洞窟の先で
ハイオーガソーサラーを倒し、奥へと進んだ俺たちは、現在、足を止め、姿勢を低くして身を潜めていた。
「あれは、流石にきついな」
「そうね。瘴気もさっきより濃くなってきたし」
今居るのは、先に分かれ道が見えるカーブの手前。カーブを曲がった先、分かれ道の入口にハイオーガが五体、周囲を警戒するように立っていた。
「あれだけの戦闘音がしていたんだ。普通に考えれば、様子を見に来るよな」
「そうだね」
五体は全て手に棒を持っていた。つまり、さっきのハイオーガソーサラーと戦ったように<ホーリーバリア>、<ピュリファイ>での弱体化作戦は効かない可能性がある。一体ずつであれば、無傷とはいかないまでも、多分倒せる。でも、それが五体を同時に相手取るとなると流石に厳しいだろう。
「さて、どうしたものかな?」
「私も戦乙女で戦う?」
「うーん。武器があればいけるかもしれないけど、厳しいと思う」
ミコトは自分でもそれが正しいと自覚しているのだろう。悔しそうに歯噛みをしていた。
それよりも、向こうとこちらは真っ直ぐ道が続いている。カーブの影に隠れているだけだから、こっちに来られれば隠れる場所は無い。戦闘は必至。
せめて、一体ずつの戦闘に出来ないか? ミコトに<ホーリーバリア>で壁を作ってもらうか?
すると、ハイオーガたちが後ろを振り返り、分かれ道の右側の通路へと消えて行った。
「助かったのか?」
「みたいね。アスカ、どうする?」
ミコトは、ハイオーガたちを追い掛けるのか、左の通路に進むのかを確認してきたが、俺は首を横に振る。
「ミコト、ここは一旦休憩しよう」
「そうだね。瘴気も濃くなってきたし、ちょっと休憩しようか」
ミコトは小さな障壁を張り、その中の瘴気を浄化する。空気が綺麗になった所で、軽く食事を取り、交代で一時間ずつ仮眠を取った。
「うぅん……。仮眠とはいえ、少しは疲れが取れたかな」
「うん。それで、アスカ、どうする?」
ミコトの質問に、俺はハイオーガたちが入って行った通路とは違う通路を指差した。
「俺の予想だけど、あのハイオーガたちが行かなかった通路、あっちの方がヤバい気がする」
「そうなの? どうして?」
「あいつら、何かを探しているみたいだった。それが見つかったように見えなかっただろ。そうすると、あいつらが進んだ道は、他にはハイオーガは居ないと思うんだ」
「成程。でも、あのモンスターたちが探し物を諦めて戻ったとは考えられないのかな?」
「その可能性もあるけど、俺は、右側の方が良いと思う」
「分かった。アスカがそこまで言うなら、右側に行こうか」
ミコトは小さく頷くと、障壁を消した。そして、俺たちは、ハイオーガたちが入って行った右側の通路へと入って行く。
「あれ?」
「ねぇ、アスカ。気の所為じゃないよね?」
「あぁ。瘴気が薄い」
分かれ道に入る前はかなりの瘴気で空気が汚染されていたのに、この道は全く無いわけではないが、瘴気が薄い。
「これって、反対の通路の奥から瘴気が溢れてきているって事かな?」
「そうかもな。尚更、向こうの先は、危険な可能性が高くなったな」
そして、この通路はこれまでよりも下りの傾斜が大きく、どうやら、海底へと続いているというのは本当のようだ。
休憩した時間の分、あのハイオーガたちはかなり先へ進んでいるようだ。中々姿が見えてこない。見えてきた所で、五体同時に相手は出来ないが。
坂道を下って、三時間が経過したくらいに、傾斜が緩やかになってきて、遂に平坦な道となった。
「どうやら、ここが底みたいだな」
「結構、降りてきたよね?」
「ああ。それにしても、瘴気が薄れたとはいえ、不思議だな。灯りがなくても、こんなに周りが見えるくらい明るさがあるのは」
「普通なら、何も見えないくらい暗いだろうけど、洞窟全体がほんのりと光ってるのは凄いよね」
海底までは太陽の光は届かないにも関わらず、この洞窟は、松明などの灯りを必要としないくらい、明るい。瘴気が蔓延していても周りが見えるから助かっている。
だが、その明るさが今は災いをもたらそうとしていた。
「さて、ここでこいつらとかち合ってしまったか」
そう。この通路を先に進んでいたハイオーガ五体。あいつらがこの海底でやはり何かを探していたようで、俺たちはその五体に追い付いてしまった。向こうも俺たちに気が付いたらしく、手に持つ棒を構え、警戒をしている。
「ミコト、<ホーリーバリア>を壁みたいに薄く張って、あいつらを分断出来ないかな?」
「分からないけど、試してみるね」
一体ずつ戦う為の工夫をするため、ミコトに障壁の張り方に工夫を頼むと、ミコトはそれに応えるように、最も遠くにいるハイオーガの前に普段のドーム状の障壁では無く薄い壁。
「上手く出来た。それなら」
ミコトは直ぐに他のハイオーガたちをその壁で隔離していき、一対一の状況を作り出してくれた。壁に行く手を塞がれたハイオーガたちは、障壁をガンガン殴りたて、あまり時間に余裕は無さそうだ。
「ミコト、ありがとう直ぐに片付ける。悪いけど、障壁の維持を頼むよ」
「任せて」
自由に動けるハイオーガは、俺が走り出すと、俺に向かって同じく走り出す。
ハイオーガが棒を力任せに横殴りに振ってきたのを屈んで躱し、低い姿勢のままハイオーガの両足に<風爪>を放った。
「ぎゃあっ!」
俺の放った風の爪がハイオーガの両足を深く抉る。立っていられなくなったハイオーガが倒れると、<風爪>を首目掛けて放った。
「ぐぁっ」
首を切り落とせなかったか。でも、これで、このハイオーガは、瀕死だ。放っておいても、その内消えるだろう。次のハイオーガに向かって走る。
「ミコト、次……」
俺が次のハイオーガを開放してもらおうと声を掛けた時、ハイオーガが最後の力を振り絞り、手に持っていた棒を俺に向けて投げつけた。
「うわっ! 危ない」
「クソ……」
棒を投げたハイオーガは、そのまま力尽き、光の粒子となったが、その棒は先に居るハイオーガの障壁を砕き、開放されたハイオーガが雄叫びを上げながら向かってきた。
「そんなに叫ばなくても、次はお前だ!」
こいつらには<風爪>が非常に有効だ。多分ダメージ自体は大きく無いかもしれないが、切断効果が大きい。だが、さっきの戦いを見ていたハイオーガは、<風爪>を警戒していた。簡単には、当たってくれそうにもない。
「オマエ、コロス!」
ハイオーガは、大きく棒を振り上げると、その棒に瘴気が絡みついていく。
「フンッ!」
その絡みついた瘴気を叩き付ける。俺は横に飛び、その一撃を躱し、直ぐに飛び上がる。
飛び上がるのと同時に、俺の足下を瘴気の棒が通り過ぎていく。
「それはもう見たからな! <風爪>」
「アスカ!」
ミコトの声が聞こえた瞬間、俺は横から大きな衝撃を受けた。
「くそ……」
別のハイオーガが障壁を破り、俺が宙に浮いた所を殴ってきたのだ。
まともに入った。不味い。直ぐに動けない。さっきの瘴気の棒が頭上から振り下ろされるのが分かったが、全く動けず絶対絶命だ。どうしよう。




