アルの不調
デザートドラゴンを倒し、無事に砂漠を越えた俺たちは、ブラッド城の城下町へとやって来た。結局、砂の悪魔と呼ばれるデザートドラゴンはあの後も<感知>に引っ掛かる事は無かった。
セドニーの下へと向かう時にも合わない事を祈ろう。どっちにしても、今回、デザートドラゴンと戦ったのは大きい。砂の悪魔も同じデザートドラゴンなのだから、戦い方はそんなに変わらないはずだ。参考になると思う。そんな事を考えていたら、ブラッド城の入り口へと着いた。
「おや、ミサオ様、お戻りになられたのですか?」
ミサオに気付いた門兵が声を掛けて来た。
「ちょっとね。ブラッドに用があるんだけど、居る?」
「ええ。いらっしゃいますよ。謁見の間に居られると思います」
「分かった。ありがとう」
門兵に会釈をして、俺たちは城の中へと入っていった。
「ねぇ、ブラッドの所に行く前に、お風呂行かない?いい加減、砂が気持ち悪いよ」
「賛成」
ミサオの意見にミコトも同意する。
確かに、この砂まみれの服とか洗いたいし、体も綺麗にしたい。
「俺も良いぜ」
ノゾムも同意すると、直ぐにミサオから指摘を受ける。
「ノゾムは、当然、兵舎の風呂だよ。あたし達は、あたしの部屋にあるお風呂に入るけど」
それは当然の話だろう。男が女性の部屋の風呂に一緒に入る訳にはいかない。うん? ノゾムは?
「いや、当たり前だろ! いくら何でも、俺はそんな変態じゃない。うん? ちょっと待った? アスカは? アスカは、どうするんだ?」
ノゾムの質問も当然だ。俺がミコトたちと一緒に入るわけにはいかない。もう、何回も一緒に入っているけど。ノゾムの手前、そんなことは言えない。
「アスカは、あたしの部屋のお風呂に決まっているじゃない? 兵舎のお風呂だと、他の女性の兵士の裸見ちゃうじゃない!あんた、何言ってんの?」
「それに、アスカが男湯に入るわけにはいかないでしょ?」
「あぁ、確かにそうだな……」
ノゾム、何でそんな憐れみと羨ましそうな目で俺を見る。何なら俺の呪いを代わりに受けるか?
「俺は、ミコトとミサオが入った後に、一人で入るよ。当たり前だろ」
「そんなこと言って、本当は一緒に入るんだろ?」
「入らない!」
「入りません」
「入らん!」
三人揃って否定されて、ノゾムもそこまで否定しなくてもと、少し後退りしていた。ノゾムは兵舎の男湯へ向かい、俺たちはミサオの部屋に向かった。
「じゃあ、あたしたち先に入ってくるから、覗かないでよ」
「だから、覗かないって……」
ミサオに再び釘を刺されてうんざりした返事をする。どれだけ信用が無いんだ?
「あ、服も洗って乾かすから、ちょっと長いかも。服の洗い方は、アスカ知っている?」
「いや、知らない」
俺は、脱衣所にある服の洗浄、乾燥をしてくれる魔術陣の説明をミサオから聞いた。操作は至って簡単。ミサオが実演を始めた。
先ずは、洗浄用の魔術陣が描かれている桶に洗う服を入れる。すると、魔術陣から水が発生し、服が水に浸かる。これは、風呂にある体を綺麗にする魔術陣と同じ効果らしい。汚れを綺麗に落とす。色褪せもしない。
一分くらい経つと、水が消える。その後、隣にある台の上に、濡れた服を置くと、魔術陣が光り、服の乾燥が始まった。
「簡単でしょ。これ、元の世界にも欲しいよ。洗濯が楽になるから」
確かに。桶に服を入れて、たった1分で服が洗われる。乾燥は、少し時間が掛かるらしい。あとは、一度に大量の服が洗えないみたいだ。
「という事で、お風呂入ってくるから、出てった、出てった」
上半身下着姿のミサオが俺の背中を押しながら、脱衣所から追い出す。こいつ、自分が下着姿になっていることに気付いてないのか?恥じらいが全く感じられない。
「さぁ、ミコト入ろ」
「ミサオ、あなた自分が下着姿だったの忘れてたでしょ?」
「え? あぁっ! 何でもっと早く言ってくれなかったの!」
「言うも何も、自分で脱いだじゃない」
話し声が筒抜けなんだよな。まぁ、ミサオの下着姿を見た所で欲情するわけでもないし、寧ろミコトの方が見たかった、じゃない。
くそっ。ミサオのせいで変な事を考えてしまったじゃないか。早く風呂に入って、ブラッドに報告と相談をして、セドニーの所に行かないと。今のサウスバレンとバラトレストは、いや、ブラッドとデイジーはセドニーの足下にも及ばない。セドニーにアルと会わせて、アルの本体に力を返させないと、そして、戦争を終結させるんだ。
そう言えば、最近アルの奴、<空納>の中から全く出て来ないな。強いモンスターとの戦闘中は全くといっていい位出て来ないのは確かだけど、ここまで出て来ないのは珍しい。
「おい、アル、居るのか?」
異空間の中に居るはずのアルに呼び掛けてみるが、返事が無かった。いつもなら、念話を使って返事をしてくるのだけど。もう一度呼び掛けてみる。
「アル? 大丈夫か?」
二回目の呼び掛けにも反応が無い。何かあったのか? もう一度呼び掛けてみようと思った時、アルが念話で話しかけて来た。
『アスカ、大丈夫だよ。ううん。アスカには正直に話した方が良いね。実は、僕の本体の力は、アスカたちのおかげで、順調に回復してきているんだけど、それ以上に邪神が力を取り戻してきているんだ。それで、僕の力も今、殆どを本体に返しているから、正直、キツイんだ……』
アルの本体はこの世界を統べている三女神、三魔王に力を授けている。その内、半分の力は取り戻したはずたが、それでも邪神の方が力が上だと。
「それって、早く他の魔王や女神から力を取り戻さないとヤバいんじゃないのか?」
『そうだね。このままだと、本体が力を取り戻す前に邪神が力を取り戻して、世界が滅ぼされてしまうかも』
それは不味い。俺に呪いを掛けた邪神をボコボコにしてやらないと気が済まないが、返り討ちにあってしまう。
いや、それよりも……
「アル、お前、いつもの間延びした口調はどうした?」
『ハハ……。力が出なくて、一気に話さないと、喋れなく……、なりそうだから……』
既に、話すのがキツイのか、言葉が途切れ途切れになって来ている。
「分かった。もう喋るな。ゆっくり休んでいろ。セドニーの所に着いたら、教えるから」
『うん。そうさせて……もらうよ……』
どうやら、アルは眠ったようだ。アルとの会話が終わるとほぼ同時に、俺はミサオに呼ばれた。
「アスカ、入って来て良いよ」
脱衣所に入ると、ミコトが話しかけて来た。
「アスカ、今誰かと話してたの?」
「ああ、アルとちょっとね」
「そういえば、最近アル、出て来ないね」
「何か、疲れているらしい。セドニーの所に行くまで、ゆっくり休んでいるよ」
「疲れてるって? あれ、何もしてないじゃない?」
「何もしてないって、あいつはああ見えて、本体に力を取り戻す為に頑張っているんだよ」
「そう?」
「ああ。そうだよ」
「ま、いっか。それより、アスカも早く入りな」
「そうさせてもらうよ」
俺が服を脱ぎ始めると、二人は脱衣所から出て行った。服を洗浄の魔術陣に入れ、綺麗にしたあと、乾燥の魔術陣に移し、風呂に入る。
「さて、これからは急がないとな。まずはとっとと、セドニーとアルを会わせて、本体の力を取り戻させる」
風呂にある体を洗浄する魔術陣の光が消えた。洗浄が終わったようだ。
「よし、綺麗になったし、早く上がって、ブラッドの所に行こう」
俺は直ぐに風呂から出て、服を着ようと思ったが、そこで気が付いた。
「あ、まだ服が乾いていなかった……」
乾燥の魔術陣には光がまだ残っていた。つまり、着る服が無いのだ。
「仕方ない。もう一度風呂に浸かるか」
アルの為、自分自身の為にも、早く先へ進まないといけないな。三人には心配させないようにしないといけないけど、黙っておくわけにもいかないか。後で説明するしかないな。




