洞窟の中
スライムドラゴンから逃げるため洞窟の中に入った俺たちは、スライムドラゴンがその大きさから洞窟の中に入れない事を確認して、一安心していた。
「入ってこれないみたいだ。良かった」
「そうね」
「それより、ポーラ。どうして、こんな所に居たの?」
ポーラが何でそんな事を聞くのという表情をする。いや、それよりも聞かないといけない事がある。
「その前に、君は誰なんだ?」
「え? 何を言っているの?」
「ポーラ、俺たちは、プリメラ様の所で寝たままの君を見た。あれは間違いなく君だった。でも、今、目の前にいる君も、偽物とは思えないから、聞いているんだ」
「私が、プリメラ様の所に?」
「ねぇ、ポーラ、今まで戦闘でアーツを使っていなかったけど、使えないの? 魔術は使えないって言っていたけど」
「ええ。アーツも使えないわ」
ミコトの質問に俯きながら、手にした剣を握る手に力が込められる。何も出来ないのが悔しいのだろう。
うん? 剣? ちょっと待て。これは、どういう事だ?
「ポーラ、お前、その剣は?」
「これは、私の使っている剣だけど、何?」
「神器のフレイムソードはどうした?」
「神器? 何を言って……、あ、頭が……」
そう。ポーラが手にしていた剣は、普通のショートソードだ。カオスドラゴンと戦った後に、神器が成長して、フレイムソードになっていたのに、それを使っていない。俺と初めて会った時は、ブロードソードを使っていたが、旅立つ時には、神器のバスターソードしか持っていなかった。
態々ショートソードを買う必要もない。神器の質問に頭を抱えて痛みを訴えだしたポーラの体が透き通ってきた。
「え? ポーラ、体が」
「何、ミコト? え、何これ?」
自分の体が透き通って見えることに、ポーラ自身驚いている。何か分からないが、この瘴気が充満しているこの状況も踏まえ、物凄く嫌な予感がした。
「ミコト、<ホーリーバリア>を張って、<ピュリファイ>を使ってくれないか?」
「良いよ。でも、何で?」
ミコトは、俺の頼んだ通り、<ホーリーバリア>を張った後、障壁内に<ピュリファイ>を掛ける。すると、障壁内の瘴気が浄化され、クリーンな状態になった。予想通りだ。
「念のため、ポーラにも<ピュリファイ>を」
「うん。分かった」
ミコトはポーラにも<ピュリファイ>を掛けてやる。すると、ポーラの体から黒い靄が少し出ると、直ぐに消えた。
そして、ポーラが落ち着くと透き通って見えた体は元に戻っていた。
「私の推測何だけど、ポーラって、精神体とかじゃないのかな?」
「俺もそう思う。本体はまだ眠りについたまま、精神だけが、地上に戻って来たとか?」
「二人共、何を言っているの?」
「それで、何でこんな所に居たの?」
「さっきから貴方達の言っていることが理解出来ないけど、そうね。何でここに居るのかと聞かれたら、私にも分からない。貴方達と別れた後、気が付いたら、洞窟の前に居て、あの鎧を着たスライム達が居たから戦闘になったの」
俺とミコトは、二人だけで小さな声で話す。
「ポーラが俺たちと一緒に居たいと強く願ったから、精神だけが、俺たちの行く先々で現れるって感じか?」
「私もそう思う。このポーラは偽物じゃない。本物のポーラね。でも、肉体の方は大丈夫なのかな?」
「精神と肉体が分かれているって、良いことなんて無いと思う。でも、本人が気付いていないからな。どうしようもない。それに……」
俺は言葉を止める。ここからは俺の想像の域に過ぎない。
この洞窟に充満している瘴気。さっきの<ピュリファイ>でポーラの体から黒い靄が消えた所を見ると、精神体を侵して悪影響を与えている可能性がある。もっとも、俺たちもそこに関しては、同じなのだろうが。
ただ、ポーラは、直接精神体に影響している分、ミサオの<マジックブースト>で悪霊モーレスが暴走した時のように、暴走しないか心配だ。それを気付かれないように、言葉を改める。
「いや、何でも無い。それより、この濃い瘴気の中、グレイステラ迄進まないといけないけど、ミコトの<ホーリーバリア>と<ピュリファイ>で瘴気から身を守れるのが、分かったのは良かったな」
「そうね。ミコト、これ張り続けながら移動は出来ないのかしら?」
「流石にそれは無理かな。休憩の時に張る位だよ」
俺も無理とは思っていたが、ポーラと同じ事を考えていた。ミコトにあっさり無理と言われてしまったが。
「じゃあ、一旦休憩して、奥へ行こう。折角張ったんだし、無駄には出来ないだろ?」
「そうだね。あのスライムドラゴンが、入ってこないと良いけど」
洞窟の入口で三時間程休憩した俺たちは、洞窟の奥へと進むことにした。
この洞窟、高さは五メートル、幅は三メートル程の広さで、戦闘するのにも十分な広さがある。問題は、やはりこの瘴気だ。まず、<探知>、<感知>が使えない。これだけでもかなり面倒なのに、この瘴気の中は気持ちが悪い。この中を進まないといけないのかと思うと気が重くなる。
二十分程進むと、モンスターの気配を感じ、周囲を見渡すと、天井にケイプバットが居た。
「あれは、ケイブバットか? セティフの洞窟に居たのと大きさが違う」
姿は間違いなくケイブバットだ。ただ、大きさが段違いだ。倍くらいの大きさだ。瘴気の影響で、スライム同様に進化しているのだろうか?
ケイブバットは、こちらに気が付き、天井から離れ、こっちに飛んできた。翼を広げると、通路を塞いでしまった。今回は一体だけだから良いけど、これが前みたいに群れで来たら大変だ。
「大きいわね」
「大きいだけなら良いけど」
ポーラとミコトの考えは当たっていた。ただ大きくなっただけじゃない。こっちに飛んでくるスピードが速い。
「あれは、間違いなく強化種だな。さしずめ、ジャンボケイブバットって所か。来るぞ!」
ジャンボケイブバットは、通路を塞ぐ体で体当りをしてくる。避けるには後ろに下がるしかない。だけど、俺が避けても、ミコトやポーラが襲われる。なら、やる事は一つだ。
「<雷迅>」
突っ込んできたジャンボケイブバットに雷を纏った右拳を叩き付けた。
「うおっ」
ジャンボケイブバットの体当りで少し後退させられたが、ジャンボケイブバットも俺の攻撃で後退する。更に、雷によって体が痺れているようだ。
「よし。じゃあな」
体が痺れて、地面でヒクヒクしているジャンボケイブバットに追い打ちをかけ、ジャンボケイブバットは光の粒子となって消えた。
「アスカ、本当に強くなったわね。私があっさり負けたのも今のでよく分かったわ」
ポーラが俯き悲しそうな表情で、地面を見ていた。
「ポーラも倒せるようになるよ。絶対」
「ありがとう。努力するわ」
それからジャンボケイブバットと数度戦闘を繰り返しながら、俺たちは洞窟の奥へと進んでいった。




