2,カブトムシ
半ば、強制的にぼっちプレイを強要されることとなり、茫然としていると、キャラクタークリエイト用の白い部屋の中に何ものかが侵入してくるのが見えた。
驚いて、声にならない声をあげる私だったが、入ってきた人はこちらに向かって警戒しないでくれと言わんばかりに両手を振って無害アピールをした。
「お、驚かせてしまいすみません、カブトさま。私は運営の者です。
カブト様がランダムボックスで入手したスキルについて確認をとらせていただきたく…」
な、なんだ、運営の人だったのか、よかった。真っ白な壁を突き抜けて入り込んでくるもんだから何ものかと思っちゃった。
「あ、はい、運営の方ですか。」
「はい、カブト様が入手した『孤軍奮闘』について何ですけれども、元々はランダムボックスから手に入るスキルではなく…。そのため、カブト様には今後どのような対応をとらせていただくか相談したく。なにせ、ソロプレイを強要してしまうものですから。本来はスキル取得時に選択ができるタイプのものなんです。」
運営の人は申し訳なさそうな顔で事情を説明してくれた。
「なので、カブト様はもう一度ランダムボックスを引いていただくことができるのですが…いかがいたしましょう。」
あ、引き直しできるんだ。
うーん、どうしようかな…運営がスキルの存在を消す、んじゃなくて、引き直しをさせるってことは、このスキル事態に問題はないんでしょ?ただ、普通のプレイができなくなるだけで…
私はもともとカブトムシをテイムしたいがためにテイマーになったんだし、別段このままでも不都合はないよね。他のモンスターで捕まえたい奴は今のところいないし。いや、まだ先のことはわからないけど…
「このスキルがあったらプレイに支障が出るという話ではないんですよね?」
「はい、それは保証させていただきます。」
だったら、私はこのままでもいいかな。人と違うプレイができるって言うのも面白そうだし!そうだよ。前向きに考えてみれば、ランダムボックスから通常手に入れることのできないスキルを私は手にれたんだ。なんか、特別感があっていいじゃないか!
「なら、このままで結構です。面白そうですし!」
「はい!たとえソロプレイでも楽しめる保証はさせていただきます。
カブト様、今回はお手数おかけして、申し訳ありませんでした。引き続きGWOをおたのしみください。」
運営さんはそう言うと光の粒子となって消えていった。
よし、何かさっきよりもやる気がわいてきた!一人でも頑張って、カブトムシと空を飛んでやろう。
「ゲームを開始しますか。」
運営さんの消えた部屋にキャラクリ時と同じ声のアナウンスが流れ出す。
「お願いします!」
その声に返事をすると、先ほど運営さんを包んでいたような光が今度は私を包み込む。
視界が真っ白になり、中央には「Now loading」の文字が……
・
・
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段々と文字がかすれていき、視界に色が戻ると、そこにはザ・ファンタジーな街並みが広がっていた。
「わぁ…」
フルダイブのゲームを始めた時のこの感動は何度味わってもやめられない。
あまり、海外旅行などをするタイプではないが、こういう光景には心が揺さぶれるものがある。
「----」
少しばかり景色に見とれていると、私の足を何者かがぐいぐいと押してきた。
周りに人はいるものの、皆、ピクシーである私より身長は高い。もしやと思い視線を足元に向けると。
「----!」
「かっ!!!!」
こげ茶の体に、細くも力ずよい六本足。丸く、可愛らしくデフォルメされた目に、ひげのようなふさふさ、そして何より大きな角が私に押し付けられていた。
『名前を付けますか?』
「可愛い!!!!」代
メッセージウィンドウなど無視して私は足元の子犬代カブトムシに抱き着いた。
「-----~~!!!!」
私はカブトムシのカッコよさはわかるが、カブトムシのことがとても詳しいわけでも溺愛しているわけでもない。しかし、このカブトムシは。ゲームの中のカブトムシは特段可愛く、私の琴線に触れた!
感情が爆発し、抱き着いてきた私を迷惑そうに引きはがそうとするカブトムシ。あぁ!爪が刺さっていたいから抵抗しないで抱きしめられててくれ!!
「君が私の唯一の相棒なんだね。」
「-----?」
カブトムシ目を見て語り掛ける。
私の言葉を聞いて不思議そうに首を傾けるカブトムシ。おそらくスキルのことがわかっていないんだろう。大丈夫、話は通じてるみたいだからあとで説明してあげよう。納得してくれるかはわからないけど。
「あなたの名前はカブちゃん!カブちゃんにする!」
カブちゃん Lv1
体力:8
攻撃:10
魔力:2
防御:5
魔防:5
素早:3
器用:2
【スキル】
突進、突き上げ、ぶん投げる、飛翔、孤軍奮闘
「----!」
名前を付けたことが分かったのか、カブちゃんは私の手に角をこすりつけてきた。
握手のつもりだろうか。握り返したその角はとても勇ましく、心強かった。
「これから一人と一匹で頑張ろうね!」
「----!」
オンラインゲームでソロプレイ。
何となく、楽しんでプレイができる。私はそう感じた。
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