上位種との戦闘
法衣を着たハイオーガは不思議そうな表情をしていた。それは、恐らく、未だに俺たちが生きているからだろう。
あのハイオーガの放つ魔術は、砂の悪魔のヒートブレスや森の死神の<風爪>程では無いにしろ、一撃必殺と言っても過言では無い位の火力だ。
「何故? 奴らは我が前から消えない?」
人語が滑らかだ。かなり知性も高いのだろう。
「当たっていれば、そりゃ消えるだろうな。でも、当たらなければ、どんなに威力があっても意味は無いんだよ!」
あの炎、確かに速いがヒデオの魔弾と同じ位の速さだ。だったら、撃つ方向とタイミングが分かれば、避けるのは可能。
そんな事を考えていれば、再びハイオーガが炎を構えた。
「消えろ」
「消えるか!」
炎が手から離れた瞬間、横に飛ぶ。俺の居た場所を炎の玉が通り過ぎていく。それを横目に見て、一気に前へと飛び出すと、ハイオーガとの距離を詰め、顔面に一撃を与える。
「何だ? この手応えは?」
妙な手応えを考える暇も無い。ハイオーガが反撃に俺の顔目掛けて、拳を振るってきた。
「喰らってたまるか」
体を反らし攻撃を躱すと、後ろに飛んで距離を取る。
「貴様、よくも、たかが人間の分際で、この上位種ハイオーガソーサラーである我の顔に手を上げたな」
「上位種か……」
「アスカ、大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
俺の避けた流れ弾で障壁が再び破壊され、張り直したミコトが心配そうに声を掛けてきた。
攻撃は何とか躱せる。そして、あの魔術は連発出来ないのか、近付く事も出来る。
「大丈夫なんだけど、問題があるよ。攻撃が通用しない」
「嘘……」
勿論、ミコトは俺が嘘をつくなんて思ってもいない。そんな事を言う必要も無い。攻撃が通用しない。その事実に愕然としただけだ。
「砂の悪魔が使っていた<ドラゴニックオーラ>とも違う。多分、あれは<烈波>も通用しない。きっと」
そう。あれは、完全に攻撃が入ったと思ったのに、あいつの肌には一切触れられていない。
言うならば、分厚い空気の壁を殴った。そんな感触だった。多分、何かの魔術だろう。あれをどうにかしないといけない。
「貴様ら今すぐ消えろ!」
ハイオーガソーサラーの右手に炎が灯る。それも今までのものよりも大きな炎が。
「くっ。今までは手加減していたのか?」
「全力の<イビルファイア>で消えろ」
ハイオーガソーサラーが手をこちらへ構えた後にも、更に炎は大きくなる。
「うん?」
炎が大きくなっていくに連れて、何か違和感を感じた。更に炎が大きくなり、既に拳大だった炎は直径で六十センチ位の球状にまで膨らんだ。
「あれは……。ミコト! あの炎に<ピュリファイ>だ!」
炎が更に大きくなった事で、違和感に気が付いた。炎が大きくなる瞬間、炎の周りの瘴気が薄くなったんだ。
「え?」
「頼む! 早く!」
「分かったわ。<ピュリファイ>!」
ハイオーガソーサラーの周囲の瘴気が一瞬だけとはいえ、浄化されると、炎が一気に小さくなる。
「何!?」
「やっぱり! あいつの魔術は、瘴気を吸収して威力を上げている。くそっ。また膨らんだ。この際限無く湧き出る瘴気をどうにかしないと切りが無いな」
もしかすると、あの攻撃が効かなかったのも瘴気を使った防御魔術なのか?
「瘴気が無くなれば良いの? だったら! <ホーリーバリア>、<ピュリファイ>」
ミコトが俺とハイオーガソーサラーを<ホーリーバリア>の中に閉じ込め、その中の瘴気を浄化した。
「馬鹿な!?」
炎が急速に縮まっていく。その炎を俺に向けて放つ。
「なんだ。瘴気を吸収していないとこんなものなのか」
その炎の玉はさっきまでの威力、速度が全く無い。ヒョロヒョロとしたショボい攻撃と化していた。
「我の<イビルファイア>が」
「さぁ、防御の方はどうだ?」
ご自慢の<イビルファイア>が見るも無惨な攻撃と成り果ててしまったことにショックを受け、呆然としているハイオーガソーサラーの顔面に確認も兼ねて、思い切り殴った。
「ぶふっ」
俺の攻撃はあの妙な感触を受ける事もなくハイオーガソーサラーの顔面に直撃した。
「予想通りだ。お前、瘴気が無かったら何も出来ないんだな」
「何を。我は瘴気など無くとも、貴様を殺せる」
ハイオーガソーサラーは、法衣の中から短剣を取り出した。その刃は紫色の毒々しい色をしており、如何にも斬られると毒に侵されそうだ。
「成程。魔術が使えなくなったら、毒で殺すというわけだな」
「死ね!」
ハイオーガソーサラーは、短剣を真っ直ぐ突き刺してくる。俺は体を半身ずらし、短剣を躱す。そして、その突き出された腕を掴み取ると、そのまま背負い投げ飛ばした。
「かはっ」
背中を強く打ち付けたハイオーガソーサラーは、ゆっくり起き上がる。
「おのれ……」
やはりハイオーガ族だけの事はある。魔術師タイプとはいえ、耐久力はそれなりにあるようだ。顔面への拳打、今の背負い投げ程度では、まだまだ余裕があるように見える。
すると、ハイオーガソーサラーは、短剣を持たない手を俺に向けて伸ばした。またあのショボい<イビルファイア>を撃ってくるつもりなのかと思っていると、
「<ファイアランス>」
通常の<ファイアランス>だった。炎の槍が俺に向かって飛んでくる。予想していなかった攻撃で、避けるのがギリギリになった所に、短剣を振りかぶったハイオーガソーサラーが接近していた。
「しまった。間に合わ……」
思わず、小手を装備していたつもりで、腕でガードをしてしまい、左腕に激痛が走る。
「ぁ゙ぁぁぁっ!」
左腕の激痛に耐えきれず、叫び声を上げる。
「どうだ? 痛覚を倍にする毒だ。耐えられないだろう」
ハイオーガソーサラーがニヤリと笑い、更に短剣で斬りつけてきた。
「やられるかぁっ!」
右拳のタイガーフィストを爪形態に変え、斬られる前に、ハイオーガソーサラーの頭部に突き刺す。
「このまま燃えろ! <紅蓮>!」
爪先に炎を纏わせ、頭の中を燃やされたハイオーガソーサラーは、光の粒子となって消えた。その場に短剣と法衣だけが残る。
「アスカ! <リカバー>、<ハイヒール>」
ミコトが直ぐに駆けつけてくれて、解毒と治癒をしてくれた。
「ありがとう。助かったよ」
それにしても、人間は装備可能な武器種しか持てないのに、ハイオーガソーサラーは、魔術師のくせに短剣なんて使えるんだな。
戦利品として、その短剣と法衣を<空納>に収め、ミコトと共に奥へと進んで行った。




