精霊と英霊
風呂に入り、身体も服も綺麗になった俺たちは、謁見の間に居るブラッドを訪ねた。
「ブラッド、帰って来たよ」
「ミサオ、他の者もご苦労だったな。どうやら、一人増えたみたいだな。お前がデイジーの召喚した者か」
「はい。ノゾム・フカミです。宜しくお願いします」
「私がブラッドだ。こちらこそ宜しく頼む。それで、デイジーの召喚者が居るという事は、依頼は完了したのだな」
「うん。デイジー様にはセドニーを殺したら駄目だという事は伝えたよ。それより、ブラッド」
「何だ?」
ミサオはビシッと人差し指をブラッドに指して、叫んだ。
「あんた! 何であたしに加護を授けてくれないのよ! 他の皆は召喚者の加護を授かっているらしいじゃない!」
「そんなに怒鳴らなくても、聞こえる。加護が欲しいのか?」
「当たり前でしょ! デイジー様にも加護を授かれって言われたわ」
「ふむ。どうするかな?」
ブラッドは加護を授けたく無いのか、顎に手を当て考えている。
「そういえば、ブラッド様。ミサオが意識を失って中々起きなかった事があったんですけど……」
「今、なんと言った?」
俺の言葉に、ブラッドは考えるのを止めた。そして、ミサオに質問をする。
「お前何があった? 詳細を説明しろ」
ブラッドの質問に、ミサオは当時の状況を説明し、動かなくなったPDを召喚して見せる。
「成程。お前のその新しいスキルとPDの状況を聞くと、悪霊の魂と、お前の魂が同調してしまったのだろう。そして、お前自身、悪霊の瘴気に耐えられず、意識を失い、抑えつけていた主を失った悪霊が暴走したのだな」
ブラッドは冷静に状況分析をすると、目を閉じ何か考え始めた。
「何で、そこまであたしのこと分かるのよ?」
「過去にお前と同じ人形使いの話を知っているからだ。確かに人形使いという職業は、希少な職業ではあるが、全く居ないわけではない」
ブラッドはその前例を知っていたということだ。そして、それを知っているということは、その対処法も。
「ミサオ、お前に教えた人形の使い方は覚えているな」
「当たり前でしょ? 人形に命を吹き込む為に、霊を人形に封じ込め、主従関係を結ぶ。そして、人形に簡単な命令を魔力を通じて行い、その命令の下に人形が動く、でしょ」
「そうだ。そして、その中でも、最も簡単に言うことを聞かせ、人形を動かす力を手に入れるのは悪霊だ。だが、これは諸刃の剣でもある。お前のように瘴気への耐性が無ければ、今回のような事が起こる可能性を秘めている」
「な!? 何でそんな大事な事、今頃言うのよ!」
「お前が次の段階に成長したからだ。つまり、人形と同調し、よりお前の意思を伝え、人形の力を更に上げる」
つまり、瘴気に対する耐性を得ないと、今後も同じ事が起きるということか。
「なら、瘴気の耐性ってどうするのよ?」
「誰がそんな事をしろと言った?」
「え? だって、あたしに耐性が無いから駄目なんでしょ?」
「そうだ」
「だったら、耐性を付けないと」
「そこがどうしてそうなる?何故、悪霊をまだ使おうとする?」
「え? それって?」
「悪霊じゃない霊を使うということか?」
「アスカの言う通りだ。だが、普通の霊では、力が足りぬ」
「だから、悪霊何でしょう?」
「いや、今のお前なら英霊や精霊とも契約出来るだろう」
「英霊と精霊!」
「精霊っているのか!?」
ミサオだけじゃなくノゾムも驚いている。実際、俺も精霊と聞くと興味はあるけど。
「精霊はいるぞ。英霊も含めて、普通には会う事は出来ないだろうがな。そうだな。どちらも契約するのに、私の加護がある方が良いか。ミサオ、こちらへ」
ブラッドがミサオを手招きするので、ブラッドの前に立つ。ブラッドは、ミサオの頭の上に手を翳すと、ミサオの体が白く一瞬輝いた。直ぐに光は消えてしまったが。
「これで良い。あとは、自分で探せ」
「は? どこに居るのよ?」
「さぁな」
「ちょっと無責任じゃない?」
ミサオの猛抗議にブラッドも仕方ないという表情をすると、
「仕方のない奴だ。では、最初だけだ。後は自分で探せ。付いて来い」
「へへ。そうこなくっちゃね」
ブラッドは城の外に出ると中庭で立ち止まった。
「戦える人形を出せ。始めるぞ」
ミサオは、BDを召喚すると、ブラッドがここまで来いという位置に立つ。
「それから、お前達は手を出すな。契約出来なくなるぞ」
俺たちが首肯いたのを確認するとブラッドが魔力を練り始める。
ブラッドを中心に半径3m程の魔術陣が出現すると、魔術陣から黒い光が立ち昇る。
「来い、テネブラエ」
ブラッドの呼び掛けに応じ、魔術陣から、黒い靄が浮かび上がる。その靄には黄色い光が二つ。精霊の目なのだろう。黒い靄の中にあるからか、異様に目立つ。
「さあ、ミサオ。手懐けてみろ」
「いや、いきなり手懐けてみろって、あんたやり方とかあるでしょう!」
ミサオがブラッドにツッコミを入れている間に、テネブラエがウネウネとその靄を動かし、何かの形になろうとしていた。
「え? 可愛い……」
「何で、あの姿なんだ?」
ブラッドが召喚した精霊テネブラエが象ったのは、兎だった。後ろ足で立った姿は愛くるしいものがある。
「ちょっと、何で兎なのよ! しかも、可愛いし! 攻撃とか出来ないよ!」
ミサオもその姿を見て攻撃するのを躊躇っていたが、テネブラエはそんなことは関係無い。
ピョンと飛び跳ねると、ひとっ飛びで、ミサオとの距離を詰めて、大きな後ろ足で蹴りを放つ。
ガチッという、人間が蹴られた時に鳴るような音では無い音が鳴ったかと思えば、テネブラエの蹴りがミサオに当たる前にBDが防いでいた。
「可愛い見た目のくせに、いきなり蹴ってくるなんて!」
ミサオがBDに攻撃を命令する。さっき、攻撃出来ないと言っていたのは気の所為だろう。
背中の大剣を抜き放ち、横に一閃。あっさりとテネブラエの体が上下に分かれた。
「え? これで終わり?」
ミサオが呆気に取られていると、テネブラエは、元の靄に戻り、再び兎を象ると、BDを飛び越し、ミサオも飛び越えるとくるりと回転し、空中でミサオの後頭部目掛けて、下から足を突出す。
「ひっ!」
ミサオが驚き、しゃがみこんだ事で、蹴りを回避することは出来たが、テネブラエの攻撃はまだ終わっていなかった。地面に着くと同時に後ろ回し蹴りを繰り出す。
「きゃあっ」
テネブラエの蹴りはミサオの背中に直撃。地面に顔を擦り付ける形で、吹き飛ばされる。
「魔術陣から出たら、終わりだぞ」
ブラッドの一言にミサオは慌ててGDを召喚し、ギリギリの所で耐えた。
「説明不足! ブラッド、あんたいつもちょっと一言足らないよ!」
「そうか?」
ミサオの苦情を気にする事なく疑問で返す。その様子を見て、ミサオは、はぁと溜息を吐く。
「もういいわ。それより、これ、どうしようかな?」
斬っても効果の無いテネブラエに対し、ミサオはどうしたものかと悩んでいた。




