空納
鑑定スキルを覚えた俺は早速あの謎の宝箱に入っていた巻物を手に取ってみる。
「よし、<鑑定>!」
俺の頭に巻物の情報が流れ込んできた。書かれている文字が読めるようになった訳じゃないが、ここに書かれている内容が分かる。
「くう…のう…」
そこに書かれているスキルの名前を読んでみる。この巻物に書かれているスキルは<空納>だ。
「くうのうって何?」
ポーラは俺が口にしたスキル名を尋ねてきた。スミフもどんなスキルなのか気になるようだ。
「ああ、これに書かれているのは<空納>。空間収納のスキルだな」
巻物が光り輝き、青白く燃え上がると、俺はスキル<空納>を会得する。
「……へぇ……」
うん? これはポーラもスミフもよく分かっていない様子。ひょっとして、空間収納ってこの世界には存在しないのか?
「空間収納って知っている?」
「え、もちろん。だってほら……、これ……」
ポーラが自分の持っている道具袋を俺に渡した。俺はその袋を受け取り、中を見ると空っぽだった。いや、正確には中は真っ黒で手を突っ込むと、何かが手に触れる。
「えっと、これは……」
「そう、異空間収納袋よ……」
つまり、<空納>が無くてもこの異空間収納袋があれば、それと同じ事が出来るという事か。読めなかった巻物に書かれていたのはダメスキルという事なのか。読めずに勿体ぶらせておいて……。がっかりしていると、ポーラが俺を慰めるように声を掛けてきた。
「ま、まあいいじゃないの。この袋って誰もが持っている訳じゃないもの。そんなに数が出回っている訳じゃないし。私だって、これは昔ダンジョンで拾ったものよ。購入したら十万ゴル以上するわよ」
そうか。そんな高価な物を俺は買えない。まだ無一文だからな。だったら、良しとしよう。<鑑定>も貰えたし。
「そうだな。俺の<錬装>にモンスターの素材が必要だから、これがあれば素材を蓄えておけるし、きっと便利になるに違いない」
「そうそう。きっとそうよ」
「だが……、<空納>というスキルは……、聞いたこともない……。お前は一体……」
それはこっちが聞きたい。異世界人というだけで、こんなに知らないスキルを取得するものなのだろうか。前にポーラが言っていたこの大陸には俺以外の異世界人も同じようなスキルを持っているのだろうか? それにこの箱を見つけるきっかけになったあの声。あれから聞こえなくなったが、あれも気にならないと言ったら噓になる。とは言え、もう声は聞こえないのだから、調べようもない。それに、これは俺の予感だが、またあの声を聞くことがある気がする。
「ま、とりあえずここに来た目的は達成出来たから、宿に戻りましょうか」
「Ok。スミフさん、ありがとうございました」
「ああ……、また来てくれ……」
宿の部屋に戻り、ベッドに腰かけるとポーラが思い出したように道具袋の中から、ゴブリン達が装備していた武器、防具を取り出す。
「そうそう。<空納>が使えるようになったのなら、これを渡しておくわね。あなたが倒したゴブリン五体とゴブリンコマンダーの分」
俺が気絶している間に回収していたのか。丁度いいから試しに鑑定をしてみよう。まずは、ゴブリン達のこん棒からだ。
『小鬼のこん棒』 一般的な小鬼が使用するこん棒。材料:木。錬装可能。作製武器:ウッドナックル。
「え。まじか!」
「何? 突然、大きな声出して。びっくりするじゃない」
自分の分のゴブリン達の装備品を整理していたポーラが驚く。
「いや、<鑑定>でこん棒を調べたら、<錬装>で出来る武器の名前が出てきたんだよ。武器の性能までは見えないけど。<鑑定>もらって大正解だぞ。これ」
「そうなの? どうやらこっちの世界のスキルをあなたが覚えるとあなたに合った形でアレンジされているのね」
ポーラが感心している横で俺は今自分が持っているアイテムを片っ端から<鑑定>する。
そんなにまだアイテムを持っている訳じゃないが、なんか疲れた。<鑑定>って意外と労力がいるスキルなのか? そして鑑定結果、分かったことは、今、俺の持っているモンスターから入手したアイテムは、全て錬装可能だという事。
あのケイブバットの牙から出来たのは、バットタスクという武器だということも分かった。そして、これは攻撃特性に斬属性が付与されるらしい。あの爪がその役割をしているんだな。
そしてバットタスクを鑑定して分かった事。これには耐久値があるという事だ。ゴブリンとの戦闘中に突然壊れたのは、耐久値が零になったからだな。つまり、錬装出来る素材を蓄えておく必要があるという事だ。
「錬装用の素材を貯めつつ、資金繰りをするための素材を売却する必要があるな……」
俺の独り言にポーラが首を傾げながら立ち上がり、俺に声を掛けてきた。
「さあ、戦利品の整理も終わった。私は今からこれを換金に行ってくるけど、あなたはどうする?」
換金か。確かにまずはお金も必要だよな。ポーラにも返さないといけないし。
「俺も行くよ」
ポーラと一緒に冒険者ギルドへと向かった俺達。中に入ると珍しく、他の冒険者は誰も居なかった。
「あ、ポーラさんにアスカさん。こんにちは!」
受付嬢のパルが俺達に挨拶をしてきた。
「パル、こんにちは。今日は誰もいないのね。静かで良いわ」
「あはは。そうですね。今日はいかがなされましたか?」
「これを換金して欲しいのよ」
ポーラは、パルにゴブリン達から手に入れた爪や牙、防具を渡す。
「これは! ゴブリンの。こんなもの何処で。この辺りにはゴブリンなんて生息していないはずですけど」
ポーラが昨日の事をパルに説明すると、パルは一層驚いていた。
「隠し通路に、突然現れたゴブリン達ですか。大変でしたね……。それにしてもアスカさん、あまり無茶はしないでくださいよ。あなたはまだ新米冒険者、レベルだって低いんですからね」
「ああ、分かっているよ。ありがとう」
パルが、俺とポーラが渡した素材を奥に持っていき査定を始めた。その間、俺は静かなギルド内を歩いては、見て回っていた。今更だが、ここに来てから建物内を全く見ていなかったんだよな……。
「へぇ、これがクエストってやつか……」
クエストボードを見つけて、どんな依頼があるのか物色していると、ポーラが近付いてきた。
「アスカ、あなたクエストを受けるのかしら?」
「うん? そういうつもりじゃないんだけどね。俺、ここに来てから碌にこの中を見ていなかったからさ、どんな物があるのかなって」
そんな話をしていると、パルが奥から戻ってきて、お金の入った袋を二つ持ってきた。
「お待たせしました。こっちがポーラさん、こっちがアスカさんの分です」
「「ありがとう」」
俺とポーラはお金を受け取り、ギルドから出ようとした時、初めてここに来た時、からかってきた荒くれ冒険者の一人がギルドの中に慌てて駆け込んで来たのだった。




