ビリー再び
グレイステラへと続く海底洞窟へと向かう為に北の森を目指す俺たちは、エスティを出発して二日目を迎えた。
その俺たちの目の前には、エスティレを旅立つ時に一悶着あったマリーたちパーティが立ち塞がっていた。
「マリー、そこを退いて」
「ごめんなさい。ミコト。私じゃビリーを止められなかったのよ」
そう。今、俺の前には完全武装したビリーが剣を抜き、身構えていた。俺たちが出発した後、何処で話を聞いたのか、馬を使って追い掛けて来たのだ。
「お前がミコトを連れ出したから! お前さえいなければ、ミコトは俺たちのパーティに戻って来るんだ!」
「何を言っているんだよ。意味がわからない」
「アスカ、ビリーはミコトが好きなのさ」
「セレス! 黙れ!」
セレスはお手上げとばかりに両手を上げて、首を横に振る。
「ね?」
「ね? じゃない! パーティメンバーだろ! マリーは実の姉だろ! 止めろよ!」
「ごめん。ずっとビリーはあなたを倒すことばかり考えてたの。相手をしてあげてよ」
「セイラ。それでアスカが怪我をしたらどうするの!?」
珍しくミコトが大声を張り上げている。無理もない。逆恨みも甚だしいし、そもそもミコトはビリーにその気も無い。ビリーの勝手な想いで、俺たちの邪魔をされるのが腹立たしいのかもしれない。
「おい! さっさと構えろ!」
「ああ、もう! 分かったよ! 相手をすればいいんだろ!」
俺は観念して、ビリーの相手をすることにした。もう、完膚なきまでに思い知らせないとこの先もずっとこの調子で付きまとってきそうだからな。
「アスカ」
「大丈夫だよ。ミコト」
「アスカぁ、早く先に行こうよぉ」
アルの言う通り、先を急がないとな。
「行くぞ!」
ビリーが剣を振り上げ走って来る。
「なぁ、鎧が重いのか? そんなゆっくりじゃ、俺には当たらないぞ?」
ビリーが剣を振り降ろすまでの間に三発鎧の上から打撃を叩き込んだが、高そうな鎧は、その見た目通りに防御力が高いようで、俺の攻撃ではびくともしていない。
振り下ろされた剣を後ろに飛んで躱し、右拳にタイガーフィスト、左拳に<創装>のタイガーフィストを装備すると、<紅蓮>を両手に発動させる。
「何だ? お前、前はそんなアーツ使っていなかったじゃないか!?」
「何を言っているんだ? お前だけが、レベルアップしているわけじゃないだろう? あの時も、<紅蓮>は使えたけど、効果は無いだろうから使わなかっただけだよ」
「なら、今使ったのは、それで俺にダメージを与えられるとでも思っているのか? この騎士の鎧がお前みたいな奴の攻撃でダメージを受けるはずが無いっ!」
ビリーは再び剣を振り上げ、俺の方へと向かってくる。さて、今度はどうしようか? さっきと同じように反撃を加えて避けるか、最初から避けるか?
「うぉおおおおお!」
ビリーは気合いを込めた叫び声を上げながら、剣を振り降ろす。俺はほんの数ミリ後ろに下がると、俺の目の前スレスレをビリーの剣が通っていく。完全にビリーの攻撃を見切っていた。攻撃に手応えを感じなかったビリーは、一歩更に前へ踏み込み、逆袈裟に剣を斬り上げるが、ビリーの踏み込み分下がった俺には掠りもしない。連続で手応えを感じないビリーは、先程の気合いの入った叫び声では無く、ヤケクソに叫びながら剣を振り回し始めた。
「くそっ、くそっ、くっそぉおおおお! 何でだ!? 何で当たらない!?」
「何でも何も、お前の動きが遅すぎるから」
ビリーの雑に振り回すだけの攻撃を躱し続けながら、ビリーに実力差をはっきりと分らせる為の攻撃は何があるかと思案していた。戦闘中に考え事をしていたのが分かったのか、ビリーが怒号を上げる。
「貴様ぁ! 俺との戦闘中に考え事をするなぁ!」
「いや、お前をどう倒すか考えていただけだぞ?」
「俺は負けない!」
怒りで更に攻撃が雑になる。もうそこには冒険者の姿は見えなかった。ただの癇癪を起こしている子供のようだ。
「よし、勿体無いけど、これでいこう」
俺は振り回される剣を避けながら拳の届く距離へと一歩前に出る。すると、ビリーは何を思ったのか、振り回していた剣を投げ捨て、両手で俺に掴み掛かってきた。
「狙いがズレるけど、<虎連牙>」
まず、掴み掛かってきた両手を拳で叩き上げると、そこから鎧の装甲が最も厚い、胸の部分に連打を叩き込んでいく。一発毎に威力の上がる連打が同じ場所に叩き込まれた結果、
「嘘だ。有り得ない。俺の鎧が、砕けた?」
ビリーは自慢の鎧を破壊され、呆然としており、隙だらけだ。このチャンスを逃す必要はない。鎧の穴に向けて、
「<瞬迅>」
<紅蓮>を解いた拳で超高速の突きを叩き込んでやった。
「かっ……」
胸部を強打されて、呼吸が止まったビリーが、ふらついている所に容赦なく顔面に止めの右ストレートをぶち込むと、その場に倒れ込んだ。
「ビリー!」
「俺の勝ちだな。お前から挑んだ勝負だ。鎧は弁償しない」
倒れたビリーの下へマリーが駆け寄ってくる。気を失ったビリーの体を揺さぶって起こそうとしているが、全く目を覚ます気配はない。
「セイラ! 回復を!」
マリーはセイラに回復魔術を頼むと、セイラはしょうがないなぁとビリーに<ヒール>をかけた。
「アスカ、強くなったね。私も勝負したくなったよ」
「セレス、勘弁してくれ。俺たちは先を急いでいるんだ」
「分かっているわよ。ビリーが迷惑かけたね」
「頼むぞ。もう二度とこんな事が無いようにしてくれ」
「セイラ、ポーラの事で話があるの」
「ポーラのこと? 何、ミコト」
ミコトは、ポーラについてこれまでの事をセイラに説明した。セイラは、不思議そうな表情をしていた。
「そう。でも、ミコトが嘘をつく必要も無いし。分かったわ。私もそのポーラの偽物を見たら、捕まえてプリメラ様の所に連れて行ってみる」
「よろしくね」
「それじゃあ、俺たちはもう行くぞ」
「ええ。ごめんなさい。ビリーには、もう一度しっかりと話をしておきます」
マリーが頭を下げて謝罪すると、俺たちはマリーのせいじゃないと告げて、マリーたちと別れ、洞窟を目指し歩き出した。




