砂の悪魔の最後
砂の悪魔の変貌は、森の死神の時に似ていた。体から立ち昇る黒い瘴気は、正しく同じだった。尤も、森の死神は倒した後に消滅したので、邪神の手先とは違ったようだが。
砂上に姿を現した砂の悪魔に向かって、駆け出す。それと同時に砂の悪魔も突進してくる。
正面からぶつかる気なのか?
『<ドラゴニックオーラ>が無くなったとはいえ、我が鱗を舐めるな』
「お前こそ、俺の事を舐めているだろう? 正面から向かって来たことを後悔させてやる!」
砂の悪魔の突進を回り込みながら回避する。そして、横腹に右拳を叩き込む。殴った箇所がビクッと反応し、微かだかダメージが徹った事を確認する。
『我がただ突っ込むだけとでも?』
砂の悪魔が念話を使ってすぐにその意味は分かった。
体から出ている黒い瘴気が、砂の悪魔を中心に円状に広がる。その中から黒い槍のようなものが無数に飛び出してきた。
「<空破>!」
俺に向かって降り注ぐ黒い槍を衝撃波で吹き飛ばすが、次から次へと降ってくる槍は、キリがない。
ただ、この攻撃の間は一歩も動けないのか、砂の悪魔は動きを止めている。今が攻撃のチャンスか? 今も降ってくる槍を衝撃波で吹き飛ばしながら考える。
切り札である龍神の加護の効果時間は一分と短い。確実に勝つ為にも発動タイミングはしっかりと見極めないといけない。
ダメージが入ったのだから使えば相当なダメージを与える事は出来ると思うが、ここがゲームと違う所だ。数字で分からないから、確実とは言えない。失敗は自分の命と引き換えなんて事になったら身も蓋もない。
「それにこの槍の雨をどうにかしないと始まらないか……」
砂の悪魔が動かず、槍は円状に広がった瘴気から発生し、他の仲間には槍が行かない。黒い槍は無限とも言えるほど、次々と発生していて、瘴気の範囲内から走り抜ける事は無理そうだ。どうやってここから抜ける?
「このまま倒す?」
それも無理か。龍神の加護を使って三倍の力を引き出せたとしても、光速や音速で動けるわけじゃない。降ってくる槍の対処をしながら、攻撃は出来ても一、二撃。これでは倒すにまでは至らないだろう。やっぱり、瘴気の範囲外に出て、この攻撃を止めた時、攻撃するのがベストだ。
「でも、どうやって出る?」
今もミコトたちは瘴気に包まれ苦しんでいる。早く何とかしないと。
「そうか! こいつに使えないから忘れていた」
この瘴気の範囲外に出るのは簡単だった。ヒデオの下へ<フラッシュムーブ>を使って移動する。
『何!? 範囲外に出ただと。小癪な。だが、動けぬ仲間の下へと行けば、お前はこの攻撃をどうする?』
大量発生していた瘴気の槍が砂の悪魔の正面に集まり、一つの大きな槍へと変わる。
「ふん。こいつはどうなってもいい、と言いたい所だけど、そうはいかないか」
「うぅ……、お前……」
砂の悪魔が巨槍をこっちに向けて飛ばした。俺は、ヒデオを<衝波>で当たらない場所へと吹き飛ばす。
「ぬぁっ。お前、覚えてろよ……」
知るか。命を救ったんだから、これくらい我慢しろ。
心の中で呟き、砂の悪魔の瘴気の円が無くなっているのを視認すると一気に駆け出す。またあの状態になられると面倒だ。
俺の横を瘴気の巨槍が通り過ぎていく。濃度が濃いためか近くを通っただけで、気持ちが悪くなる。
巨槍が通り過ぎ、俺が近づいてくるのを見付けた砂の悪魔は、砂の中へ潜り始めた。体の三分の一が砂に埋まった所で辿り着いた。
「逃がすか! <虎連牙>!」
潜っていく砂の悪魔の体に連打を叩き込んでいく。殴る毎にその威力が上がり、砂の悪魔の竜鱗に罅を入れるが、砂の中へ逃げられてしまった。
「くそっ。効果時間が十秒以上残ってしまった」
『打撃でここまで我を追い詰めるとは。あの方が貴様らの排除を命じたのも納得出来た。これ以上成長する前に、我が貴様を消す!』
砂の悪魔の念話から察するに、かなりのダメージは与えることが出来たようだ。
「<風爪>!」
砂の悪魔が潜り込んだ砂に向けて<風爪>を使い穴を掘るが駄目だ。少し掘れても周りの砂が流れ落ちて、直ぐに穴を塞いでしまう。砂の悪魔の所まで辿り着けそうにない。
「あいつがブレスを使って穴が空いた時を狙うしか無い」
砂の悪魔のブレスは砂を結晶化させるほどの高温だ。そのブレスを紙一重で躱し、且つ、ブレスの吐き終わりに顔が出ているほんの一瞬を狙って攻撃するしかない。かなり無茶だというのは自覚しているが、長引けば、瘴気に捕らわれているミコトたちが殺られる可能性が高い。覚悟を決めたその時、地面が振動しているのを感じた。
「来る! これが最初で最後のチャンスかもしれない」
失敗すれば、砂の悪魔が砂中にずっと潜り、時間を稼ぐかもしれない。ここが、切り札の使いどころだ。
「<双牙>! 行くぞ! 龍神の加護よ!」
俺の体が金色のオーラに包まれるのと同時に、瘴気の混じったブレスが地面から天へと発射された。
「行っけぇえええええ!」
ブレスをギリギリで躱すとその熱で皮膚がチリチリと焼ける。ブレスによって結晶化した砂を駆け下りていく。
ブレスが収縮して終わりを見せた時、砂の悪魔の顔が見えた。
「これで終わりだ! <瞬迅>!」
『何!』
龍神の加護によって全てのステータスが三倍に跳ね上がっている俺の右拳の超速突きの一撃で砂の悪魔が怯む。
「止めだぁ! <瞬迅>!」
もう一発反対の左拳を叩き込む。二発の<瞬迅>は、<双牙>の効果で四発分の攻撃だ。その威力は、<烈波>の威力を超えていた。
砂の悪魔が微動だにしない。
「そう言えば、邪神の手先は死んでも光の粒子にならないんだったな。<鑑定>」
砂の悪魔を調べてみたが、無事倒せたようだ。HPバーが無くなっている。
「アル」
「はぁい」
俺の呼び掛けに<空納>から出て来たアルが、砂の悪魔の死体を吸い込んだ。
「はい。これぇ」
そう言って、アルは俺に鱗を三枚手渡す。
「皆の所に戻ろう」
結晶化された砂を登り、ミコトたちの下へと戻ると、ミコトたちの体を覆っていた瘴気は消えており、ミコトが<ヒール>で回復している所だった。
「あ、アスカ。あのデザートドラゴンは?」
「倒したよ」
「良かった。これで、安心して戻れるね」
ミコトの言葉に頷き、俺はヒデオの顔を見る。すると、俺が何を聞きたいのかが分かったのだろう。俺が質問する前に、ヒデオが口を開いた。
「俺はこれで帰る。お前達とは行動を共にする気は無い。セドニーに砂の悪魔討伐を報せるさ。じゃあな」
そう言うと、<ゲート>を開く。俺は立ち去ろうとしているビデオに声を掛ける。
「ヒデオ、助かった」
「馴れ合う気は無いから、気にするな」
振り向きもせず、出現したゲートの中へと入って行った。
「何よ! あの態度!」
ミサオがヒデオの態度に腹を立てているが、今までのあいつとの関係を考えれば、あんなものだろう。
「気にするな。さぁ、俺たちは俺たちで先へ進もう」
「そうだね」
「分かったよ」
砂の悪魔という脅威も無くなり、その後は何事もなくサウザートを抜け、サウスバレンへと辿り着いた。




