六人目の召喚者
両腕に瘴気を纏ったハイオーガは、構えを取ると俺に向かって再び駆け出した。俺もハイオーガに向かって駆け出す。
あの瘴気を纏った拳で殴られれば、ただでは済まないだろうな。なら、当たらなければ良い。
「うぉおおお!」
「ウォオオオ!」
互いに雄叫びを上げながら、拳を繰り出す。パワーファイターのハイオーガとスピードファイターの俺。リーチの差はあるが、それでも先に俺の攻撃がハイオーガに届く。何故なら、俺の狙いは攻撃してきた腕だからだ。
「くそ。瘴気が邪魔で、<風爪>の効果が軽減されたか」
風の爪はハイオーガの皮膚を僅かに切る程度だった。防御と攻撃を兼ねているのか。ハイオーガの攻撃は、俺に掠る事もなく空を切る。互いに次の攻撃に移る。俺の攻撃は、当たるが瘴気に阻まれ、威力が落ちて一切の致命打にならず、ハイオーガの一撃は、一発で致命打になるが、悉くを俺が躱す。
暫く続いたこの攻防に、俺は狙いを変える。瘴気に守られていない腹にガードの間に合わない攻撃を当てる。
「これならどうだ! <瞬迅>!」
俺の超高速突きは、ハイオーガのガードも間に合わず、見事に腹に当たった。風の爪が腹に食い込む。良し。次だ。腕を引いて更に一撃を入れようと思ったが、腕が引けない。風の爪が腹に食い込んだまま、ハイオーガの筋肉に挟み込まれてびくともしないのだ。
「くそっ。何でだ。離せ!」
俺は腕を引こうと必死になっていると、ハイオーガが俺を叩き伏せようと両手を頭の上で組み、俺の頭を目掛けて振り下ろして来た。
そして、気付いた。<風爪>を解除すれば良いだけだと。焦ったせいで、思いつかなった。
俺は<風爪>を解除してしゃがみ込む。だが、その回避は失敗だった。頭への直撃は避ける事が出来たが、振り降ろした腕は俺の背中を強打した。
「ぐはっ」
強打された勢いで地面に叩き付けられ、その衝撃と背中に受けたダメージで直ぐに起き上がる事が出来なかった。
「死ネ!」
ハイオーガが右足を高く上げると、勢いよく俺の頭目掛けて踏み抜いて来た。
不味い。回避は無理だ。せめてガードを。駄目だ動かない。こいつにはこのパターンが多いな。二度目は無いか。くそ。こんな所で、女の姿のまま死ぬのか?
死を覚悟したその時、ハイオーガの叫び声が聞こえる。
「ギャアアア!」
更に目の前にハイオーガの足が落ちてきた。
「良かった。間に合った」
何処からか男の声が聞こえた。さっきの女の子の連れなのだろう。リングのような物が奥の方へ戻って行くのが見えた。多分、あれを投げて足を切断してくれたのだ。
「<クイックヒール>」
ミコトが俺に<クイックヒール>を掛けた。そのお陰で動けるようになった。
片足でバランスを何とか取っているハイオーガの足を、起き上がる時、ついでに一撃入れるとハイオーガはバランスを崩し、倒れてしまった。
「キサマ!」
「今がチャンスだ!」
倒れて上半身だけ起き上がった状態のハイオーガの顔面に右ストレートを叩き込んで、ハイオーガを地面に倒す。
そのままハイオーガの上に乗り、顔に手を当てる。ハイオーガは、俺を退かそうと体を掴みに掛かったが、もう遅い。
「<烈波>!」
ハイオーガの顔面に全力の<烈波>を放った。闘気が顔面に浸透し、そのまま爆発をする。頭が吹き飛び、俺を掴もうと伸ばしてきていた腕は、体に届く前に止まり、そのまま光の粒子となって消えた。
「やった。後は……」
俺は残りの二体がどうなったか奥の方を見ると、既に助けてくれた女の子が倒してしまっていた。
その女の子がこっちへ歩いてくる。ミコトも起き上がり、俺の傍へと歩いてきていた。
「大丈夫? 何でこんな所に女性二人だけで居るの? 危ないよ」
女の子が俺たちに声を掛けてきた。あれ? 女の子一人? さっき聞こえた男の声は、気のせいだったのだろうか?
「助かったよ。でも、君こそ女の子一人でこんな所に来たら危ないんじゃないのか?」
「僕は大丈夫。強いからね」
女の子が胸を張って自慢気にしている。身長は、ミサオと同じ位。胸も。少しキラキラと輝きを放つローブに身を包んだ女の子だ。
「それを言うと、俺たちもそれなりの強さはあるけどな」
「その割には苦戦してたよね? 僕は楽勝だったよ」
煽られているのだろうか? いや、違うな。多分、これがこの子の素なんだろう。
「あ、僕はサキだよ」
「俺はアスカ」
「私はミコトです」
この子はもしかして。
「なぁ、もしかして召喚者かい?」
「え? そうだよ。良く分かったね。もしかしてお姉さん達も?」
「やっぱり。俺たちもそうだよ。それじゃあ君がバルディアが召喚した子なのか。俺はアルバ、ミコトはプリメラから召喚されたんだ」
「アルバ? 誰それ?」
俺はサキにこれまでの事を説明する。そして、これからバルディアの所に向かう事も。
「邪神に龍神。ここに来ただけでもあれだったけど、更に凄い事になってたんだね」
俺の話を聞いたサキは驚いているのか、別に何とも思っていないのか分からない反応だったが、返事を聞く限りには、驚いているのだろう。表情に感情が出難いのかな?
「それよりも、そのスタイルで男とかあり得ないよ。ズルい」
サキは俺の体を羨ましそうにジロジロ見ている。感情が顔に出難いんじゃなくて、さっきは本当に何も思っていなかっただけか。
「それより、サキは何でこんな所に?」
「僕はバルディアに頼まれて、この洞窟から出てくる瘴気の元を断ちに来たんだ」
「瘴気の元を断ちにって、一人で? 他には仲間は居ないのか?」
さっきの男とか。ここには居ないようだが。
「居ないよ。僕一人で来たから。大体、グレイステラには僕位だよ。バルディア以外でまともに戦えるのは」
「え? そんな事無いだろ? さっき男の声だってしたし、そもそも冒険者だって居るだろ?」
「男? そんな人居ないよ。あ! それ、僕だね。きっと」
何を言っているのか分からない。お前は女の子だろ。俺が男だからと、惚けているのだろうか?
「サキ、私も男の人を見たけど」
「え? 見られたの!? 内緒にしときたかったのに」
ミコトは、倒れていた俺と違って、男の姿を目撃したらしい。それを聞いたサキが観念したように答えた。
「それ、僕なの。僕の職業、魔導士の特性なんだ。あ、魔を導くで、魔導ね」
サキは、自分の職業の説明をしてくれた。魔導を使って戦う遠距離タイプ、魔導が使えなくなる代わりに物理に強くなる物理タイプを使い分ける事が出来、物理タイプになると体が男に変わるらしい。切り替えは、時間にして、たったの三分。魔導が通じない時等に使い分けるそうだが、使った後は、一時間は男になれないそうだ。使い勝手が悪い。あのリングは、チャクラムらしく、男の時のアーツで必中の<チェイサーエッジ>というものを使って、足を斬ってくれたそうだ。
そして、俺たちはサキに瘴気の元の話を聞いて、助けてもらった礼に手伝うことを申し出るのだった。




