盗賊と親友
ティバルを出て暫く進んだ所にティバル族の族長達から聞いていた盗賊のアジトを見付けた俺たちは気付かれないようにアジトへと向かった。
アジトを目視出来る位置まで近付くと、何やら様子がおかしい。
「何? やたらと騒がしいけど、バレたの?」
「ちょっと待て、<探知>で確認してみる」
<探知>でアジトの様子を確認すると、どうやら誰かが盗賊相手に戦っているようだ。
「誰かが盗賊相手に暴れているみたいだな」
「え?」
「先客?」
どうやら戦っているのは一人みたいだ。一対多数で戦っているようだ。これは、チャンスかな?
「ティバル族と思う人たちが囚われている場所を見付けたぞ」
「ねぇ、今誰か戦っているのなら、先に逃した方が良いんじゃない?」
「ミサオ、それじゃあその人が大変じゃない」
「いや、ミサオの言う通りだよ、ミコト。今、盗賊たちの注意がそっちに向いて、囚われている場所には見張りも居ないようだ。ティバル族を逃がそう」
「アスカまで! その人を見殺しにするつもり!?」
「いや、俺はそいつを手助けする。二手に分かれるんだ。その方が遠慮なく戦える」
「分かったよ」
俺は二人にティバル族が囚われている場所を教える。
「アル、二人に付いて行ってくれ。もしもの時はお前のパラライズブレスで二人の援護を頼む」
「分かったよぉ」
アルが<空納>から出て来て、ミコトの肩に止まり、任せろと言わんばかりに翼を広げて見せた。
「よし、行くぞ!」
俺たちは二手に分かれ、俺は盗賊たちの下へと走り出した。
「おら、お前らどうしたんだ!? たった一人に殺られて悔しくねぇのか!?」
「うるせぇ! てめぇこそ、たった一人でのこのこやって来て、生きて帰れると思ってんのか!? おぉっ!?」
「お前らみたいな外道に殺られるような俺じゃないさ。どうした?俺を囲むだけで、何もしないのか?」
「こいつ! やっちまえ!」
盗賊たちに囲まれた男が煽った結果、弓を持った盗賊たちが一斉に男に向かって矢を放つ。
「無駄だよ! <サークルエッジ>!」
男は手に持っていた大きな鎌を頭上でクルクルと回すと、全ての矢が弾き飛ばされる。
「馬鹿な! 撃て、撃て!」
盗賊の頭が追撃を命じると、再び無数の矢が男に降りかかる。
「何度やっても無駄だって。<サークルエッジ>、追加効果<ソニックエッジ>!」
再び男が鎌を頭上で回転させると矢を弾くだけでなく、周囲全域に斬撃を飛ばす。斬撃に気付かなかった盗賊が何人か体が真っ二つとなり倒れる。
「ぎゃあっ」
「何だ!? こいつ、今、何をしやがった!」
「へぇ、今ので全滅出来たと思ったのに、結構やるじゃん」
男が鎌を身構えると、男の背後から盗賊の悲痛な叫び声が聞こえ、人が地面に倒れる音がした。
「ぐえっ」
「ぐはっ」
「てめぇ、誰だ! ぐはっ」
「誰か知らないけど、助太刀するぞ!」
俺は盗賊たちに囲まれた男に声を掛ける。なんか、森林警備隊みたいな格好に大鎌を構えていて、不思議な格好をした男だったが、何故か、この後ろ姿に見覚えがあるような気がする。
「助太刀なんて必要ねぇけど、まっ、してくれるって言うなら有り難く受け取っておくわ」
男は後ろを振り向く事なく、左手を上げ、俺に礼を言う。
「え、この声……」
聞き覚えのある声。だが、今は気にしている場合では無い。
俺に向かって次々と襲い掛かってくる盗賊の攻撃を躱し、カウンターにキマイラブロウを装備した右拳を叩き込んでいく。
「後ろの助っ人はなかなかやるみたいだな。声が女の子っぽかったけど、ま、いいか」
男は両手で鎌を持ち、前へと駆け出す。
「おら、裂けろ! <サイドリッパー>!」
鎌を大きく後ろに振りかぶり、そのまま水平に薙ぎ払うと前方に居た盗賊五人が体を上半身と下半身に分けて倒れる。
「ひぃっ! こいつら化け物みてぇに強ぇ!?」
「ちぃっ、怯むな! 数はこっちの方がまだ多いんだ! やれ、殺っちまえ!」
男は、盗賊の頭に視線を向けると、
「お前を殺れば、後が楽になりそうだな。亜人族の女の子達にした行いを悔いて死ね! <ディメンジョンスラッシュ>!」
男はその場で鎌を縦に振るうと、離れた位置に立っていた盗賊の頭の目の前の空間が黒く裂け、体が縦に真っ二つに割れた。
「うわっ、お頭!」
「見たことも無いアーツ……。俺は死にたくねぇ。ここは逃げるに限るぜ!」
頭がやられ、盗賊たちがバラバラに動き始める。逃げる者、まだ戦おうとする者。そして、人質を取りに行こうとする者。
「逃さねぇ!」
男は逃げようとする盗賊から先に片付けようと、走りながら<ソニックエッジ>で片っ端から盗賊を狩っていく。
「あいつ、やるなぁ。というか、やっぱりあいつなんだな……」
おっと、あいつより俺はこっちだ。人質を取りに行こうとする盗賊の目の前に<フラッシュムーブ>で移動し、顔面を殴り飛ばす。
「人質は取らせないよ」
男の活躍で、盗賊が全滅した頃、ミコトとミサオがこっちにやって来た。
「あ、もう終わってる。あたしの分は?」
「無いよ。あいつが全部片付けた」
俺は鎌を背中に背負ってこっちに歩いてくる男を指差す。
「やぁ、お嬢さんたち。手伝ってくれてありがとうなっ!」
「まさか、こっちで会うとは思わなかった」
俺の呟きを聞き逃さなかったのか、ミコトが質問してくる。
「アスカ、知り合い?」
「ああ。出来れば、会いたくなかった……」
男が俺たちの目の前で止まる。
「望、お前もこっちに来てたのか?」
「うん? 君、俺の事知っているのかい?俺は君みたいなかわいい子だったら、会った事があれば、絶対忘れないけどな」
「お前、相変わらずだな……」
俺が呆れた顔でいると、ミサオもミコトと同じ質問をする。
「アスカ、知ってるの?」
「うん? 飛鳥?」
「何だよ?」
「飛鳥って、あの飛鳥? そう言われたら、女の子っぽさが増しているけど、飛鳥の面影あるわっ! ぷっ。何、お前、異世界召喚されたからって、ついに男辞めたのか!」
「誰が辞めるか! 呪いだよ! 呪い!」
「こっちに召喚された奴で呪われた奴とか聞いてなかったけどよ。そうか、お前が噂の七人目の召喚者だったのかよ。それにしても、くくくっ」
「笑うな!」
「悪い、悪い。あ、俺は、そこの飛鳥と親友、幼馴染って奴で、深見 望。こっち風に言えば、ノゾム・フカミだ。アスカ、そっちのかわいい二人は紹介してくれねぇのか?」
「お前に紹介したくないけどな。ミコトとミサオだ」
「ミコトです。よろしくお願いします」
「ミサオだよ。よろしくね」
「じゃあ、ミコトちゃんにミサオちゃん、よろしくついでに、今晩どう?」
俺の右拳がノゾムの鳩尾に突き刺さった。




