神聖樹
二体のエンペラータイガーから逃れ、俺たちは神聖樹の下へと漸く辿り着いた。
「これが神聖樹……」
「大っきいねぇ」
「天辺が見えねぇや」
「何かの力に守られてるみたい」
やはり、ここは試練の時にあった大樹で間違いないようだ。異空間に転移したのではなく、このバラトレストの何処かに転移させられたということかな。
皆が転移したという場所も、何処かにあるのかもしれない。
そして、俺以外のメンバーはここに来たのは初めてになるから、この神聖な雰囲気に感動しているようだ。
「アスカ、どうなの?ここで試練を受けたの?」
「そうだな。間違い無いよ」
「何で断定出来るんだ?」
ノゾムの問いに俺は指を指す。
「何があるの?」
「あ、あそこの枝」
俺の指した先には枝の根元からぽっきりと折れた枝があった。
「あの枝、俺が試練の時に折ってしまった奴だ」
そうすると、ここにはイミテートパロットが生息している可能性がある。あれが出て来たら面倒だ。早く樹液を採取して、トナペレ族の村に戻った方が良い。
「よし、ここら辺で雑談は止めて、樹液の採取をしよう」
「そうだな。まずは穴を空けないとな」
ノゾムが樹液採取用に持ってきた短剣を神聖樹に突き刺した。
「硬っ、嘘だろ。刃が欠けたぞ」
「えっ! 嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ。ほら、見てくれ」
ノゾムは刃の欠けた短剣を俺たちに見せてくれた。見事に切っ先が欠けていた。
「アスカ、お前よくこんな硬い木の枝を折れたな」
「あれは折ったというより、爆砕した感じだったからな」
しかも、<気弾>で二発分。防御無視ダメージのアーツで砕けた。
「爆砕って……」
「折れた先からは樹液なんて採取出来ないよ。焼け焦げているからな」
それにしても参ったな。樹液を取るための穴を掘る必要があるが、肝心の穴が俺たちの中でも最も力が強いノゾムでも穴を空けられないとなると、樹液の採取なんて無理だ。
「参ったね。ノゾムが無理となると、私達じゃ到底無理だよ。魔術だと、樹液出ないかもしれないし」
「そうだな。俺の<気弾>も焼き焦がしてしまったし」
「ねぇ? 族長たちが空けた穴を探せば良いんじゃないの?」
「「「それだ(よ)」」」
ミサオが珍しく的を得た意見を言って驚いたが、俺たちの珍しいという視線に、何だか腹を立てているようだった。
「と、とにかく皆で探そう」
俺たちは神聖樹の周りを一周し、トナペレ族が樹液を採取するために空けた穴を探し始めた。
それにしても本当に大きい木だ。一周しただけでもその大きさを改めて思い知らされる。
そして、三百メートル程の周囲をぐるりと虱潰しに探してみたが、穴は見つからなかった。
「無いな」
「参ったな」
「いつもどうやって採取しているんだろうね?」
「象だから、力強いし、穴くらい簡単に空けられるんじゃないの?」
「そうだとしても、何処かに穴の跡が有ってもいいだろ?」
ノゾムの言うことも尤もだけど、実際に穴が無いのだからどうしようもない。諦めかけていた時、上の方からアルの呼ぶ声が聞こえてきた。
「おぉおいぃ。アスカぁ! ここに穴があるよぉ!」
上を見上げると、折れた枝の側の枝にアルが飛んでいる。<フラッシュムーブ>を使ってアルのいる枝に移動し、アルの指す幹を見ると、確かに穴が空いていた。しかも、じんわりと樹液が滲み出して来ている。
「アル、ナイスっ!」
アルの頭を撫でて、滲み出している樹液を族長から採取用に渡されていた瓶に取る。
「それにしても何でこんな所に穴があるんだろう?」
態々この大樹を登って穴を空ける必要はない。何より、この神聖樹、木登りするには中々厳しい。
一番下に位置する枝ですら、地上から三十メートル位の高さにある。この枝は更に上にあり、地上から四十メートル位はある。
いくらトナペレ族が大きな体格の種族とはいえ、こんな所にまで登る意味がない。それに、この穴だが、樹液採取用にしては、小さすぎる。少量しか樹液が滲み出ていないので、貰った瓶一杯にするにはかなり時間が掛かりそうだ。人工的に作った採取用の穴とは到底思えない程に小さい。
これは、嫌な予感しかしない。よくこの穴を見てみれば、鳥の嘴程の大きさだ。この神聖樹で鳥というと、イミテートパロットしか思い当たらない。あれは試練の時にしか現れないと思いたい所だけど。
「アスカ、上!」
ミコトの呼び声を受け、樹液を採取しながら、上を見ると、翼を広げたイミテートパロットが降下してきていた。
「やっぱり居たか……」
また変身されたら面倒だ。それならやるべき事は一つ。
「アル、樹液採取を頼むぞ」
「分かったぁ」
採取中の瓶をアルに託し、右拳に<双牙>を発動するのと同時に、イミテートパロットに向かって飛び上がる。まだ変身する素振りは無い。やるなら今がチャンスだ。イミテートパロットが拳の届く範囲に入った瞬間に、<瞬迅>を放つ。
「ピィイイイイ」
イミテートパロットを二重の衝撃が襲い、悲鳴を上げるとそのまま光の粒子と化して消えてしまった。
「鳥のままだとこんなに弱いのかよ」
<双牙>を使っていたとはいえ、一撃で倒せるとは思っていなかったため、拍子抜けしたのと、試練がもっと楽に出来たのかと思うとやるせない気持ちになってしまった。
「まぁ、、クリアしたんだから良しとするか。それよりも、他に居ないか確認しないといけないな」
また邪魔が入っても面倒だ。<探知>を使って調べてみると、かなり上の方に、イミテートパロットがまだ十体居るようだが、こっちに来る気配は無さそうだ。他には神聖樹の周りには居ないようだ。さっきのイミテートパロットだけが、こっちに来たようだ。
「アスカぁ、一杯になったよぉ」
丁度、樹液が必要分採取出来たようで、アルが瓶を俺に見せる。
「溜まったな。よし、戻ろうか」
アルと瓶を<空納>に納め、<フラッシュムーブ>を使って皆の下へと戻る。
「よっと。採取終わったよ」
「悪いな。アスカ」
「さっきの鳥は?」
「あれがイミテートパロットだよ」
「なんか速攻で倒してなかった?」
「そうだな」
「あれなら、試練が楽だったんじゃないの? アスカ、ズルいよ」
「いやいや、あれが変身前だったから、簡単に倒せたんだよ。変身されたら面倒この上ないぞ」
「ふぅん」
ミサオは納得いかないといった感じを受けたが、上に居るイミテートパロットが変身して降りてきても面倒なので、ここからさっさと立ち去った方が良いだろう。
「まだ上に居るから、さっさと戻ろう。あのエンペラータイガーには気を付けないといけないけどな」
「分かった」
「はい」
「オーケー」
俺たちは神聖樹を最後にもう一度見上げ、その神聖な空気を味わった後、トナペレ族の村に向かって、エンペラータイガーが居るであろう来た道を戻って行った。




