苦戦
部下を全て倒され怒りに満ちていたハイオーガキングは、俺に指差され、更に不満を抱いたのか、突然大きな咆哮を上げた。
「ウォオオオオオオ!」
キングから湧き出る瘴気の量が増し、その瘴気を全身に纏わせた。
「簡単に死ねると思うなよ」
キングはゆっくりと俺の方へと歩き始めると、そのキングの目の前にサキのチャクラムが現れる。
「<インフェルノ>」
キングを業火が襲う。だが、キングは涼しい顔で炎を気にせず、歩みを止めない。
「え? 全然効いてないの?」
ソーサラーの<イビルバリア>は、ミコトが浄化して倒す事が出来たのだろう。だけど、こいつ、キングは障壁というより、鎧という表現の方が合う。
「<ピュリファイ>」
ミコトが攻撃が通じなかったのを見て、直ぐに浄化しようとしたが、キングの体を覆っている瘴気は消える事は無かった。
「浄化出来ないの?」
「バルディア様。こんな奴を僕に倒せって言ってたの?」
ミコトとサキが動揺しているのが分かる。それはそうだろう。自分の力が全く通用しないのだから。
「さて、俺の攻撃はどうかな?」
ゆっくりと歩いてくるキングに向かって駆け出し、先ずは一つ目。
「<気弾>」
俺の放った光弾を避けようともしないキングは、光弾をまともに受ける。だが、普段なら着弾すると爆発を起こす筈なのに、爆発どころか、光弾が消えてしまった。
「やっぱり効かないか」
「何だ? 今のは? 変わった攻撃だったが。通用しないから気にせんで良いか」
あの瘴気がやっぱり邪魔なのか。表面上の攻撃は通用しそうにない。
「それなら、やっぱりこれ頼みだな」
キングとの距離を詰めて、瘴気に覆われた体を狙って手を前に出す。キングは、右腕に纏っていた瘴気を剣の形に変え、袈裟斬りをしてきた。
「当たるかっ! そして、これはどうだ!? <烈波>」
袈裟斬りを左に回り込んで避けると、そのまま左脇腹に手を当て、<烈波>を放った。
「ぐぅ」
瘴気を直接触れた右手に痛みが走る。瘴気が濃くて腐食したようだ。
そして、俺の放った<烈波>は、キングの体に到達出来なかったようだ。キングは平然としていた。
「何をしたかったのか? お前のような下等な者が、俺の体に触れるな」
左手の瘴気を剣に変え、薙ぎ払う。俺は後ろへ飛び退きその攻撃を何とかギリギリで躱す事が出来た。
「<烈波>も効かないのか?」
これでは手が無い。そう思った時、キングの左脇腹の瘴気が爆発した。
「む? 何だ?」
キングは突然瘴気が爆発し、驚いていた。
「成程な。体まで衝撃波が到達出来なかっただけか。瘴気は剥がせるみたいだ」
俺は見た。爆発した瘴気の奥に、キングの体があったのを。<烈波>なら瘴気の鎧を剥ぎ取れる。だが、直ぐに瘴気の鎧は元に戻った。時間にして、約二秒位。
俺はミコトたちの下へと戻る。ミコトが瘴気にやられた俺の右手を見て直ぐに<ハイヒール>で治療してくれた。
「ねえ、今何をしたの?」
サキはキングの瘴気の鎧をどうやって爆発させたのか気になって、仕方が無いようだ。
「あれは俺のアーツだよ。本来は体の内部に衝撃波が徹って内部から爆発して、防御無視のダメージを与える物だけど、瘴気で届かなかったみたいだな」
でも、やりようによっては本体にダメージを与えられそうだ。
「ミコト、悪いけど回復の準備を頼むよ」
「良いけど、どうするの?」
「こうするのさ」
俺はキングに向かって駆け出す。向かって来る俺を嫌がったのかキングは歩みを止めると、両手を上げた。
「お前は何か危険だ。死ね」
すると黒い瘴気の雷が俺の周りに落ち始めた。一発でも喰らえば行動不能になりそうだ。
地面を穿ちながら落ちる雷を避けながらキングの下に辿り着くと、雷攻撃から剣へと攻撃をシフトしてくる。しかも、双剣の形で俺を迎え撃つ。
「くっ。隙が無い」
「任せて。<サンダーボルト>」
俺を援護するためにサキがキングの顔面に雷撃を放った。雷はキングに直撃するが、瘴気に覆われていない顔面でも、無傷。どうやら、そもそもの防御力自体も高いようだ。
「無駄だ。俺が部下達より弱いとでも思ったか?」
キングの意識が一瞬だけサキに向いた。その一瞬を逃さず、さっきより威力を抑えた<烈波>を腹に当てる。
「無駄だと言っている」
キングが瘴気の剣を振り下ろすが、俺はもう距離を取っている。
そして、瘴気の鎧が爆発する。だが、威力を抑えた一撃は、キングの体が現れるには至らなかったようだ。
「爆発まで五秒。次は、最初よりも弱く、今よりも強めで」
瘴気の鎧に触れて腐食した俺の右手をミコトに治療してもらうと、直ぐにまたキングへと向かって行く。
「さあ、これはどうだ!」
「無駄だ。お前達ではこの王である俺を倒す事など無理だ。諦めろ」
「誰が諦めるかよ!」
キングの剣を掻い潜り、再び<烈波>を当てる。
「小癪な。俺の体に触れるな! 穢らわしい!」
衝撃波が瘴気の鎧を爆散させると、今度はしっかりとキングの体を目視出来た。
「この威力ならいけるのか。でも爆発まで六秒に延びた。もっと威力を上げたら、今考えている方法じゃなくてもいけるのか?」
キングとの距離をもう一度取ると、<空納>から魔力回復薬を取り出し、<練気>を使った後に、一気に飲み干す。
「試してみるか」
今度は全力で叩き込んでみる。キングに向かっていくと、キングは剣が当たらなかったからなのか、剣から槍に形を変え連続で突きを放ってきた。
「近付けさせないつもりか」
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!」
剣よりもリーチが長くなり、連続攻撃に隙も無く、間合いを詰める事が出来なくなった。
「くそっ! ミコト、サキ。何とか隙を作ってくれないか!」
「任せて」
ミコトがキングの手にする瘴気の槍に<ピュリファイ>を掛けた。槍が浄化され、見事に隙を作ってくれた。
「ナイス! どうだ!?」
槍が消えた瞬間に間合いを詰めた俺は全力の<烈波>をキングの腹に当て、後ろに飛び退いた。その瞬間に槍を再び作ったキングの薙ぎ払いが目の前を通り過ぎる。
「ちっ」
「危なかった」
キングは俺に攻撃が届かなかった事に舌打ちをし、槍を構えると俺に向けて投擲する。
体を反らし槍を避け、体勢を立て直す。そろそろ爆発しても良さそうだが。
そして、十秒後、キングを覆っていた全ての瘴気の鎧が爆散した。
「何だと!?」
「くそっ。鎧は壊せてもダメージは徹らないのか」
キングは爆散して無くなった瘴気の鎧を纏い直すと今までの余裕の表情とは打って変わって、目付きが鋭くなった。今からが本当の戦いになるのだろう。
俺も魔力回復薬を飲んで万全の状態にした。向こうが本気になろうが、やる事は決まった。ここからが勝負だ。




