ハイオーガの根城
ハイオーガとの戦闘に手助けしてもらった礼も兼ねて、サキの手伝いをすることにした俺たちは、進んできた道を戻っていた。
「瘴気の元がハイオーガたちの王とはな」
俺はサキに聞いた話を思い出しながら先頭を歩いていく。
この洞窟から漏れる瘴気の元を排除する依頼を女神バルディアがサキに出したのだが、プリメラが把握出来ていなかったこの洞窟について、バルディアは瘴気が充満し、溢れ出していることも、その瘴気の根源があるモンスターである事も把握していた。バルディアの加護が届いていないにも関わらず。
どうやって知ったのか尋ねてみると、バルディアの加護のあるグレイステラは、花や緑豊かな大地なのだそうだ。デイジーのバラトレストはジャングルといった大きな密林に対し、バルディアは本当に自然豊かな国。プリメラのエスティレよりも恵まれているらしい。その分、他の国々に食糧等を輸出して、援助しているのだそうだ。
だったら、セドニーもあんな行為に出なくても良いのではと思ったが、やはりサウザートまで届くのに時間が係ることもあり、十分な援助が出来ず、恨みを買っていたらしい。
そして、バルディアはその自身の国に存在するあらゆる生物(植物も含む)から、国の状況を聞くことが出来るそうだ。女神っぽい能力に感動した。そこで、この洞窟の周りに咲いている花々が、瘴気で困っている事を伝え、サキの出番となった。
「グレイステラは、街や村の外にモンスターが居ないんだよ」
「本当なの?」
「だから、冒険者が居なくてサキにここの対応を頼んだのか?」
サキは首を横に振り、俺の質問を否定した。
「違うよ。グレイステラにも冒険者は居るし、レベルはそれなりに高いよ」
「それなら、どうしてさっきサキしか冒険者が居ないって?」
ミコトが質問するが、サキが答えようとした所で、俺が止める。
「ちょっと待った。静かに。ハイオーガだ」
通路の先にハイオーガが一体立っていた。道を戻った事で瘴気が濃くなり、視認し辛いのが幸いし、まだ向こうはこっちに気付いていないようだ。
「今なら先制攻撃が出来そうだな」
「ねぇ、それ、僕に任せて」
サキが先制攻撃を名乗り上げる。さっきの戦いでは、よく分からない内に助けられていたから丁度良いかもしれない。俺は頷き、
「それじゃあ、サキ頼むよ」
「任せて」
サキは腰にぶら下げている二つのチャクラムを手に取ると、ハイオーガに向けて投げた。サキの手から離れたチャクラムは音も立てずにハイオーガへと向かって飛んで行き、ハイオーガの頭上に留まる。ハイオーガはまだチャクラムには気付いていないようだ。
「<サンダーボルト>、<アブソリュートゼロ>」
それぞれのチャクラムの内側から、雷、吹雪が放たれた。
「ァガ……」
雷に打たれ、麻痺したのか動きが止まり、更に吹雪によって体が凍りつき、ハイオーガは氷像となって動かなくなった。
「倒せなかったかぁ」
チャクラムがサキの手元に戻って来る。光の粒子とならなかったことを残念そうにしているサキを見て、ミコトがサキに尋ねる。
「今の何?」
「ん? 魔導だよ」
「これが魔導なの? 魔術とは違うのかな?」
サキは頷いた。
「そうなんだ。僕、巻物使っても、この世界の魔術を覚えられなかったんだよね。どうも、僕の魔導と魔術は違うみたい」
サキの魔導は威力もそうだが、効果も凄いな。ただ、
「あのハイオーガ以外には居なかったみたいだけど、さっきの雷の方は音が凄かったから、他のハイオーガに気が付かれたかもな」
「あ、ごめん」
「いや、気にするな。どうせ、今からあいつらのボスを倒しに攻め込むんだ。寧ろ、少しずつこっちに来てくれた方が、戦闘もしやすいし」
取り敢えず、あの氷像になっているハイオーガに止めを刺すため先へ進む。他のハイオーガが来てもいいように警戒しながら近付いたが、ハイオーガは現れなかった。
「それじゃあ、止めを刺そう」
氷像の頭を殴り、砕いた事でハイオーガは光の粒子となって消えた。
「よし。それじゃあ先に行こうか」
ハイオーガが立っていたのは丁度道が二手に分かれていた場所だった。俺たちが戻って来た道とは反対の道へと入ると、瘴気の濃さが更に濃くなったようで、視界は悪いし、何より気持ちも悪くなってきた。
「瘴気が濃過ぎて、気持ち悪い」
「そうだな。ミコト」
「ちょっと待ってね。試してみる。向こうにも気付かれるだろうけど」
そう言うと、ミコトは魔力を練りながら、この先の瘴気が全部浄化出来るように祈りながら、
「<ピュリファイ>」
<ピュリファイ>を唱えた。瘴気が浄化されたが、それも一瞬だけ。瘴気が濃過ぎて、焼け石に水だった。
「やっぱり駄目みたい」
「しょうがないな。この瘴気だし。先に進もう」
ミコトとサキは頷き、俺たちは先へと進む。途中、何体かのハイオーガと遭遇したが、いずれもサキの魔導があったお陰で楽に進むことが出来た。
暫く進んだ所で、皆、瘴気で気持ち悪くなり、これまでと同じで、ミコトに<ホーリーバリア>を張ってもらい、中の瘴気を浄化して休憩することにした。
「ふぅ。結構、きついな」
「二人が居てくれて助かったよ。僕一人じゃ、この瘴気で参ってたね」
「私達こそ、サキに助けられているから、おあいこだよ」
さて、あとどのくらいだろうか? だいぶ奥の方まで進んできたのは間違いない。そして、思った以上にハイオーガとの遭遇率が低いのが気になる。
「アスカ、どうしたの? 何だか浮かない顔しているけど」
考え事をしている俺が心配になったのか、ミコトが尋ねてきた。
「いや、ここにハイオーガの群れが住み込んでいるんだろ? その割には出合ったハイオーガが少な過ぎるのが気になってな」
「そうだね。僕なんか、二人が戦っている所に出会すまでは、ハイオーガと遭遇してないし」
「つまり、住処の警備として巡回しているハイオーガ数体としか遭遇してないとしたら、とんでもない数のハイオーガが住処に居る可能性がある」
「そうだね。僕の魔導は、殲滅用じゃないから、それは困るな」
「それで、よくバルディア様はサキに討伐を頼んだよね?」
「一応、バルディア様は、僕に無理な事はお願いしてこないから、たぶん何とかなるとは思うけど」
少し心配そうにサキは呟いた。俺たちは十分に休憩を取ると、再び奥を目指す。その間ハイオーガとは一切出合う事は無かった。これは嫌な予感がする。
そして、これまでのただの通路とは違い、大きな空間が広がる場所に辿り着いた。そこには、ハイオーガが十体、ハイオーガソーサラーが三体、ハイオーガソーサラーとは違った服装をしたハイオーガが二体、そして、一際目立つ王冠を冠ったハイオーガがそこに居たのだった。




