試練を終えて
殴り飛ばしたノゾムに追撃をしようと長老が再び拳を振り上げる。だが、その拳はノゾムに振り下ろされる事はなかった。
長老の下へ<フラッシュムーブ>を使い、一瞬で距離を詰めた俺の超近距離<空波>によって、その巨体を後ろへと吹き飛ばしたからだ。
「ほぅ、ほぅ。やりますな」
吹き飛んだ長老に追い打ちを掛けるように、ミコトが、<ウォーターアロー>、ミサオの召喚したMDが<ダークアロー>を放っている。
「おほっ、これは、これは。素晴らしい連携です。この空間でなければ、ただではすまなかったでしょうね」
「嘘……」
「この空間の回復侮れないね」
二人の魔術をまともに受けて平気そうにしている長老。実際には、魔術が当たった瞬間、血飛沫が舞った。ノーダメージでは無いはずなのだが、この空間の回復量の方が遥かに高いらしく、与えたダメージは一瞬で回復してしまうようだ。
「では、では、こちらの番ですね」
ダダダダダッ。激しい足音を出しながら、長老は猛ダッシュでミコトに向かって行く。
それを邪魔するようにノゾムが大鎌を縦斬りすると、長老は、長い鼻で大鎌の柄を掴み、そのままノゾムを持ち上げ、ミコトに向かって放り投げた。
「うぉおおっ」
「きゃあっ」
長老は、倒れた二人に駆け寄ると踏みつけるため足を大きく振り上げ、踵落としのように振り上げた足を落とす。
「させない!」
俺は再び<フラッシュムーブ>で距離を詰め、長老の巨体を支えている足を蹴り払う。ドスンと音を立て、長老が後頭部を地面に打ち付けた。
「さっきから、あなたは邪魔をしますね。ふむ、ふむ。どうやら、あなたがこのパーティの中心ですか。成程、成程。これは攻める相手を間違えたようだ」
長老は、起き上がりながら、俺の方を見る。
「アスカ!」
ミサオの声を聞いた俺は、その場にしゃがむと、俺の頭の上を<ダークアロー>が通過する。俺を壁にしてMDが放っていたようだ。
「なんの!」
長老は、飛んできた闇の矢を素手で弾く。
「へ?」
「魔術を素手で弾いた!?」
「いえ、いえ、素手では、魔術は弾けませんよ。今のはアーツですよ」
闇の矢を弾いた長老は、しゃがんでいる俺に拳を打ち下ろす。横に転がって攻撃を躱した俺は、お返しにと左拳に<紅蓮>を使い、長老の顎目掛けてアッパーを繰り出す。長老は、俺の左腕に鼻を巻き付け、拳を止める。
「あなたは武器を使わないのですか?」
「武器はこれだよ!」
右手にキメラナックルを装備し、左腕を絡みとっている鼻目掛けて拳を突き出す。しかし、長老は直ぐに鼻を左腕から放し、そのまま俺の腹を横殴りに叩き付けてきた。俺は、そのまま後ろへと吹き飛ばされる。馬鹿力にも程がある。
「これは、これは。成程。私と同じように拳技を使うのですね。面白い。あなたのような人間は初めて見ます」
「そう、ですか……」
鼻の打撃を受けた腹を押さえ、起き上がる俺に、長老がニコニコと微笑みながら、右手を前に突き出し、左手を腰の後ろに引く形で腰を落とす。
「これはどうですか?」
長老は言葉と同時に左手を素早く突き出すと、右手を腰の後ろへと引く。そして、前へと飛び出した。
「最初の突きは?」
最初の左手の突きは何だったのかと、疑問に思った瞬間、激しい風圧が俺を襲って来た。
「これは、拳圧か……!」
後ろに飛ばされないように踏ん張っていると、長老が目の前に一気に迫って来た。そして、腰の後ろに引いていた右手を俺に向けて突き出してくる。
「ちぃっ! <疾風>!」
長老の右手に合わせて、高速突きで迎え撃つ。お互いの拳がぶつかり、力負けした俺は後ろへと押される。
追撃が来るかと直ぐに身構えたが、長老は驚いた表情のままただ立っているだけだった。
「?」
「アスカ! 何やっているんだ! 今がチャンスだろ! ミコトちゃん、ミサオちゃん!」
「だから、ちゃんって言うな!」
ノゾムは<ソニックエッジ>、ミコトは<ウォーターアロー>、ミサオはMDに<ダークボール>を命じ、長老を一気に攻める。
三人の攻撃が長老に直撃した。
<ダークボール>の爆発による煙で長老の様子が分からなかったが、回復するとはいえ、流石に大怪我を負っているはず。
「嘘だろ」
「これでも駄目なの?」
「あたし達の攻撃ってこんなに弱かったわけ?」
煙が晴れ、長老の姿が現れると、そこには一切傷付いていない状態で立っていた。ただ、長老の様子がこれまでとは違うように見える。
「皆、気を付けろ。何か、長老の雰囲気が違う」
「あなた達の力、大体分かりました。いや、いや。ふむふむ。合格と言っても良いかもしれませんね……」
長老の体から赤い光がバチバチと光り始める。
「ですが、最後にこれを試させてもらいましょう」
ゴゥッと勢いよく赤い光が噴き上がると同時に長老の姿が消える。
「消えた?」
ノゾムが呟いたと同時に、長老がノゾムの背後に現れる。しかも、すでに攻撃態勢にまで入っている。
「ガァアアアッ!」
今までに無い獣のような雄叫びを上げながらノゾムの鳩尾を下から殴り、再び姿を消す。
「かはっ、ゴホッ、ゴホッ……」
鳩尾を強打されたノゾムがその場に崩れ落ちると、次にミサオの目の前に長老が現れる。
「え、G……」
「ゴァアアアッ!」
長老はノゾムの時同様、雄叫びを上げ、ミサオの顔面に拳を叩き込む。GDを召喚しようとしたミサオだったが、長老の攻撃の方が早く、後ろへと吹き飛ばされてしまった。そして、長老は再び姿を消すと、ミコトの前へ現れた。
「あ……」
ミコトがやられるのを覚悟した時、
「流石にこれ以上はやらせない!」
ミコトの前に現れるのを読んでいた俺は、<フラッシュムーブ>で二人の間に割って入ると、長老の顎を下から突き上げる形で、<衝波>を叩き込んだ。
「ガ……」
衝撃波は長老の脳を揺さぶり、脳震盪を起こすと、長老の体から発せられていた赤い光が消え、その場に倒れ込んだ。
そして、真っ白だった空間が無くなり、長老の家の中へと戻って来た。
「終わったみたいだな」
「アスカ、ありがとう」
ミコトのお礼に微笑み返し、
「それより、二人と、ついでに長老の治癒を頼むよ」
ミコトは静かに頷くと三人に<ヒール>を掛ける。暫くすると、ノゾムとミサオの傷は癒え、長老も目を覚ました。
「う、ぅん……。おや、おや、私は、気を失っていたようですね」
「長老さん、これで試練は終わりですか?」
「えぇ、えぇ。私を倒したのですから、終わりですよ」
「それじゃあ?」
ミサオが長老に答えを問うと、長老は満面の笑みで、
「勿論、皆さん、合格です。それにしても、まさか、<カラミティスタイル>を使った私を倒せるとは、想像以上ですよ」
長老の言う<カラミティスタイル>とは、あの赤い光を纏った状態のことだ。何でも、使用後はステータスが一.五倍に上がるというメリットがあるのだが、デメリットとして、狂暴化し理性が無くなり獣と化すため敵味方の区別もつかなくなるらしい。目の前の敵(要は自分以外の生き物)を殲滅する、自分が気絶する、一時間が経過するのいずれかで解除される自己強化のスキルらしい。そんな危険なスキル使用しないで欲しかった。
とにかく、長老の試練は全員合格で無事終えることが出来た。これで晴れてデイジーの本体がいる試しの宮殿に行くことが出来る。




