全力で走ってセティフの洞窟へと向かった。
ポーラがセティフの洞窟の入り口に辿り着いた時、爆発音が中から聞こえてきた。
「え、中で何が……」
そのすぐ後、更に大きな爆発音と振動が起こる。そして、ポーラはアスカが今日ここにバーグの護衛でここに来ると言っていたのを思い出した。
「アスカ……、大丈夫かしら?」
ポーラが中へと入り、銅鉱石の採掘場へと向かうと自分の前を歩いていく五人組を見つける。
「あ、あれは聖女さまのパーティじゃないのかしら?」
そして、その奥でアスカがケイブバットの群れと戦っているのに気付くと、すぐに駆け出した。前の五人組も気付いたのだろう。アスカの元へ駆け出していった。
向かって来るケイブバットの群れに俺は警戒しながら、愚痴を言う。
「くそっ。いきなり十体とか。さっきの爆発のせいだろ。あいつら、何をしたんだよ。バーグさん、流石にこれは採掘している場合じゃないや。ちょっと隠れていてもらっていいですか!」
「わ、分かった。気を付けてくれ」
レベルが上がって、ケイブバットよりも俺の方が遥かに速い。二体くらいまでなら問題無く戦えるだろうが、流石に十体同時はきついか。
「<アクセルブースト>!」
俺の体が赤い光に包まれ、スピードが倍になる。そして、ケイブバットの群れへ向かって駆け出す。四体のケイブバットが<ダークアロー>を放つ。残り六体が音波攻撃をしてきた。
「くぅっ。音波攻撃は鬱陶しいんだよぉっ!」
飛んで来る黒い矢を躱しながら、音波攻撃をしてきている最も近いケイブバットに向かって飛び上がり、右拳を叩きつける。ケイブバットがよろめき、地面へと落ちていくのを確認すると、体を一回転させて、地面に降り立つと同時に落ちていくケイブバットに左ストレートを当てる。
「アーツ無しだと二撃でも倒せないか……。かといって、アーツは控えないとOPが無くなってしまう」
俺の固有アーツは、MPではなくOPを使用する。既に<錬装>を二回。<双牙>、<疾風>を一回ずつ使っている。もう半分も残っていない。スライムブロウはすぐに壊れるから、温存しておく必要がある。
「ああ、もう。面倒だな。まずは一体。確実に倒す!」
音波攻撃の影響で頭痛がする。じりじりと体力を削られていく。早く倒さなければ……。
左ストレートを喰らい、瀕死の状態になっている個体に止めの右ストレートを当てて、止めを刺す。
「次!」
踵を返し、すぐに次の個体に向かって動く。音波攻撃が止んだ。残り九体の個体全てが<ダークアロー>を俺に向けて飛ばして来た。
「遅いんだよ!」
九本の黒い矢が俺のいる場所を貫くが、もうそこには俺は居ない。次の獲物を目指して駆け出していた。どいつも飛び上がらないと手が届かない位置にいるのが面倒だ。四体は飛び上がっても届かない天井付近にいる。兎に角、手が届く最も近い個体に向かって飛び上がり、上から叩きつける。
「このまま仕留めるぞ」
俺の攻撃で落下するケイブバットに空中で左右の連打を叩き込むとケイブバットは光の粒子と化す。これで二体目。あと八体か。いちいちジャンプしないと攻撃出来ないからな。面倒でしょうがない。
着地して次の獲物を見定めていると、こっちに向かって来る人の気配を感じた。だが、そっちに構っている暇はない。俺は次の獲物に向かって駆け出した。
「あの子、ケイブバットと格闘しているわよ」
先頭を走っているセレスが驚きの声を上げながらも、背中の剣を抜き放つ。
「セレス! あの子の援護を」
「分かっている! 風よっ!」
セレスの持つ剣が薄緑に光るとケイブバットの群れに向けて、セレスは剣を振り払った。セレスの剣から風の刃が放たれると、天井近くにいたケイブバットの一体が真っ二つに切り裂かれる。
「何だ? 今のは?」
俺は慌てて止まると、後ろを振り返る。セレスが走りながら剣を振る動作に入っているのが見えた。というか、セレスがこっちに走って来る速度が速すぎる。剣を振るとすぐに俺の前を通り過ぎて行った。
「手伝うぞ」
他のメンバーもこっちに向かって走ってきており、その後ろには何故かポーラも走ってきているのが見えた。だが、これで何とか群れを退治出来るか。そんな事を思っていると、マリーの放った<ファイアアロー>、セレスの風の刃が更に二体を倒す。これで残り五体。いける!
そう思った時、天井の近くにいた一体が俺に向かって急下降して、体当たりしてきた。
「当たるかよ!」
すぐに後ろに飛び、体当たりを避けたが、避けた場所に黒い矢が飛んで来た。しまった。あいつら、今までしてきたことの無い連携攻撃なんてしてきた。
これは躱せない。しかも、この射線は、やばい。心臓目掛けて飛んで来る。右足が地面に着く。何とか軌道を逸らそうと飛び上がる姿勢に入るが、更にもう一体が突進して来ていた。そいつに邪魔をされて、飛び上がれない。黒い矢ももう当たる。こんな所で死んでしまうのか。こんな女の姿で……。
俺が死を覚悟したその時、一本の剣が俺の前に飛んできた。その剣が黒い矢を消し飛ばし、俺の前に突き刺さる。この剣は……。
「アスカ!大丈夫!?」
「「ポーラッ」」
俺の声とセレスの声が重なる。何でかは分からないが助かった。ポーラも戦闘に加わり、残りの五体はすぐに片付いた。一時はどうなるかと思ったが、本当に助かったな。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ、元はと言えばこちらの不手際が原因ですので。申し訳ございませんでした」
あの爆発音と振動はマリーの放った<ファイアボール>が原因だったとは。それよりも向こうで話をしているセレスとポーラが実は姉妹だったという話を聞いて驚いた。
セレスを見た時、誰かに似ていると思ったのはそういう事だったんだな。でも、あの二人の雰囲気は何か気まずさしか感じないのは俺だけか?




