反撃開始
俺は驚いたのと同時に理解した。拳士という職業、武器を装備出来なかったのはこの<錬装>で自分の装備を作るからなのか。錬成装備の略か。俺はすぐにもう一つケイブバットの牙を取り出し、左手に持つと<錬装>を使う。
俺の両手に武器が装着され、俺は最も近くにいたゴブリンの腹を殴りつける。
だが、武器を装備した俺の攻撃でもゴブリンに攻撃は通じなかった。これでも火力が足らないのか。
ニヤリと笑ったゴブリンが俺の顔を横殴りにしてくるのをしゃがんで躱し、顎を下から殴り上げる。
するとゴブリンの顎を爪で切り裂くことが出来た。どうやら、素肌なら通用するらしい。
顎を切られたゴブリンが怒っているのが見て分かる。怒りで攻撃が大振りになってきた。他の四体も俺の攻撃が通用するのが分かると、慌てて一斉に攻撃を仕掛けてきた。
だが、<アクセルブースト>で素早さが上がっている俺を捉える事が出来ず、全ての攻撃は空振りに終わる。攻撃を躱しつつ、防具に覆われていない箇所を少しずつ爪で切り裂いていく。
最初に攻撃をしたゴブリンは体が血塗れになっていくが、傷が浅いのかまだピンピンしていた。
「<ファイアアロー>!」
ポーラがゴブリンコマンダーに<ファイアアロー>を放つのが聞こえた。その放った一撃はゴブリンコマンダーに当たらず、こちらに向かって飛んできた。
そして、それが俺に向かって攻撃をしようとしていたゴブリンに命中する。
「ギャー」
<ファイアアロー>が命中したゴブリンが怯んだ隙を逃さず、俺はそのゴブリンの顔面を殴りつけると、それが止めの一撃となったようで、光の粒子と化した。そして、その後にはゴブリンが装備していた武器、防具が転がっている。そして、小さな牙も落ちていた。俺はすぐにその牙を拾い上げポケットの中に仕舞い込み、次のゴブリンを狙う。
「まずは一体! 次はお前だ!」
全身血だらけのゴブリンに向かって飛び掛かると、顔面を殴りすぐに離れる。俺の居た空間をこん棒が空を切り、その瞬間に再び俺は近付き、さっき殴ったのと反対の頬を殴りつける。
もうゴブリンの顔面は血だらけだ。それに弱っているのも見ていて分かる。そのゴブリンを庇うように残り三体が前に出てくる。
だが、このゴブリン達も俺の攻撃で血だらけだ。いける。これなら俺もゴブリン達を倒せる。三体が同時に俺に向かってきた。連携と呼べるような攻撃じゃあない。全てを躱し、あの弱ったゴブリンを仕留める。
一体目の打ち下ろし攻撃を後ろに下がり躱し、二体目の下から振り上げる攻撃を半身ずらし躱し、三体目の横振り攻撃を飛び上がり躱し、そのゴブリンの頭を踏み台にして弱っているゴブリン目掛けて、飛び上がると、頭を上から殴りつける。その衝撃に耐えられなかったのか、右手の手甲が砕け散った。
「嘘、砕けたっ!?」
だが、ゴブリンは光の粒子となって消える。一体目の時と同様に装備していた武器、防具が転がり落ち、その中に爪らしきものが落ちていたので拾っておく。
ポケットからケイブバットの牙を取り出し、再び<錬装>を使う。右手に再びケイブバットの牙の武器を装備する。これで手持ちの素材は、ケイブバットの牙が残り一つと今回収したゴブリンの爪と牙が一つずつ。
こんな簡単に壊れると思っていなかったが、装備をしないとダメージを与えられない。
「あと三体とあのゴブリンコマンダー。何とかいけるよな?」
残りの三体に向かっていく。手前のゴブリンが俺を掴みに来た所をしゃがんで躱し、脇腹を防具の隙間から左手の爪で突き刺すと、ゴブリンが苦悶の表情をしながら俺を睨む。
無理にねじ込んだからか、爪が抜けない。動きの止まった俺を背後から別のゴブリンが殴ろうとしているのが分かる。
こん棒が振り下ろされた時、俺は爪を左手からはずし、横に飛び退いた。こん棒はそのまま俺の爪が突き刺さったままのゴブリンの頭を思いっきり打ち付ける。
あ、脳震盪起こしているわ。バタンと倒れた。俺はチャンスとばかりに倒れたゴブリンの顔面を殴ると、ゴブリンは光の粒子となって消えた。
地面に俺の手甲が残っていたので、すぐに回収し左手に装備し直すと残ったゴブリンを見る。残った二体は、互いに顔を見合わせ、俺をちらりと見ると再び顔を見合わせる。
言葉は分からないが、どうもお前が行けと互いに擦り付け合っているように見える。つまり、俺の方が強いと思ってくれているのに違いない。
実際には、あいつらの方がステータスは明らかに上なのだろうが、今の俺は素早さだけはあいつらの倍はある。攻撃が当たらなければ、いくら弱い俺でも負ける事はないからな。
そして、今は俺の事を無視とまではいかないが、注意が散漫になっている。ここを逃す手はない。俺は敢えて手前のゴブリンではなく、やや奥側にいるゴブリンの背後に回り、後頭部に右拳を叩きこむ。
「ギャッ」
後頭部を殴られたゴブリンが前のめりになった所を更に左拳を叩きこむと、地面に倒れこんだ。
目の前のゴブリンが突然倒れこんだため、もう一体のゴブリンが動揺している所に飛び込み、顔面を正面から攻撃する。手甲の爪がゴブリンの両目を潰した。そしてすぐにそこから離れる。
両目を潰されたゴブリンが片手で目を押さえ、もう片方の腕でこん棒を振り回す。そして、俺の狙い通り、地面に倒れこんだゴブリンが起き上がった所をこん棒が直撃する。
力任せの攻撃はこっちが見ていて、痛そうだ。喰らったゴブリンがよろよろと千鳥足になっている。俺は千鳥足になったゴブリンを一気に畳み掛ける。左右の連打を顔面に叩き込み、ゴブリンを光の粒子へと変えた。
「良し! あと一体!」
だが、最後のゴブリンがまだブンブンとこん棒を振り回している。接近して殴るしか出来ない俺にはかなり危険な状況だ。一発でももらえば一気に形勢逆転されてもおかしくないからな。
そっと背後へと回り込み、頭を低くして膝を思いっきり殴った。膝がカクっとなったゴブリンはバランスを崩して倒れそうになっている。俺はすぐにそのまま後頭部を殴り、地面に倒れこんだ所を襲うつもりだったが、後頭部の一撃で光の粒子に変わった。
「おっと。拍子抜けだが、やった。ゴブリン五体倒せた!」
倒した二体の地面には牙と爪が一つずつ転がっていたので回収し、ポーラの方を見てみる。
ポーラとゴブリンコマンダーはまだ剣を交えていた。ややゴブリンコマンダーが優勢のように見える。俺が加勢して状況が変わるか分からないが、残すは奴だけだ。ゴブリンコマンダーに向かって駆け出した。




