邪神の影響
グレイステラへ渡る為、船以外の手段が無いかプリメラに相談するため、エスティへと向かっていた。
「アスカ、ポーラが意識を取り戻していて良かったね」
「ああ。本当に。ただ……」
「ただ?」
「あんなに強かったポーラをあっさりと追い抜いてしまったなって。ポーラ、ショックをかなり受けていたみたいだし」
俺の旅に最後まで付き合ってくれると言っていたポーラが、自分の弱さのせいでついていけなくなっていると知った時の顔は、本当に悔しそうだった。
「そうだねぇ。でもぉ、あの時、ポーラが無事でぇ、付いてきていたとしてもぉ、たぶん、ポーラは途中で抜けていたと思うよぉ」
「アル、どうして?」
「だってぇ、ミコト、よく考えてよぅ。君達とポーラじゃぁ、成長のし易さがぁ、違うでしょう?」
「そうか。途中で、どうしてもレベルやステータスに差が生まれて、今のポーラのように、自分は足手まといだからって、抜けていたかもしれないのか……」
アルの言いたい事は分かった。それでも、ポーラとは一緒に旅をしてみたかった。俺のこの世界の一番の恩人であることには間違いないから。
「そうかもしれないけど。今度、ポーラのリハビリに付き合ってあげようよ。ポーラが魔術を使えるように、私ももっと凄い回復魔術を覚えたいな」
「そうだな。その為にも、グレイステラに渡らないと」
そんな話をしながらエスティへと向かっていると、遠目に何かが動いているのが見えた。
遠目でも人では無いのだけは分かる。きっとモンスターだろう。この辺りのモンスターなら今の俺たちなら大した事はないはずだ。
「ミコト」
「うん。モンスターだね」
「二人共ぉ、頼んだよぉ」
数は二体か。まだ向こうはこっちに気付いていないが、前にここを通った時は、あんなモンスターは居なかった。全身が青色で、鎧を着ているようだ。ゴブリンの亜種なのかもしれない。
「よし、先ずはこれで様子見だな」
俺は闘気を練り、<気弾>をモンスターに向けて放った。
光弾が真っ直ぐにモンスターに向かって飛んで行き、着弾までの距離が半分を過ぎた所で、モンスターは気が付いたようだ。
今更気付いても手遅れだと思っていたが、考えが甘かった。モンスターが何か動きを見せると、光弾が横一文字の形で半分に別れ、モンスターに届く前に爆発をした。
「嘘だろ!? この辺のモンスターにあんな真似出来るような奴が居たのか!?」
「<ホーリーランス>!」
ミコトが別の一体に放った<ホーリーランス>も剣のような物で弾き飛ばし無傷だ。
ミコトの<ホーリーランス>はともかく、俺の<気弾>でこっちに気付いたモンスターたちは、こっちに走って来るかと思ったが、来る様子がない。
「こっちに気付いてるはずなのに、気にも留めていないのか?」
「アスカ、あのモンスターは何か嫌な感じがするよ」
「ねぇ?」
「何だ? アル」
「僕の感覚が正しければぁ、あれ、邪神の気配を少しだけ感じるよぉ」
「「え?」」
邪神の気配だって? 邪気は感じない。だけど、アルが言うのだから間違いはないのだろう。
「つまり?」
「一筋縄ではいかないってことかなぁ」
「だろうな」
ミコトの疑問にアルと俺が答える。実際、俺たちの先制攻撃はあっさりと防がれた。
ただ、気になるのは全くこっちに攻めてくる気配が無い事だ。邪神の影響を受けているモンスターなら、今のでこっちに突撃してきそうなものだが。
「無視して、迂回すればやり過ごせたりしてな」
「流石にそれは無いんじゃない?」
「アスカぁ、馬鹿なこと言っていないでぇ、早く倒してよぉ」
しょうがない。攻めて来ないならこっちから行くしかないか。どのみち、放っておく訳にもいかないだろう。正直、この辺りの冒険者たちでは、全く歯が立たないと思う。
「行ってくるよ」
「私も援護するね」
「頑張ってぇ」
俺は二体のモンスターに向かって駆け出し、それを合図にミコトが<ライトボール>を放つ。
だが、光球はモンスターに届く事はなかった。<気弾>同様に、モンスターの一体がゆらりと動いたかと思うと、横一文字に真っ二つに切り裂かれてしまった。
「こいつら遠距離からの攻撃に対する迎撃力が高過ぎる。やっぱり近接戦か」
<フラッシュムーブ>で一気に距離を詰め、モンスターの姿をはっきりと見て驚いた。
「こいつら、スライムなのか!?」
青色のゼリー状の体が、人のような形状を取り、一丁前に鎧を着込み、剣を持っている。
一先ず、鎧に被われていない剥き出しのゼリーボディに一撃を入れてみたが、ぷるんと揺れるだけ。
「やっぱり、殴り耐性が高い。でも、このタイガーフィストは殴るだけじゃないぜ!」
タイガーフィストの爪を伸ばしクロー形態に変える。すると、目でも付いているのか? さっきまでは気にも留めていない様子だったスライム? が俺の動きを警戒し始めた。
「警戒しても、俺の動きについてこれていないだろっ!」
爪で斬りつけるとゼリーボディが引き裂かれて飛び散った。やはり、スライムと同じで斬撃は通じるようだ。<アクセルブースト>を使っているお陰でスピードも俺の方が圧倒的に速い。同じ大きさなら攻撃が当たるような事も無い。
「それにしても、中々しぶといな」
さっきから一方的に攻撃はしているのだが、未だに倒れない。<鑑定>を使ってみる。数字では見えなくても、残りのHPの割合は分かる。それを見て驚いた。
「は? 嘘だろ」
このモンスターはスライムソルジャーという名前だった。それは別に驚かない。
だが、俺が驚いたのは、HPバーの方だ。攻撃すれば確かに減っている。減っているけど、その場ですぐに回復しているのだ。
「こいつ、一撃で倒すか、回復力以上のダメージを連続で与えるしかない」
そして、俺が鑑定結果に驚いている間に、もう一体が俺の背後に回り込み、前後で挟まれる形になってしまった。
「しまった! 油断した!」
前方のスライムソルジャーが剣を振り上げ、後方のスライムソルジャーが刺突の構えを取る。俺は二体に背後を取られないように体を、九十度回り左右に迎えるようにした。
右方のスライムソルジャーが剣を突き出すと、左方のスライムソルジャーも剣を振り降ろす。互いに俺との距離は離れていて、剣の間合いではない。
「まさか、アーツか!」
咄嗟に背後に飛び退けば、突きを放ったスライムソルジャーの体が縦に真っ二つに割れ、剣を振り降ろしたスライムソルジャーは、突き出された剣の先から生じた衝撃波が前方のスライムソルジャーの体の真ん中に風穴を開ける。
「同士討ち、馬鹿だな。このチャンスは逃さない!」
真っ二つになったスライムソルジャーは一つに戻ろうとしている。そこに<気弾>に毒を合わせた<毒弾>を挟み込ませた。
風穴の開いたスライムソルジャーは、全く動かない。どうも麻痺しているようだ。動かない間に、もう一体同様に<毒弾>を穴の中に入れる。
スライムソルジャーは毒を吸収してしまい、苦しみ藻搔いている。成程。毒が有効と。
「<ホーリーランス>!」
隙ありとばかりにミコトも、<ホーリーランス>で追撃をする。
「俺もボサッとしていられないな! <双牙>、<瞬迅>!」
右方のスライムソルジャーがその場で、べちゃぁと水溜りのように地面に広がる。倒せたのか?
「たぶん倒したんだよな? もう一体! <虎連牙>!」
残りの一体も<虎連牙>の連撃を当てると、地面に広がった。
「邪神の影響で、光の粒子にならないのか?」
「そうだろうねぇ。というわけで、僕のぉ、出番かなぁ」
アルが口を大きく開き、スライムソルジャーの死体を吸い込み、スライムソルジャーの着ていた鎧と剣だけが残った。
「海のモンスターが活発になったのって、邪神の影響かもね」
「そうかもな。こんなのが出て来たし」
この先、再び遭遇するかと思っていたが、エスティへ向かう道中、スライムソルジャーと遭遇することもなく、無事にエスティへと到着するのだった。




