4,初めての戦い
南エリアの森は現実の森に劣らず、木漏れ日の気持ちいい綺麗な場所だった。
「あ、見つけた。」
私とカブちゃんは森で獲物を探しがてら薬草獲りも行っていた。
課金特典のポーションは現状使いたくない。自分たちのレベルにあったアイテムを見繕うのは大事なことだ。
薬草をたくさん見つけておけば私の錬金にも使えるしね。
薬草を見つけると言っても、私とカブちゃんは採集にボーナスがかかるようなスキルは持っていない。
そのため、掲示板に乗っていた写真を頼りに、雑草らしき植物を鑑定しては採集、鑑定しては採集、と繰り返している。植物知識関連のスキルがあるかはわからないがきっとあるのだろう。現状、私のスキルポイントはゼロだし、錬金もとりたいから、おそらく手に入れることはないだろうけど。
「………--!」
カブちゃんも先ほどから薬草を見つけるのを手伝ってくれている。スキルを持っていないから外れる確率の方が高いけど、手伝ってくれるだけでうれしいので問題ない。
ちなみに、わたしが使っている『鑑定』はスキルではない。プレイヤーに備え付けられたパッシブだ。
この鑑定を使えば武器の使い方も、能力も全てわかる…なんてことはなく、名前がわかるだけの言ってしまえば名ばかりの不良品だ。自分で作った武器の情報はさすがにわかるみたいだけどね。私にそんなスキルはないし、知らない物を見つけたら専門職に任せろってことなんだろう。ぼっちプレイは確定事項だけど、他プレイヤーと全く協力できないわけではない。どこかで頼れる友達を作りたいものだ。
最初にランダムボックスでもらった『孤軍奮闘』には説明がついていたが、あれはランダムボックスの仕様だ。「初心者得点でもらったスキルが自爆スキルで課金特典のお金が無くなりました。」なんてことにならないようにあそこでは説明が見れるのだろう。
「よし、ある程度集まってきた。」
そんなこんなで薬草を10本ほど集めた。これだけあれば私たちの回復には十分だ。
錬金をとって使用するときも、これくらいあれば一度はできるだろう。
「-----!!」
「ん、カブちゃんどうしたの?」
カブちゃんの声色が先ほどまでと違うため、そちらに振り返ると、カブちゃんがにらみつけている茂みがゆさゆさと動くのが見えた。
もしかして敵!?
初めてのエネミーモンスターとの遭遇に私も思わず身構える。
物理攻撃が主体ではない私は、現在丸腰。いつでも魔法を放てるように右手に緊張感を持たせるが、その手はじっとりと汗ばんでくる。
しばらく茂みとにらみ合いを続けていると、私たちの警戒心に気づき、奇襲をあきらめたのか、カブちゃんの警戒していた茂みの中から茶色の物体がゆっくりと姿を現した。
『レッサーボア』
柴犬ほどの大きさだろうか。小さな足と、生えたばかりに見える牙。丸い体躯と荒々しい毛並みを持つこの獣は鑑定によるとレッサーボアというらしい。
「フグググググゥゥゥゥ……」
レッサーボアは完全に臨戦態勢、前足で地面をかき、鼻息を鳴らしてこちらを威嚇してくる。
「カブちゃんいけそう?」
「ーーー!!!!」
私は初めての戦闘に不安を感じ、思わず声をかけたがカブちゃんはやる気満々。
相手をにらみつけ、早く戦わせてくれと言わんばかりの張り切りようだ。
「フグゥ!!!」
そんなカブちゃんに触発されたのか、先手を取ったのはレッサーボア。小さな足で大地を蹴り、こちらに向かって突進してきた。
土煙を巻き上げるその勢いに驚いたは私は身を投げだして回避する。
しかし、カブちゃんは避けることなくボアの突進をにらみつけていた。
「カブちゃん!?」
私が声をあげるも、カブちゃんには聞こえていないのかその場から動き出そうとしない。
どうして!?このままじゃ直撃しちゃう!!
私が焦っている間にボアが突進をやめてくれるわけもなく、カブちゃんとの距離はもう避けることのできないほどに縮まっていた。
あぶない!!
ドン!!
カブちゃんがボアにぶつかった瞬間、カブちゃんの体はフッ飛ばされ、そのまま体力はそこをついてしまう。私たちはまだLv1。いくら序盤とはいえ低い体力ではあそこまで勢いのついた攻撃を受けきることはできない。と私はそう思っていた。
「!?」
しかし、カブちゃんは全くその場から動いていなかった。
私が避けても。危ないと叫んでも。ボアがぶつかっても。全くその場から動いていなかった。
受け止めたのだ、自慢のその角と、たくましい体で。
驚いた私はその場でフリーズしてしまうが、それはボアも同じ。
何だこいつと言わんばかりに数歩後ずさる。
その隙をカブちゃんは見逃さなかった。
開いた間合を詰め、角をボアの顎下に突っ込むとそのままカチあげた。
強烈なアッパー。現実の世界で自重の100倍の重さを動かすと言われているその力は60キロはあるであろうイノシシを勢いよくフッ飛ばした。
「フ、フグゥ…」
フッ飛ばされたイノシシはそのまま地面に転がされ、光の粒子となり消えた。
「つ、強い…」
最初期マップとはいえ、モンスターを一撃で…。カブちゃんこんなに強かったのか…
とうのカブちゃんは角を空高く突き上げ勝利の雄たけびを上げている。まだまだ元気という感じだ、突進を正面から受け止めたというのに。
『孤軍奮闘』。初めは困惑した。課金してまでも手に入れたスキルがとんでもない制約を持っていたのだから。しかし、この戦闘力。カブちゃんの強さを目の当たりにするとあの時の判断は間違っていなかったと確信できる。
これはとんでもない…
「ーーー?」
私が若干引いていると、カブちゃんは不思議そうにこちらを見上げる。
「あ、カブちゃん。ううん、何でもないよ、よくやったね!!」
この子はすごいカブトムシになる。
そう感じた瞬間だった。
・
・
・
・
・
・
「チューゥ…」
『レベルが上がりました』
ボアを狩った私たちはその後も調子よく狩りを続けた。
今倒したのは「レッサーラット」。かなりすばしっこいが、逃げずに攻撃してきたのでカブちゃんがまたも一撃で屠ってしまった。私の支援魔法の練習もしたかったんだけどね…
ラットとの戦闘はこれで三度目。そろそろかなと思っていると都合よくアナウンスが響いた。
―――――――――――――――
名前:カブト Lv2
種族:ピクシー
職業:テイマー
体力:6
攻撃:4
魔力:9
防御:4
魔防:5
素早:12
器用:7
【スキル】
支援魔法、光魔法、逃げ足、テイム、錬金
―――――――――――――――
カブちゃん Lv2
体力:10
攻撃:13
魔力:3
防御:6
魔防:6
素早:4
器用:2
【スキル】
突進、突き上げ、ぶん投げる、飛翔、孤軍奮闘
―――――――――――――――
「おぉ、カブちゃんすごい。」
私のステータスは錬金をレベルアップ時にもらうスキルポイントで入手したこと以外さして言うことはない。が、カブちゃんは一気に攻撃が3も上がっている。その代わり器用度が一切上がっていないが、この値はそもそも生産に関係するものだからカブちゃんは関係ないだろう。
「---♪」
レベルが上がったことがうれしいのか、カブちゃんもご機嫌だ。
そんなカブちゃんを見ていて私は思うことがある。
この子なら最前線を張り続けられるのではないだろうかと。
最前線それすなわち攻略組。
ゲームを開拓し、皆に最先端の情報をちりばめる。珍しいアイテムに強い装備。かっこいい武器にかっこいいスキル。レイド戦にもなれば大活躍のゲーマーの夢!この子はそれになれる!
カブちゃん…任せなさい…私があなたを男にして見せるわ…
カブちゃんの強さを見せつけられ、この才能を埋もれさせてはならぬと新たな決意を胸にした私は、カブちゃんと共にこの森を真っ先に攻略することを決める。
今だに街にいるとか古いんですよ!時代の最先端は常に外界にあるのだから…
「カブちゃん!今から私たちはこの森を攻略し、第2エリアを目指します!私に戦闘能力はないので、申し訳ないですけど戦いはほとんどカブちゃんに任せます!いいですか!」
私のとてつもなく弱気な宣誓が森に響く。だらしないテイマーですまない…
しかし、カブちゃんはそれでも元気に答えてくれる。
「ーーー!!!」
「よーし!それなら街に戻ることなく、このまま先に進みましょう!今日中に第1エリアを突破して皆の度肝を抜いてやりましょう!」
私にはやれる気がしないけど、あなたならできる!精一杯サポートさせていただきますよ!カブちゃん!
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