スライムドラゴン
グレイステラへと向かうための海底洞窟の入口にスライムソルジャーの群れが待ち伏せしている中、その群れに剣を構えているのはポーラの偽物? だった。
「何でポーラの偽物が?」
「何でだろうね?」
はっきり言って、あのポーラの偽物では、スライムソルジャー相手にまともに戦えるとは思えない。
ポーラの偽物が掛け声と共にスライムソルジャーに向かって斬りかかっていった。
「はぁっ!」
ポーラの偽物が振り降ろした剣をスライムソルジャーは簡単に剣で受け止める。
剣撃を受け止められたポーラの偽物は、受け止められた剣の上を滑らせるように流し、スライムソルジャーの顔に剣を突き刺す。
「どう? 剣の味は?」
スライムソルジャーはポーラの偽物の攻撃を気にも留めず、剣を突き出す。
「危ない!」
直ぐに後ろに飛び退きながら、突き出された剣を横に弾き、攻撃を防ぐ。
「スライムのくせに強いわね」
ポーラの偽物は、再びスライムソルジャーに斬りかかっていった。
「ミコト、やっぱり俺にはあれがポーラの偽物には見えないんだけど、どう思う?」
「私もプリメラ様の所で寝てたポーラを見ていても、彼女は偽物には見えないかな」
「良し。どうせ、あそこは抜けないといけないんだ。行ってくる!」
ミコトは静かに頷く。俺は一気に駆け出し、ポーラの偽物に意識が向いているスライムソルジャーたちの背後から最も近くの個体に爪モードのタイガーフィストを着けた拳を叩き込んだ。
「アスカ!」
「ポーラ? 何でここに居るんだ? 後で話を聞かせてもらうぞ」
「何も話す事はないけど、でも、助かるわ! とにかくこいつらを先に」
突き刺さった爪を引っこ抜き、反対の腕でスライムソルジャーの腕の部分を爪で斬り落とした。
スライムソルジャーは、斬られた腕を伸ばし、地面に落ちた腕に伸ばした先を当てると、再び接合される。
「まあ、そうくるよな」
それにしても、回復が早い。この瘴気が充満している場所では、モンスターの回復が早いのか。
「ポーラ、暫く一人でもいけるか?」
「スライムなんかに後れをは取らないわ」
「このスライムは普通のスライムじゃないぞ」
「見れば分かるわよ。でも、所詮はスライムでしょ」
ポーラに注意を促していると、剣を持った五体のスライムソルジャーが俺に向かって襲いかかってきた。
「危な……。人の心配をしている場合じゃないな」
こいつらの体力に、瘴気による回復力の増加。正直、かなりキツイ。おそらく、<毒手>で毒状態にしても、回復量の方が多いだろう。
「長期戦になりそうだ」
取り敢えず、回復を少しでも遅らせる為に<毒手>を使う。一体ずつ確実に倒すべきだと、目の前にいるさっき腕を斬り落とした個体に、
「<虎連牙>」
連撃を叩き込んだが、倒せない。ダメージを受けた直後から回復しているのが、はっきり分かる。
「でも、瀕死だろ! <瞬迅>!」
止めの一撃に超高速突きを叩き込む。すると、スライムソルジャーがべちゃぁと潰れ、息絶えた。
「まずは一体」
まだ三十体以上居る。この調子ではどれ位時間が掛かるか分からない。
「<虎連牙>を次に使えるまでは、何とか堪えないと」
次々と襲ってくるスライムソルジャーの剣撃を避け続け、隙あればカウンターを入れる。毒状態になっても、ダメージは直ぐに全快され、効果が薄いのは目に見えて明らかだった。
ポーラの偽物は、スライムソルジャーの攻撃を何とか凌ぐので精一杯みたいだ。無理もない。ステータスは既に俺の方が上。その俺が苦労しているのだから。
「瘴気をこんなに吸ってしまって、俺たちの体は大丈夫なのか?」
瘴気の影響で回復するスライムソルジャーを見て、ふと思う。これまでにかなりの瘴気を吸ってしまった。普通の人間にどれだけ影響を及ぼすのか分からない。
今分かっているのは、<フラッシュムーブ>が使えない事、モンスターが強化されている事、これ位だ。どんな影響が出るか分からないこそ、早く戦闘を終わらせ、洞窟を抜け、グレイステラへ行く必要がある。
「<フラッシュムーブ>が使えないのは、かなり痛いよな」
一瞬で背後に移動したり、距離を詰めたり、本当に便利なスキルだ。だから、使えなくなると不便に感じる。
「元々は使えなかったんだ。贅沢は言ってられないか」
目の前の四体が一斉に攻撃態勢に入った。二体は、上段に剣を構え、二体は、横薙ぎの状態に構える。
「<ソニックエッジ>か!」
縦と横に四角の形で<ソニックエッジ>が放たれる。こんな物食らったら四肢がバラバラになってしまう。
「<風爪>!」
飛ぶ斬撃には、飛ぶ爪撃だ。パァンッと渇いた音が鳴り響く。<ソニックエッジ>と<風爪>がぶつかり合った音だ。
「まだだ! もう一撃! <風爪>」
目の前の一体に向けて<風爪>を放てば、鎧ごとスライムソルジャーはその体が三つに別れる。でも、直ぐに隣同士で体を繋ぎ、元の体に戻ってしまった。
「その隙を俺は逃さないぞ」
体が元に戻るまでの間に距離を縮め、スライムソルジャーの体に手を当てると、<烈波>を当てる。
スライムボディが、ドパァッという音を立て、<烈波>の衝撃波で飛び散った。破片が元に戻らない所を見ると、倒せたようだ。
<練気>で直ぐにOPを回復し、<癒しの光>でMPを少しずつ回復させる。
「まだ数が多いから、あまり無茶も出来ないし、どうするかな……」
<虎連牙>を使えるようになるまであと二十分弱。また<烈波>を使えばもう一体倒せるが、次の<練気>では、十分にOPを回復出来ない。それならば、三十分に一体ずつ<虎連牙>で倒した方が良いかもしれない。
ただ、そうなると十五時間はこいつらの相手をする必要がある。それはそれで、瘴気の問題が残るので、どうしたものかと悩んでいると、スライムソルジャーたちの様子がおかしかった。
俺たちが追い掛けて来た斧を持ったスライムソルジャーが、仲間である筈のスライムソルジャーを攻撃しては吸収し始めたのだ。
「これは! 嫌な予感しかしない。ポーラ! あの斧を持ったスライムソルジャーに集中攻撃だ! いけるか!?」
「あれだね。分かった。行くわよ」
ポーラの偽物は俺の言った通り、斧を持ったスライムソルジャーに向かって走り出した。俺も前のやつらを無視して向かう。
「邪魔だ!」
<風爪>を使い、目の前の四体の体を三分割にして、隙を作る。
横を通り過ぎ、斧の個体に辿り着いた時には、斧を持ったスライムソルジャーは、体を四方に伸ばし、全ての個体を吸収してしまった。
「何なの? こいつは?」
「ポーラ、離れていろ。こいつは君の手に負える相手じゃない」
目の前の斧を持ったスライムソルジャーが、他の個体を吸収し、体が二周りは大きくなった。身に付けている鎧では、体を覆う事も出来ず、体の中に取り込まれ、消化吸収されていく。持っていた斧も吸収され、更に体が大きくなる。
「嘘だろ! ミコト! ポーラ! 悪いが、君にも付いてきてもらうぞ。こいつを倒すのは無理だ。逃げるぞ!」
スライムソルジャーだったものは、その体の大きさが遂に洞窟の入口よりも大きく、ざっと見積もっても、体長は十メートルはある。そして、人の形だったものは、大きくなると同時にその姿も変えていた。
「スライムドラゴンかよ」
ミコトは、戦乙女にジョブチェンジし、俺たちの下へと来ると、
「行こう!」
「洞窟の中へ!」
俺たちは、ドラゴンの姿となったスライムソルジャーから逃げるため、洞窟の中へと駆け込んでいった。




