試しの宮殿(アスカ)2
アスカが試練を開始して、どれくらいの時間が経っただろうか。
攻めあぐねたまま、ずっとアスカ達の偽物に攻め続けられ、気を緩める事も出来ず、アスカは心身共に疲弊していた。
それでも力を振り絞り、アスカ(偽)とノゾム(偽)の連携を回避し続けていた。それもそろそろ限界に来ていた。
「はぁ、はぁっ……」
疲れにより肩で息をするアスカに対し、モンスターであるからか、攻め続けているにも関わらず、全く息を切らしていない偽物四体をジト目で見ながら、愚痴を吐く。
「はぁっ、はぁっ、くそっ。モンスターでも少しは疲れろよ。スタミナ高過ぎだろ。アーツや魔術も景気よく使いやがって……。ん?」
愚痴を口に出した事で気が付いた。何故、あの偽物たちは、アーツや魔術を湯水の如く使えるんだ?
仮に所持MPが本物より高いにしても、余りにも使用頻度が高い。まるで無限にあるようだ。
そして、そんな疑問を抱いていると、偽物たちの背後にある巨木が目についた。戦いの最中でもその存在感は大きく、必ず視界に入ってくる。
だが、今は偽物に目を向けず、巨木に目を向ける。何か違和感がある事に気が付いた。それはあの偽物たちが、まだ鳥の姿をしていた時に降りて来た枝。
その枝が白く輝いている。暫く様子を見ていれば、その輝きが止まる。そして、偽物たちが再び動き出す。どう考えても何かある……。
「確認する必要があるな」
偽物たちの猛攻を凌ぎ続け、その間も枝を視界の端に捉えておく。そろそろMPが尽きる頃合いかと思えば、偽物たちが俺から距離を取った。そして、枝が輝き出し、光が消えると偽物たちが動き出す。
「やっぱり、どう考えてもあれだな」
そして、俺が枝の方へと顔を向けると、偽物たちが一瞬警戒の色を濃くする。俺は闘気を溜めると、枝に向けて<気弾>を放った。
「!」
ノゾム(偽)が慌てて<ソニックエッジ>を<気弾>に向けて放つ。見えない斬撃は、<気弾>を斬る事が出来ずに空を切る。
真っ直ぐ枝へと向かう<気弾>。
枝に当たる直前、アスカ(偽)が枝と<気弾>の前に突然現れ、枝への直撃を防がれてしまった。
だが、俺の放った一撃に、偽物たちの意識は完全に向いていた。間違いない。あの枝は偽物たちにとって、ダメージを受けようとも守らなければならないほど、重要なものらしい。
ミコト(偽)がアスカ(偽)に<ヒール>を掛けている。ノゾム(偽)が、枝を攻撃する隙を与えないとでも言うように、<ソニックエッジ>を連続で放ちながら間合いを詰めてくる。
俺はその攻撃を最小限の動きで躱しつつ、再び闘気を練っていく。
ノゾム(偽)が大鎌の間合いまで近付くと、縦、横、斜めに連撃を繰り出し、それに合わせるようにアスカ(偽)が<フラッシュムーブ>で背後へと回り込んできた。
「これを待っていた!」
ノゾム(偽)の大鎌が下から斬り上げ、アスカ(偽)の拳が真っ直ぐ突き出されて来た瞬間、俺の姿が二体の間から消える。
「ここだぁっ!」
さっきアスカ(偽)が枝の前に突然現れたという事は、枝を対象に<フラッシュムーブ>を使ったということだ。偽物が出来たのなら、俺にも出来るはずとやってみれば、予想通り。枝の上に一瞬で移動する。
そして、右拳を枝に叩きつけた。
ゴゥンっと鈍い音が部屋に響くと、さしもの偽物たちも焦りの表情を隠せなかった。
だが、巨木の枝には傷一つ付いていない。もとより、今の一撃で枝を折れるなんて俺も思っていない。だから、ここで溜めていた闘気を放つ。
「<気弾>!」
零距離で放った<気弾>が爆発をすると、枝に罅が少し入る。
これ以上させまいとアスカ(偽)が枝の上に現れ、拳を振るう。枝はかなりの高さがあるおかげで、ノゾム(偽)はやって来れないようだ。
ここなら自分の偽物と一騎打ちが出来る。拳を迎え撃とうと対峙した時、横から闇の矢と水の矢が俺を襲う。
「くそっ。まだタイマンには持ち込めないか」
<フラッシュムーブ>でミコト(偽)の背後に移動することで、二つの矢をやり過ごし、そのままミコト(偽)に拳を振るうが、ノゾム(偽)がそれを邪魔する。後ろに飛び退き、一度距離を取った。
「枝を攻撃したことで、俺にも攻撃するきっかけが出来たけど、四対一はやっぱり厳しいな。何かもう一つ、きっかけが欲しい。何か……」
アスカ(偽)が元の鳥の姿に戻り、枝から降りてくる。地上に戻ると再びアスカの姿に変身する。暫く互いに睨み合い、攻撃のタイミングを計っていると、突然アスカに力が漲ってきた。
「何だ? 一体? 体に力が漲る? 体が軽い」
アスカは不思議に思いながらも、チャンスとばかりに前へ出た。ノゾム(偽)がそれに合わせて前へ出る。さっきよりノゾム(偽)の動きが遅く感じる。
何かが起きた。それは間違いない。それが何かは分からなかったが、アスカ(偽)が攻撃に来た時、それが何か理解した。
「レベルが上がったのか!」
何故このタイミングでレベルが上がったのかは分からないが、実際上がっているのだから、理由なんてどうでもいい。
その結果、この部屋に入って来た時の状態を模倣した偽物と力の差が出来た。ステータスとしては、いきなり強くなったりはしない。それでも、レベルが上がるのと上がらないのでは違う。
この状況でレベルが上がったのは、アスカが攻撃するのに良いきっかけとなった。
「いっけぇええええ」
向かってくるアスカ(偽)とノゾム(偽)を無視して、再び枝へと移動する。
アスカ(偽)は、俺の動きをを読んでいたのか、俺が移動するのと同時に目の前に現れた。
「遅い!」
レベルが上がった事で出来たAgiの差。たとえ、僅かでもこの差が大きな結果を生み出す。
零距離で罅の入った枝に<気弾>を当て、その爆発でアスカ(偽)が吹き飛ぶと、枝の罅が広がり、亀裂となった。アスカ(偽)が枝の上に倒れた衝撃が止めとなり、遂に枝は折れた。
「これで回復出来ないだろう。ここからだ!」
枝が折れた事で地面へと落下していた俺はミコト(偽)の目の前に移動する。そして、<衝波>を右拳に使い、拳を構える。ノゾム(偽)がそれを邪魔すべく突っ込んで来たのを、視界に捉えた瞬間、くるりと向きを変え、ミサオ(偽)の前に飛び込み、顔面に<衝波>を叩き込んだ。
「まず一体!」
<衝波>を受けたミサオ(偽)が光の粒子となって消える。そこにアスカ(偽)が炎を纏った拳で攻撃してくるが、
「一手遅い」
<練気>でOPを回復させ、再び右拳に<衝波>を纏った俺は、自身の偽物に左拳を突き出す。
俺の突き出した左拳は、クロスカウンターとなってアスカ(偽)の顔面を、強打した。
ノゾム(偽)もアスカ(偽)に合わせるように動いていたのを見逃さなかった俺は、ミコト<偽>の背後に回り、右拳を背中へと突き出した。
「二体目!」
<衝波>をまともに受けたミコト(偽)も光の粒子と化し、アスカ(偽)とノゾム(偽)の動きが止まる。
MPを回復する巨木の枝を折られ、傷を癒やすミコト(偽)もやられ、慎重になったようだ。
その隙に再び使った分のOPを<練気>で回復させるが、これで俺のMPも尽きた。<衝波>はあと一発。残りは二体。普通に考えて、この一発は通常攻撃が通用しないノゾム(偽)に使うべきだ。狙いをノゾム(偽)と悟られないように自分の偽物へと駆け出す。
最悪、この一撃が自分の偽物に当たったとしても、残り一体となればどうにかなるだろう。
アスカ(偽)は自分が狙われたと思ってくれたようで、右拳を後方へ引き、迎え撃とうと構えを取る。アスカ(偽)の目の前に辿り着いたと同時に、ノゾム(偽)の目の前に<フラッシュムーブ>で移動すると、アスカ(偽)の高速突きは空を切った。
ノゾム(偽)は自分の目の前に現れた俺の行動を予測していたのか、慌てる事なく大鎌を斜めに振るってきた。
しゃがみ込み大鎌を躱すと刃が頭上を通過したと同時に下から伸び上がり、アッパーの形で、<衝波>を顎に叩き込み、ノゾム(偽)も光の粒子と化す。
「これで、後はお前だけだ」
背後から攻撃を仕掛けてきていた自分の偽物に言い放ち、前転してアスカ(偽)の右フックを躱す。
<衝波>はもう使えない。とは言え、相手が俺なら普通に殴り合ってもダメージは十分与えられる筈。それは向こうも同じ事を考えているのだろう。
HPがモンスター譲りという事もあって、一対一であれば断然俺の方が有利。レベルも上がっているお陰で、全てが俺の方が上。勝って当然の戦いの筈だが、もし、<衝波>や<気弾>を使えるのだとしたら、油断は出来ない。
自分が一番自分の事を分かっている。ジャイアントキリング向けのアーツ。防御無視の攻撃は喰らえば堪ったもんじゃない。既に、自分の偽物は右拳に炎、左拳に雷を纏わせ、攻撃の態勢に入っている。
「行くぞ。さっさと終わらせる」
アスカ(偽)が左拳で<疾風>を放ち、俺は偽物の脇腹を狙って、右拳を叩き込む。高速突きは顔を反らし、ギリギリで躱す。頬が雷でピリピリと痺れる。カウンターに放ったボディブローは、膝で防がれた。
だが、片足を上げたガードは、衝撃を逃がす事が出来ずに、バランスを崩し、アスカ(偽)は横に吹き飛ぶ。
「<気弾>!」
宙に浮いて防御出来ないと判断した偽物も<気弾>を放つ。やっぱり<気弾>は使えたか。
互いの放った光弾はぶつかり二人の間で爆発する。宙に浮いていた偽物は、爆発の勢いで更に吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がる偽物に<雷炎>を放ち、起き上がった偽物に直撃した。
「ピィイイイイ!」
「俺の姿で、変な声で鳴くなぁ!」
<フラッシュムーブ>で離れた距離を一瞬で詰めると、右拳に<紅蓮>、<双牙>を使い、
「これで終わりだぁ! <疾風>ぇっ!」
偽物の胸を炎を纏った右拳がしっかりと捉えた。二重のダメージが偽物を襲い、再び苦悶の声を上げる。
「ピィイイイイ!」
「だから、変な声を出すなぁ」
止めに左ストレートを顔面に叩き込む。フェザーピックルが顔面に突き刺さり、光りの粒子となって消えた。
「やっと終わった。ったく、偽物とはいえ、仲間と戦わせるなんて悪趣味にも程がある」
巨木が神々しい光を放ち、辺りが白い光に包まれる。
「終わったかな?」
光が消えるとそこはデイジーの部屋。既に試練を終えていた三人が待っていた。
「待たせたかな?」
「大丈夫。そんなことないよ」
ミコトが首を横に振る。そして、デイジーが厳しい表情で声を掛けてきた。
「皆終わったわね。それでは、講評といきましょう」




