囚われの女神
マンイーターの駆除にデイジーが手こずっている可能性があり、樹海の中を奥へと進んでいくうちに、マンイーターとの遭遇率が徐々に上がって来ていた。
「これで何体目?」
「さあ? もう数えてもいないぞ」
「あ、あそこにも」
ミコトが次のマンイーターを見付け、それをノゾムが大鎌で刈り取る。はっきり言って、ただの雑草刈りだ。
「鎌だけに、草刈り担当だね。ノゾムは」
ミサオがケラケラ笑いながら、ノゾムを小馬鹿にしている。当のノゾムは、気にする事もなく、見付けるマンイーターを悉く刈り取っていく。
「ミサオ、流石にそれは失礼でしょ」
「ミコトちゃん、いいよ。別に気にしてない」
「まあ、本当の事だからな。それにしてもマンイーターが明らかに増えて来たな。デイジーが通ったんなら、もっと何も無いような気はするけど」
「増えて来たのは、間違いないけど、こいつらの繁殖力が高いだけなんじゃねぇの?」
ノゾムが放った言葉が正しいと分かるのに時間はかからなかった。暫く進むと俺たちの目の前に多くの鎧が転がっており、その鎧の周りをマンイーターが囲んでいる状況が現れた。
「これって、サウザート軍の兵士が装備している鎧だな」
「一個小隊分の鎧が転がっているね」
「鎧の周りにマンイーターが集中している。何か種子みたいなものを放出していないか?」
マンイーターの花から金色に輝く粒子が放出されていた。恐らくマンイーターの種だろう。サウザート軍の兵士を消化して養分として吸収したのだろう。十分な養分を取ったマンイーターが更に数を増やそうと種を飛ばしているのだ。
「とりあえず、全部刈り取ってやる」
ノゾムはちまちま刈り取るのが面倒なのか、アーツを使って周辺一帯のマンイーターを全て刈り取った。
「<ソニックエッジ>、追加効果<サークルエッジ>」
「本当にお前の固有能力は便利だな」
「いいだろう。羨ましいだろう。でも、俺は、お前の救世主という立場の方が羨ましいよ。本当に」
「女になってもか?」
「うっ、それは嫌だけどさ」
「ほら、次が出て来たよ」
かなりの頻度でマンイーターが生えている所に出会す。これは、この辺りに何かあると思った方が良いだろう。
「ほらよっ、と」
ノゾムが大鎌でマンイーターを刈取っている間に俺は<探知>を使ってみると、お、何か反応した……? これは!?
「見つけたっ!」
「びっくりした。いきなり大きな声出さないでよ!」
ミサオのクレームは無視して、反応のあった方を見てみる。木が邪魔で良く見えないが、この先にデイジーがいる。
「アスカ?」
「この先にデイジーを見つけた。行くぞ」
「本当に!?」
「ああ。だけど、まだこんな所に居るってことは、マンイーターが想像以上に繁殖しているのかもしれないから、気をつけよう」
「分かった。デイジーちゃん、今行くぞ」
俺の予想は的中していた。マンイーターが辺り一面に咲き乱れていた。ノゾムが刈りまくっているが、近付けば根っこで攻撃をしてきて鬱陶しい。
「燃やした方が早いのにな」
「ダメだよ! アスカ。樹海まで燃えるよ」
「分かっているよ」
とは言ったものの、多過ぎる。根っこを避けながら、俺がデイジーの反応を感じた場所に辿り着くと、そこにデイジーの姿は見えなかった。
「アスカ、デイジーちゃんいないぞ?」
「ねぇ、それよりも何? あれ?」
ミサオが指差した場所には、巨大なマンイーターの花。今まで倒したマンイーターと比較にならない程デカい。高さは二メートル。花の大きさも一メートルはある。
そして、その横にはマンイーターの根の塊? みたいなものが地面から直立する形で立っていた。
「あれもマンイーターなのかな?」
ミコトが疑問を声に出した時、その巨大なマンイーターが揺れ始めた。風は吹いていない。他の小さなマンイーターも揺れていない。巨大なマンイーターだけが揺れている。
「危ない!」
ノゾムが叫んだ瞬間、マンイーターから緑色の液体が飛ばされた。俺たちは四方に散開して、その液体を躱すと、その液体は仲間であるマンイーターを溶かしてしまった。
「こいつ、今までのマンイーターと行動パターンが違う」
「こいつが元凶か!」
ノゾムがそのマンイーターに向けて大鎌を構えると、直立しているマンイーターの根の塊がズズズと音を立てながら動き出すと、その先が開く。その中から見えたのは、
「デイジーちゃんっ!」
マンイーターに捕らわれていた女神デイジーだった。マンイーターの根に捕らわれているデイジーはぐったりしていて、ノゾムの呼び掛けにも応えない。そして、デイジーを捕らえた根の塊は、マンイーターの前へと移動する。
「こいつ、デイジーちゃんを盾に」
ノゾムの足が止まったと同時に、周りのマンイーターの根がノゾムの足に絡み付き始める。
「しまった」
「ノゾム!」
「きゃあっ!」
「ちょっと!」
気が付けば、ミコトとミサオもマンイーターに捕まっている。そして、俺の足下にも俺を捕まえようと根が迫ってきていた。
「こいつら!」
俺は直ぐに駆け出し根っこから逃れる。根っこは執拗に俺を追いかけてくる。他の皆はブチブチと根っこを引き千切ってはいるが、迫ってくる根っこの数が多すぎ、見る見ると体を包まれていってしまっている。
「ヤバいぞ。このままじゃ全滅だ。ミサオ、人形は?」
「ダメ! 何でか分からないけど、呼び出せないのよ!」
根っこにアーツやスキルを封じる力でもあるのか? ノゾムも首を横に振っている。どうやらノゾムもアーツを使えないらしい。
「しょうがない。もう駄目とか言っている場合じゃない。後で文句言わないでくれよ!」
俺は右手に<紅蓮>を使う。
「ちょっと、アスカ!」
ミサオが文句を言おうと叫び声を上げるが、文句は聞かない。
「燃えろ!」
俺を狙ってきたマンイーターの根っこを炎を纏った右手で払い除けると、根っこは瞬く間に燃え始めた。燃えた根っこは暴れ回ると、周囲のマンイーターに次々と燃え移る。
「おぉ、予想以上によく燃えるな」
「熱っ」
「ちょっと、燃えてる」
「<ウォーターアロー>!」
ノゾムたちを捕らえていた根っこも燃え、自由となったのは良いが、ノゾムとミサオの服にも炎が燃え移ってしまい、それをミコトが<ウォーターアロー>を上手くコントロールして消火した。
ミコトは、辺り一面に燃え広がり始めた炎に向けて<ウォーターアロー>を次々と放ち、消火していく。
「アスカ、やってくれたわね!」
「助かったけど、次は勘弁な」
「それよりも、ノゾム」
俺はあの巨大なマンイーターの方を指差す。そこには根っこの塊が燃えて、束縛から解き放たれたデイジーが意識を失ったまま地面に倒れていた。
「デイジーちゃん! <ディメンジョンスラッシュ>!」
ノゾムが大鎌を振るうと、離れたマンイーターの体がノゾムの振るった軌跡と同じようにその体を真っ二つに割り、光の粒子となって消えた。
「あ、光の粒子になった」
「本当ね」
すると、周りに生えていた燃えずに残っていたマンイーターも光の粒子となって消えていく。
「あれが本体だったって事か」
「そうみたいだな。それより、デイジーちゃん!」
ノゾムは地面に倒れたままのデイジーの下へと駆け出すのだった。




