眠ったままのミサオ
森の死神との戦いに勝利した俺たちはトナペレ村へと向かった。気を失ったままのミサオは、ノゾムが背負って連れて行った。
「ミサオ、いい加減に目を覚ませよな。俺だって死にかけたんだぞ」
「そう言うなよ。この中で一番力が強いのはお前なんだからさ」
「そりゃそうだけどよ。距離があるじゃねぇか……」
それにしてもミサオの様子がおかしい。黒いオーラに体が包まれたまま、気を失っている。
黒いオーラは背負っているノゾムには、伝播しないことから、ミサオのスキルの副作用と考えるのが妥当なのだろうけど、それにしても長過ぎる。
「ミコト、これ<リカバー>でどうにかならないのか?」
「もう試したけど駄目だったわ」
状態異常という訳では無いのか?
ノゾムには悪いけど着くまでおんぶだな。
実際、ミサオはトナペレ村に着いても目覚めなかった。一先ず、ノゾムの異空間収納袋を作ってもらうために、族長の家を訪ねる。
家に向かう途中、背負われているミサオを心配してくれているのか、すれ違う村人たちからジロジロと見られていた。
「族長さん、いらっしゃいますか?」
「おや、これは、これは。皆さん、思ったよりも早かったですね?」
家から出て来た族長が、俺たちの姿を見て、ギョッとする。
「? どうしました?」
「いえ、いえ、どうしましたじゃないですよ……。あなた、胸が……」
「胸?」
あっ。森の死神と戦った時に服が破れていたのを忘れていた。すれ違う村人が俺たちを見ていたのは、俺が胸丸出しだったからか。
「すみません。お見苦しいものを」
「いえ、いえ。中々のものをお持ちで……。それより、そちらの方は、どうなされたのですか?」
族長は、チラチラと俺の胸を見ながら、ノゾムに背負われているミサオを見る。
「森の死神と戦った時に、気を失ってから、起きないんです」
「森の死神と戦った!?」
族長が突然、大きな声を上げる。
「あれとは戦わないように、注意しましたが、なんと、なんと。よくぞ、ご無事で」
「すみません。逃げるのも無理そうだったので、戦ってしまいました」
ふむ、と族長は頷き、ミサオの様子を伺っていると、これは不味いと呟いた。
「何か分かったんですか?」
「そうですね。これは、これは非常に不味いです。怨念に囚われているようです」
「怨念?」
「はい。何か心当たりが?」
「ミコト、ノゾム。分かるか? PDの暴走が関係しているのか?」
「そうだね。関係しているのかもしれないかな。PDが喋っていたし」
「そうだな。PDが何かのスキルを使わせた後、こうなったし」
「怨念を祓うことが出来れば、意識を取り戻すかな」
「そうでしょうね。ただ、ただ、それ以前に、早く祓わなければ、彼女の命に関わるかも」
怨念を祓うとなると、どうすればいいのだろうか。
「この村では怨念を祓うような事が出来る者は居ません。ここは、早急にフォレストパレスにお戻りになるのが良いかと思いますが……」
「分かりました。ノゾム、材料を預けてフォレストパレスに向かおう」
「そうだな。そうしようか」
俺は神聖樹の樹液を取り出すと族長に渡す。
「ふむ、ふむ。確かに。預かりました。ですが、すぐに出来ますよ」
族長は、家の中から皮を持って来ると、樹液に漬け込んだ。
「これって、なめし革にするのにニヶ月は掛かるんじゃ?」
「えぇ、えぇ。一般的にはそうでしょうが、それは、これで」
パンッと両手を合わせ、族長の姿が消える。
「え?」
俺たちが突然の事に驚いていると、直ぐに族長が姿を現した。
「どうぞ」
族長は出来上がった革袋をノゾムへと渡す。
「これは……」
「えぇ、えぇ。異空間収納袋ですよ」
何でも、普通に作ればニヶ月は掛かるが、族長の試練の時に連れて行かれたあの異空間は、こっちと流れる時間の早さが違うらしく、向こうで準備を済ませて、加工までしてくれたらしい。そんな裏技があるとは。
ただ、普段はこんな裏技は使わないそうだ。魔力をかなり使うらしく、今回は特別だと言ってくれた。
「ありがとうございます」
ノゾムは早速、背中に背負っていた使わなくなった大鎌を収納してみる。スッと吸い込まれて袋の中へと消えた。
「おぉ、良いな。色々な武器をこれで収納しておけば、オールフォームズで変形出来ない武器を使う事も出来るぜ」
他の武器を使う気は無さそうだけど、大鎌を使うのに適さない時とかは変えるのかな?
「良し。それじゃあフォレストパレスへ戻ろう」
「おや、おや、何処へ向かうのですかな?」
「え? フォレストパレスですよ」
「いえ、いえ、それは分かっています。もしや、歩いて戻ろうとお考えですか?」
「はい。それ以外に何かあるのですか?」
もしかして、この世界にも乗り物があるのかと期待したが、
「いえ、いえ、あちらを使えば一瞬ではないですか」
族長が指差したのは、あの祭壇だった。
「あ、そういえば、サウザート兵をあれを使ってフォレストパレスに転送したのか!」
「あら、そういえば、そうでしたね」
「そうですよ。無駄に時間を掛けては、意味がないです。えぇ、えぇ、本当に」
族長に頭を下げて、俺たちは祭壇へと向かい、フォレストパレスへと転移させてもらった。
「トナペレ族、凄いよな」
「本当ね」
「取り敢えず、デイジーちゃんの所に行こうぜ。ミサオの怨念を祓う事が出来る人を紹介してもらおう」
ノゾムの意見に賛成し、俺たちはデイジーの分身のいる宮殿を訪ねた。
「デイジーちゃん!」
「おや、ノゾム。どうしたのかしら?」
分体デイジーが、突然訪れてきた俺たちに驚き、何の用かと尋ねる。
「ミサオを助けてくれ」
突然のノゾムの話に頭に?マークが立った分体デイジーにミコトが説明を付け足す。
「ミサオが怨念に取り込まれて、意識を失ってから目を覚まさないんです。怨念を祓うことが出来る方を知りませんか?」
「怨念?」
分体デイジーはノゾムが背負っているミサオの様子を見て、ミコトを見る。
「紹介も何も、聖女であるあなたなら、祓えるでしょう?」
「<リカバー>を試しましたが、駄目でした」
「何を言っているの? <リカバー>は状態異常を癒やす魔術なのだから当たり前でしょう。貴方は<ピュリファイ>は使えないの?確か、聖女固有の魔術だったと思うのだけど」
「使えます。え、あれって幽霊系の魔物を浄化する魔術じゃないのですか?」
「悪霊を浄化するのと変わらないわ。やってみなさい」
分体デイジーに言われ、ミコトはミサオに<ピュリファイ>を使ってみる。
「あいたたたたた! ちょっと! 何するのよ! ミコト!」
<ピュリファイ>がミサオを覆っていた怨念のオーラを浄化し、ミサオが意識を漸く取り戻したのだった。




