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第4章 「面のアイダ」

第4章 ー面のアイダー



世界は誰のモノだろう。


人?物?それとも神?


地球においては人間は頂点であろう。

しかし地球は人間のモノかと問われれば、些か違う。


そこで「地球は人間のモノではない!だから自然を汚すな!!」という意見もあるが、それもまた人間本意の考えであり、地球を下に見ているようにも見える。


まぁここでは地球は人間のモノとしておこう。


しかし、宇宙に目を向けるとどうだろう。

宇宙を理解していくと、人間かどれほどちっぽけか解るだろう。


銀河を知れば、人間がどれほど空虚か知るだろう。


知れば知るほど、手に入れれば手に入れるほど、世界はその人から遠ざかる。


そこで世界は自分のものだと言う人は、強欲な王か本物の先導者か、はたまた、



馬鹿な蛙だけである。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「今日は何しよっか」

長袖の黒いワンピースとポニーテールを揺らしながらアキは言う。


「あ! そういえば面白そうなこっー」

いつも通りのツムギの返事が突然止まる。

ここまで全ていつも通りだった。

経験したことがあり、これからも経験し続けるであると。


しかし、違った。


アキの隣には誰もいない。

後ろに目を向けると、1つの方向を凝視するツムギ。


あぁ、見たくないな。


本能が警告する。

細胞がサイレンを鳴らし、魂が赤く点滅する。


また、これか。


ドアは厳重に封印したはずなのに、鍵の開く音が聞こえた。

鍵穴すら塞いだのに、何も意味をなさなかった。


顔は動かせず、視線のみ、黒目のみそちらに向ける。

視線が揺れる。


ユラユラと歪み、亀裂を生む。


その亀裂をこじ開けて、入ってくる。

小さかった隙間はみるみるねじ広がり、人が通れるようになる。


そこから、‘終わり‘がニタリと笑った。




一人の男の姿。

静止した世界を歩く男。

私達以外の存在。


彼等だけの世界は終わりを迎えたのだった。




ザッ!


ツムギはアキの手を引き、建物に隠れる。


男はこちらに気づいているのか?

わからない。


隣を見る。

瞳孔の開いたアキが、困惑している。


僕がどうにかしなくちゃ、か。


様子を伺う。

男は何気なく歩いている。


僕たちと同い年くらいだろうか。


どうするのが正解だ……?



普段の日であったら何でもない事柄。

しかし、この日では勝手も何も違う。


心を落ち着かせる。


この日に他人と喋るのは初めてだ。


不意にそう思う。


ん?

初めてなんかじゃないじゃないか。


何を思ってるんだ。

アキのときと何も変わらないじゃないか。


何で初めてだなんて思ったんだろう。



そう思いながら立ち上がる。

グイッ


立ち上がる力とは反対への力。

アキが袖を引っ張ったのだ。


アキは何かを呟いている。


「……、ぁ…………っ」


うまく聞こえない。

アキも同様している。


「大丈夫だよ、相手はただの人間だよ。 しかも年も近そうだ。 少し話を聞いてくるから」


そう言ってアキの手を振りほどき、歩き出す。

ただ話を聞くだけ。


そう思い道に出ると男の姿は無かった。


「あれ……?」


「誰??」

知らない声が世界に響く。


「ーーえっ」


男は後ろに立っていた。

気配もなく、この世界の置物のように静止して。


幽霊の様に溶け込み、しかし一度見つけてしまえば目を離すことができない。

瞳をこちらを仕留め、逃げることができない。


生きているのに生気が見えず、しかし狩りをする狼のように瞳は生気を奪う。


その男は

世界に揺蕩う、


幽霊の様なそんな男だった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



男の名は由利泉(ゆりいずみ)

最近、この街に引っ越してきたそうだ。


「驚いたよ、俺以外にいたなんてね……。 しかも二人」


「こっちのセリフだよ、心臓が止まるかと思ったよ」


「はは、それじゃあナメクジと一緒じゃないか」


「ナメクジ?」


「あー、ごめんごめん。 俺は動けない世界をナメクジって呼んでるんだ」


「ナメクジ、か」


「そうそう、実際は止まっていんじゃないかな…。 ただ一日遅く動いてるだけじゃないかって」


「遅く、か。 じゃあ遅れた分の調整でこの日があると?」


「少なくとも俺はそう思ってるね。 そう、ただのうるう年さ」

男の口は少し笑っていた。

しかし、目は笑わず、静かに世界を睨む。


「君たちはどう思ってるの? ……この日のこと」

その目がこちらに傾く。


「そうだな……、僕は、少なくとも僕らが普通とは違う物を観測できてるんだと思う」


「へー」

半目であった瞳が大きくなる。


「幽霊とか超能力とか信じてないけど。 でも、味に色彩を感じる人や食感に音色を感じる人がいる。 ただそれだけなんだと思う。 特別な存在じゃなくて、特別の中の普通」


「ずいぶんと自分を卑下するんだね」


「生まれつきでね」


そして彼の目線は奥へと向かう。

ひとり下を向き、心がこの場所に存在しない彼女。


焦点があわず、何かに怯え、閉ざしてしまっているアキ。


「君はどう思うの? えーっと、名前は……」


「この娘はアキっていいます」


「……アキちゃんか。 この世界のこと、自分のことどう思うの?」


「……………」


自分が振られているのに気づかず素通りするが、彼の眼に気づき慌てる。


「ぁ、私は……」


考えている。

カラカラの雑巾を絞るように、頭から考えを絞り出す。

しかし水は1滴たりとも出なかったようだ。


「……わからない……です」


「そっか」

由利泉はそう言い、段差から飛び降りた。


「案内してよ。 この街のことまだあんまり知らないんだ」


「いいよ! 秘密の場所も教えてあげる!」

そう言った所で、ツムギの裾がギュッと掴まれる。


虚ろな目がこちらを見る。


秘密基地には案内しなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



本当にわからなかった。


この世界のこと、自分自身の事。

だって考える必要も無かったから。


こんな私に神は1年に一度のみ、この世界をくれたのだ。

そう思ってきた。


そして相手が欲しくなって、神が相手をくれた。

これは私の夢で、彼は理想の男性で。


1日だけでも理想を体現してくれたはずだった。


でも違った。

観測者が2人ならまだ互いの夢だ。

互いに見えるものは点で、証明できない。


しかし第三者が現れたら?


それは現実となり、奥行きが生まれる。

世界が立体として捉えられ、観測されていた世界は確定された。


この世界とは何なのか。

自分自身とは何なのか。


その世界に生きた少女は否定され、また再構築を始める。

彼女の妄想は現実となり、逃げていたはずの現実が広がっていく。



「1日だけでもいいじゃない、ずるい……」


そう呟やいた。


















ーーーーーーーーーーーーーーー


10月1日




この町に、殺人事件が起こった。






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