トレントの謎
トレント二体の猛攻を躱しながら、この状況を打破する方法を考える。
一番確実なのは、最後の切り札である龍神の加護を発動することだろう。これなら恐らく打撃でもダメージを与えられる。
二つ目はこのまま回避し続けて、回復を待つ。<癒しの光>ではMPしか回復しないから、フルチャージ二回必要だから、これはかなり時間が掛かる。
無難に龍神の加護を使うか? でも、この状況がそれを使うのに躊躇ってしまう。本来現れない筈のモンスターが現れた。
それもいきなり。何の前触れもなく。明らかに邪神が影響しているだろう。そうなると砂の悪魔や森の死神クラスのモンスターが現れないとも限らないし、今以上のピンチも訪れる可能性がある。
俺が悩んでいる間もトレント二体の攻撃は続く。こいつらには疲れというものがないのだろうか?
ダメ元で体の小さなトレントの方へ<フラッシュムーブ>で移動し、殴ってみた。
「やっぱり効かないか!」
体が小さい分、防御が低かったりしないかと思ってみたが、そんな事は無い。他のトレント同様に硬く、ダメージが入っているように見えない。
小さいトレントは、俺が近付いた事で、枝の攻撃から葉の攻撃に切り替え、頭上から大量の葉が降り注いで来た。
慌てて後ろに飛び退き、葉の雨から逃れる。
そこで、俺は気が付いた。大きな方のトレントの攻撃が止まっていることに。
「これは、もしかして、あいつの枝はここまで伸ばせないのか」
爆弾果実は、小さいトレントを巻き込んでしまうのか、全く飛ばして来る気配がない。
「成程。これなら一体だけに集中出来そうだ」
龍神の加護は使わずに済みそうだ。この位置を保てれば一体だけを相手に出来る。それなら、魔力回復薬を飲む時間も作れそうだ。
小さなトレントは俺との距離がやや開いた事で、葉の攻撃と枝の攻撃を混ぜて、攻めて来た。
だが、二体の枝攻撃よりも密度が低い。魔力回復薬を飲み、直ぐに<練気>を使う。もう一本魔力回復薬を飲もうと<空納>の中に手を入れた時、頭上に気配を感じ上を見た。
「本気か!」
攻撃が届かず立っていただけの大きなトレントが上から降ってくる所だった。
慌てて右に向かって走り、俺の立っていた場所に大きな音を立てて、トレンドが着地する。落下攻撃から逃れることは出来たが、再び二体の攻撃範囲にはいってしまった。
「この距離だとどちらかに近付いても範囲内から抜けられないか……」
もうこれは先の危険をを考えるよりも今の危機を乗り越えなければ意味がない。
「幸い、OPは満タンだ。もう悩んでる場合じゃない! 行くぞ!」
俺は龍神の加護の力を開放する。体から金色のオーラが立ち昇る。
トレント達が枝を伸ばしてくるが、俺は一瞬で大きなトレントとの間合いを詰める。
「<瞬迅>」
加護の力で強化された一撃はトレントの体に突き刺さる。トレントは痛みを感じるということは無いのか、怯む様子もなく枝を伸ばして反撃を行おうとしたが、
「遅い。<瞬迅>」
次の一撃でトレントは光の粒子となって、俺に攻撃は届くことは無かった。
大きなトレントを倒され、小さなトレントは、後へと下がり始めた。そして、葉を飛ばすのは忘れない。
「<空破>」
強化された衝撃波が全ての葉を吹き散らし、その間に俺は距離を詰める。さっきの大きなトレントは二発で倒せた。こいつも体は小さいが同じはず。
「<瞬迅>」
左右の高速の突きは、トレントの体に突き刺さり、光の粒子となって消えた。
「さて、これで全部のはずだけど、一応確認しておくかな?」
<探知>を使って果樹園内にモンスターが居るか確認してみたが、反応は無かった。トレントは十体で終わりらしい。
「ふう。終わった。でも、雑魚相手に加護を使う羽目になるとは思ってもいなかったな」
加護の効果時間が切れて、体を包んでいた金色のオーラが消えた。
俺は、皆が待機している果樹園の入口に戻り、討伐完了を伝えると、従業員たちは安堵していた。
「それにしても、あのモンスターは何処から来たんだろう?」
俺の質問に従業員の一人が答えた。
「あのモンスターはアペルの樹だったんだ」
「え? どういうこと?」
サキが聞き返すと、他の従業員が答えた。
「私達も良く分からないんですが、あれは、元々生えていたアペルの樹が突然モンスターに変わったんです」
「そうそう。実を摘んでいたら、突然襲い掛かってきて、皆慌てて逃げ出したんだよな」
「今まで、アペルの樹に擬態でもしてたのか?」
「そうだとしたら、他の樹は大丈夫なのか?」
「俺、この仕事辞めたら他の職なんて無いぞ」
従業員たちも突然のモンスター化に戸惑い、これから先どうなるかの不安で一杯のようだ。
「元はただの木だったものが、モンスター化したのか?」
「そうとしか考えられないね」
俺の疑問にミコトが同意する。そうだとすると、邪神の影響が強まった事でのモンスター化としか思えない。でも、それなら、光の粒子となって消えないのでは無いだろうか?
「これは、急いでバルディアの所に戻った方が良さそうだね。アスカ、ミコト。行こう」
サキの提案に俺とミコトは頷き、従業員たちに別れの挨拶をして、バルディアの居る首都グレイシアを目指して、出発をした。
道中、トレントのように草花がモンスター化したのだろうか? 植物系のモンスターとの接触が多々あった。ハイオーガ程の強さは無く、海のモンスター相手に活動している冒険者であれば対処は可能だろうが、数が多い。油断は出来ない相手だった。
サキの話によればグレイステラの冒険者たちは、大半が船の護衛として航海に出ている。つまり、この原因不明で突如として現れたモンスターに対処出来る人材が不足しているということだ。
「嫌な感じだな」
俺は独り言を呟き、サキの案内で先へと急ぐのだった。




