エンペラータイガーとの戦闘
エンペラータイガーと正面から睨み合っているが、ノゾムが動く素振りを見せれば、ピクリと反応し、サウザート兵を叩き殺した尻尾が、ノゾムの方へとその先を向ける。
「ちっ、後ろに目でも付いてるのかよ」
「気を付けろよ。たぶん、一発でこっちはアウトだ」
「分かっているさ!」
ノゾムは、エンペラータイガーの尻尾目掛けて<ソニックエッジ>を放つ。デイジーに無駄にアーツを使うなと言われただろうに……。
エンペラータイガーはノゾムの放った斬撃に対し、尻尾を縦に一振り。そして、パァン!と乾いた音が響く。
「へ?」
ノゾムが呆けた顔で立っている。しょうがないだろう。尻尾を振った衝撃波で<ソニックエッジ>を相殺された。しかも、一切ノゾムの方は見ずに。それは、エンペラータイガーが話せたなら、お前は相手にもならないと言っているようだった。
その証拠に、エンペラータイガーはずっと俺を警戒するようにじっと睨んで来ている。
俺とエンペラータイガーは、動かなかった。エンペラータイガーは、どうか分からないが、俺は動けない。全く隙が見つからない。向こうはこっちの攻撃を耐えられるのに対し、こっちは一撃貰えば命取りになる。そうそう手を出せない。
ノゾムがその隙を作ろうと動こうとすれば、尻尾で牽制される。さっきの尻尾一振りとサウザート兵を叩き殺した一振りが頭から離れないため、こちらも迂闊に手を出せない。そんな膠着状態を破るように、突然エンペラータイガーが高く飛び上がった。その後を白光の矢が通り過ぎる。SDの魔力矢だ。
エンペラータイガーが魔力矢の飛んできた方向を向く。そして、右前足の爪を立て、そのまま矢の飛んできた方向へと振るえば、前方の木々が切断されながら、SDへと迫っていく。
「何よ! これ!」
ミサオの叫ぶ声が聞こえたが、その後すぐ、エンペラータイガーに向けて、白光の矢が再び放たれた所を見ると、無事なようだ。エンペラータイガーは、今度はその矢に向けて<ウィンドアロー>を放ち、相殺する。
「隙ありぃっ!」
「行けぇ!」
ノゾムが再び<ソニックエッジ>を放ち、俺も<気弾>を放つ。左右から迫る攻撃を空中にいるにも関わらず、クルリと身を返し躱した。そして、着地すると俺の方へと突進してくる。速い。すぐに<アクセルブースト>を使い、後方へと飛び、距離を取ると、ミサオ達に使った飛翔する爪撃を放ってきた。
「喰らってたまるか!」
俺は、横へと飛び退き、その一撃をやり過ごす。飛翔する爪撃は、木々を切断し、バタバタと木々が倒れていく。
「こいつ、俺が顔面を殴り付けたことを根に持っているのか?」
ノゾムは完全無視して、俺に攻撃をしてくるエンペラータイガーの顔を見れば、怒っているようにも見える。火力的には、どう考えてもノゾムやSDの方が高いにも関わらず、俺を執拗に狙って来るということは、きっとそうなのだろう。
「俺は徹底的に無視か……。いいぜ。だったら、無視した事を後悔させてやるよ!」
ノゾムが魔力を溜め始めた。オールフォームズの刃が黒く染め上がる。
「アスカ! そいつの動きを一瞬で良い! 止めてくれ!」
「ったく、無茶言ってくれるな」
一瞬止める位なら、右拳に<雷迅>を使い、<フラッシュムーブ>で、エンペラータイガーの側面に移動する。
「痺れろ! <瞬迅>!」
雷を纏った超高速ストレートを横腹に叩き込むつもりだったが、俺の動きを読んでいたのだろう。横に飛び退かれ拳は届かなかった。
「悪い。躱されたっ」
「いや、十分だ。喰らいやがれ!<ソウルブレイク>ぅ!」
大鎌を振り抜くとエンペラータイガーの体を黒い斬撃が襲う。
「ガァアアア!」
魂を直接斬られ、絶叫を上げるエンペラータイガーだったが、ノゾムの最高火力の一撃を受けても倒れなかった。
「はぁ、はぁ、嘘だろ。あのでっけえ鰐でも一撃で倒したアーツだぞ。俺の最大火力なのに。大体、魂ぶった斬られて生きているって、何なんだよ、こいつ……」
今の一撃で魔力を殆ど使ってしまったノゾムは魔力回復薬を道具袋から取り出し、
「グルァアアアアアッ!」
エンペラータイガーの雄叫びで魔力回復薬の入った瓶が砕けてしまった。
「痛っ、は、この野郎。俺を無視するのを止めたと思えば、回復の邪魔を」
エンペラータイガーはノゾムに向かって突進していく。そして、大きな牙の生えた口を大きく開けると、ノゾムの首に噛み付こうとする。ノゾムはしゃがみ込んで躱すと、お返しにと下から大鎌を振るう。ガチィッ、まるで金属通しがぶつかり合ったような音を立てると、爪が大鎌の刃を止めていた。
「しまっ……」
エンペラータイガーが大鎌を受け止めた前足を力まかせに振り抜けば、ノゾムの体が簡単に吹き飛んでいった。
「ぐぅうう……」
吹き飛ばされただけでかなりのダメージを受けたのだろう、ノゾムはうめき声を上げて、倒れたままだ。
「ガァアアア」
その倒れて動かないノゾムに向けて、エンペラータイガーは飛翔する爪撃を繰り出そうと、腕を振り上げる。
「させない! <ホーリーバリア>」
ノゾムの周りに青い障壁が張られ、エンペラータイガーの放った爪撃は、防がれたが、その一撃で障壁に罅が入った。
「ミコトの<ホーリーバリア>に一撃で罅を入れた!?」
エンペラータイガーに向かって駆け出していた俺に今度はその一撃を放つ。
「当たってたまるか」
爪撃を躱し、間合いを詰め、雷を纏った右拳を今度こそ叩きつけた。エンペラータイガーは、反撃にと剛腕でねこパンチを叩きつけてくる。俺が後ろへ飛び退くと、ねこパンチは空を切り地面に当たれば、そこに小さなクレーターが出来た。
「ただのねこパンチでこれかよ……」
飛翔する爪撃を警戒してミサオもSDの攻撃を控えている。ノゾムもダウンしたまま。サウザート兵は、役に立たない。邪魔なだけ。何故、逃げていない……。
<鑑定>を使ってエンペラータイガーを調べてみれば、まだ体力は半分くらい残っている。
「毎回思うけど、ゲームみたいに数字で分かると良いんだけどな」
それにしてもノゾムの最大火力の攻撃を当てても、半分か……。あの一撃は、MP大量に使うから、回復薬が無ければ一発しか使えないと言っていた。もう一発当ててもらうには、ノゾムの回復が必要だ。怪我もMPも。
怪我は、罅は入っているとはいえ、<ホーリーバリア>で回復するとして、MPは回復薬を飲む隙を作るしかない。今はターゲットが俺に向いているから、このまま何とか時間を稼げるか?
ゆっくりと俺との距離を詰めてくるエンペラータイガーが、足を止め辺りをキョロキョロと見始める。その様子はこれまでの凶悪なモンスターではなく、ただの怯える猫に見える。何だろうと不思議に思いながらも、今が好機とばかりに、一歩を踏み出そうとした時、背筋が凍る程の殺気を感じた。
「な、何だ? ひょっとして、これをエンペラータイガーは感じ取っていたのか?」
これは、不味い。あのデザートドラゴンの時と同じ位、ヤバい感じがする。殺気のする方を見てみると、今戦っているエンペラータイガーよりも体の小さいエンペラータイガーが座って、こっちを見ていた。




